
先日名古屋から社会人野球選手が来ていましたが、その選手への指導の中で感じたのはいかにシンプルに伝えることができるかということです。
シンプルに、一言ぐらい伝えて動作を変えていく。そして、結果も伴うということが重要でアドバイスの量は少ない方が相手は理解しやすく、伝わります。
野球選手の投げ方でも指導時はシンプルですが、考えることはさまざまで今日は実際に現場で指導しているときに送っているアドバイスのポイントをまとめてご紹介したいと思います。
Contents
野球の投げ方の基本について
野球選手に発生する障害で多いのは肩肘の問題ですが、これは投げ方や動作が原因になるものが多くあります。ケガをしないために、またベストパフォーマンスを発揮するためにも投げ方を理解しておくことは重要になります。
まずは投げ方の基本についてお伝えしていきたいと思います。投げ方については、6つのフェーズに分けて考えることができます。
- ワインドアップ
- 初期コッキング期
- 後期コッキング期
- アクセレレーション
- リリース
- フォロースルー
この6つに分けられますが、これらはどういう動作、動きになるのか詳しく見ていきたいと思います。
ワインドアップ
ワインドアップとは、どういう意味なのでしょうか?
■ワインドアップとは?
野球で、投手が投球モーションを起こすとき、腕を後ろに引き、次に頭上に振