
練習前や試合前に必ず行われるウォーミングアップですが、競技種目や各チーム・個人によってそれぞれ内容は異なります。その内容の多くは伝統的に行っているものや、流行りを取り入れたもの、または誰かに教えてもらったものなどさまざま。
僕自身も高校のときに行っていたウォーミングアップは、どのような意味があるのか細かくは理解していませんでしたが、身体を動かしやすくするために行っている、その程度の理解でウォーミングアップをこなしていました。
ウォーミングアップのときに、よくストレッチも行っていましたが、何気なくしているストレッチの内容によっては筋力の低下が起こると言われています。
そのため、ウォーミングアップ時のストレッチの是非についてさまざまな見解がなされるようになり、選手自身ももしかするとストレッチはマイナスになるかも?という認識を持たれている方も増えてきています。
今日はこのウォーミングアップ時に行うストレッチについてお伝えしていきたいと思います。
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Contents
一般的に行われるウォーミングアップの内容について
高校時代僕は野球部に所属していましたが、そのときのウォーミングアップは、
- ランニング
- 体操
- ストレッチング
- ダッシュ
このような流れが基本であり、キャッチボールの前に肩周りの体操を加え、そこからキャッチボール、バッティングと続いていくのが基本の流れでした。
みなさんが経験しているウォーミングアップの内容も以下のような流れになっているのではないでしょうか?
ランニング
グランドなり、校舎の周りなどを3~5周走って身体を温める。
現役時代のことを思い出すと、練習がきつかったのでウォーミングアップではいかに身体が疲れないように走るか、そのペースを保つかを考えていたように思います。時に疲労が溜まっていると感じたときは、グランド1周で終わったときもあったぐらいです。
この3~5周というのは、意味合いはあまりなく、“とりあえず”これぐらいを走っておけばというぐらいの感覚で走っていたと思いますが、本来は意味があることで、この周数もある理由から決定する必要があります。
多くの選手はもしかすると、同じような感覚で走っているかもしれません。
スタティック(静的)ストレッチング
ランニングが終わると、地面に座り前屈をしたり、開脚をしてスタティック(静的)ストレッチングといって、みなさんが理解されているあるポージングをとり、筋肉を伸ばし続けるようなストレッチングを行います。
方法はいいとして、冬の寒い時期でも同じように寒風が吹く中で、夏場と同じようにランニングでせっかく身体が温まったのに地面に座ってストレッチングをして身体を冷やしている選手もみかけます。
ダイナミック(動的)ストレッチ
続いて、いわゆるラジオ体操のような身体を動かしながら筋肉を緩めるストレッチを行っているかもしれません。
スタティックストレッチングと順番が逆のところもあると思いますが、このような体操を行っている選手をよくみかけます。
ペアストレッチング
個人で行うストレッチが終われば、次はペアになって行うストレッチングに移っている光景をみかけます。
ダッシュやランメニューに移行
上記のようなストレッチが終われば、次はダッシュをしたり、僕は野球をしていましたので、その野球で使う動きを取り入れたランメニューをこなしていました。
このような流れが一般的というか、多くのチーム、部活でみかける機会があり、もちろん素晴らしい内容でされているところもあると思いますし、すべてが間違っているということではないと思います。
ここで大切なことは、今行っているウォーミングアップの内容は、どのような目的を持ち、どのような意図で、どのように行っているのか、そういった点を理解した上で実践しているのか。
それともこれまでチームが行ってきたことを継続的にこなしている状態なのか、これらは大きな違いになります。
ウォーミングアップは軽視されがちですが、自分が持っている力を発揮するため、またケガを防止するためには重要な位置をしめます。
さて、次はウォーミングアップ中に行うストレッチの是非について、研究結果をもとに現場でどのような内容をすればいいのか、そのあたりについてお伝えしていきたいと思います。
ストレッチの研究から見えてきたこと
2000年以降、数多くのストレッチに関する研究が行われ、その結果がトレーニング系の雑誌などに掲載されています。
そのひとつを参考にストレッチの是非について考えてみたいと思いますが、研究内容は以下の通りになります。
■2010年9月号 トレーニングジャーナルの内容より
スタティック(静的)ストレッチングはパフォーマンスを低下させるのか?ということをテーマに書かれています。
siatrasら(2008)は膝関節伸筋群に対して、10、20、30秒、及び60秒のスタティックストレッチングを実施した場合と実施しなかった場合とで、筋力に及ぼす影響を検討し、30秒及び60秒では筋力が低下したものの、10秒及び20秒あるいはストレッチングを実施しなかった場合では、低下しなかったことを報告しています。
(中略)
一方、同じ膝関節伸筋群を対象としたOguraらの研究(2007)では、60秒のスタティックストレッチングを1セット実施した場合は等尺性筋力が低下したものの30秒を2セット実施した場合では低下は見られなかったことを報告しています。
ここで書かれていることは、30秒以上のスタティックストレッチングを行った場合に、筋力が低下したケースとしなかったケースがあるということが書かれています。
統一された見解がなされていませんが、ただひとつ明確になっているのは、スタティックストレッチングをしても筋力が向上することはないということです。
そのため、スタティックストレッチングは筋力が低下するリスクがあるという見解がある認識が強くなり、現場で指導する立場の方の判断次第で活用されたり、活用されなかったりしています。
またダイナミック(動的)ストレッチは、筋力低下が見られないということも書かれており、僕自身このようなデータをもとに、現場ではダイナミックストレッチをウォーミングアップの中に組み込み、指導しています。
ダイナミックストレッチで筋肉を緩ませる
ダイナミックストレッチはいわゆるラジオ体操のような、関節運動を行って筋肉を緩めるストレッチになりますが、ラジオ体操で筋肉が緩むイメージがあるでしょうか?
僕は学生時代、体育の時間に毎度やらされていましたが、非常にしんどかったことを思い出します。
これは身体の動かし方が原因で非常にしんどいように動かしてしまっていたこともひとつの原因ですが、人間の身体は楽に気持ちよく身体を動かすことで筋肉が緩んでいきます。
そのために知っておくべきことは、人間の身体の構造であり、関節の構造です。自然に動ける角度は決まっていて、それをしっかり理解すれば関節運動で筋肉を緩めることができます。実際にひとつの例で理解していただきたいと思います。
リラックスして気持ちよく動かせば筋肉は緩む
まず、左右の肩周りの硬さや張り感を感じていただくために、軽く肩を動かしたり、腕をいろんな方向に動かしてみてください。
身体の現状が確認できたら実際に、動きの中で筋肉を緩めていきたいと思います。
片腕を胸の前に伸ばします。このとき手はみぞおちの前ぐらいにくるように少し斜めに伸ばすイメージを持っておいてください。
そこから肩を軸に、腕を振りこのように前後に軽く動かしていきます。
このとき、腕を振るというイメージではなく、肩を軸にただぶらんとぶら下がっているようなイメージで動かします。
肩関節の自然な動きというのは、みぞおちの前ぐらいに伸ばした腕は、ポケットをこするように後方に振られ、後方では少し外側に触れていきます。
肩の位置が前方30度の位置にあるため、人間の腕は本来まっすぐには動かす、このように斜めに動くことが自然です。もし日頃からまっすぐ前後に腕を振ってしまっている方は、それが原因で肩周りが緊張してしまい、肩こりなどの原因になっている可能性があります。
さて、腕を振りこのように前後にリラックスして振っていただきましたが、いかがでしょうか?1分ぐらい動かした後、肩周りや腕の動きやすさなどをやる前と比べてみてもらうと動かしやすく、筋肉が緩んでいることがわかると思います。
このように人間が持つ自然な動きを行うことができれば、筋肉を緩めることができ、ダイナミックストレッチではこのような関節運動を行い、筋肉を緩め、その後に行うプレーがしやすい、動きやすい状態を作っていきます。
ダイナミックストレッチの実践例について
では、具体的にどのようにダイナミックストレッチを行っていけばいいのでしょうか?
手順について
ダイナミックストレッチは、基本的に上から下に向かって動かしていきます。
- 肩(首)
- 脊柱
- 股関節
- 膝関節
- 足関節
大きな流れはこのような手順で行います。考え方はさまざまですが、この手順をとる理由は、筋肉は脳が支配しており、脳の緊張は全身の筋肉の緊張につながります。
そのため、頭に近いところを緩めることでより下肢は緩みやすくなると思いますが、下肢を緩めても上半身や首などが緊張していれば再度下肢が硬くなる可能性があるため、手順としては上から下に行っていきます。
ダイナミックストレッチについて
すべての動きで共通することは、リラックスして気持ちよく行うことです。関節可動域などはそれぞれ異なっているため、一番は気持ちよく動かせるご自身の感覚を大事にしてください。
肩周りの動き
肩甲骨を動かしていきますが、みぞおちに溝を作るように軽く背中を丸めます。それができたら、みぞおちを突き出すように肩甲骨を寄せていきます。この動きを10回行います。
続いては、先ほどの動きに腕の動きを加えていきます。手の甲と甲を合わせるように腕を軽く内側に捻り、背中を丸めます。そこから手のひらを外に開くように胸を開き、肩甲骨を軽く寄せていきます。この動きを10回行います。
続いては、身体の前側で腕を回していきます。一般的には、腕を背中側に持っていくことが多いのですが、そうすると緊張しますので、身体の前側で引っ掛かりを感じない位置で回していきます。
前回しができれば、後ろ回しを行い、各10回ずつ行います。
イメージとしてはこんな感じになります。
脊柱の動き
続いては、脊柱周りの筋肉を緩めていきます。
まず、足を肩幅に開き軽く膝を曲げます。そこから気持ちよく前屈できるところまで前屈し、小さくバウンドを10回していきます。
続いては、へそを軽く前に突き出すようにし、元に戻すような後屈を10回していきます。
続いては側屈ですが、側屈をする場合、まず側屈する側とは逆側に骨盤をスライドさせ、身体を倒していきます。
そうすることで、より体側全体をストレッチすることができます。これを左右10回ずつ行っていきます。
次は、回旋という捻りの動きです。まず、回旋する方の脚に軽く体重を乗せ、そこから身体を捻っていきます。
股関節の動き
股関節の動きは、屈曲伸展といって脚を前後に動かす中で、外旋、内旋の動きも加えていきます。
まず片脚でバランスをとり、浮かせている脚の股関節から脚がぶら下がっているようなイメージを持ちます。そこから振り子のようなイメージで脚を前後にスイングしていきますが、脚が前に来たときは、つま先を軽く開き、外側に開きます。
後方に来たときは、つま先を内側に向け、外に開きます。くの字を描くように脚を前後に動かし、これを10回行っていきます。
続いては、脚を左右にスイングしていきますが、これも股関節から脚がぶら下がっているイメージを持ち、気持ちよくスイングできるところで動かします。
続いては、伸脚を行いますが、脚幅を大きく開き、片脚に乗っていくようにしゃがみ込みます。
伸ばした側の足のつま先は天井に向けるようにし、体重を乗せる側は、踵に体重を乗せ、つま先と膝の向きを同じ方向に向けしゃがみ込み、小さく10回程バウンドするように動きます。
ここまでご紹介した内容+αをしていただくことでより筋肉は緩み、動かしやすい身体になりますが、一連の流れはこのような手順で行っていきます。
ウォーミングアップの内容は無限
ここまで実践例を含めたストレッチの是非や具体的な方法についてお伝えしてきましたが、ウォーミングアップの目的は身体を温め、神経の亢進をはかり、その後に行う練習なり、試合で動かしやすい身体の状態で入っていけるようにすることです。
そのためには、身体を温め、ダイナミックストレッチなどで筋肉を緩め、競技別の専門的なウォーミングアップを行ったりしますが、その内容はすべては目的次第です。
身体を動かしやすくすることだけではなく、練習時間に限りがある場合などはトレーニングを行ってしまうこともあります。
○○が最善ということもなく、よりチームや個人に合ったことをすることが重要です。
その中で、スタティックストレッチングを30秒以上行ってしまうことは筋力の低下を招く恐れもあると言われており、ダイナミックストレッチなどで身体を動かしながら筋肉を緩めることが重要です。
試合前のストレッチで、結果的に力が出せず、負けてしまう可能性もあります。そのあたりを整理していただき、日頃のウォーミングアップに活かしていただければと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今日は主にウォーミングアップの中で行うストレッチについて整理をしていきました。
伝統的に行っていることが適切だということでもなく、ウォーミングアップは何のために行うのかということを理解した状態とそうでない状態では、結果も大きく異なってしまいます。
今回の内容でそのあたりを整理していただくきっかけになればうれしく思います。
では最後に今日のまとめをお伝えしていきたいと思います。
- スタティック(静的)ストレッチングは筋力の低下を招く可能性があるが向上はしない
- ダイナミック(動的)ストレッチは筋力の低下を招く可能性が低い
- 人間の身体は構造上、動きが決まっている
- リラックスして気持ちよく身体を動かせれば筋肉は緩む
- ウォーミングアップの内容は無限にある
このような内容でお送りしました。
今日の内容が少しでも参考になればうれしく思います。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。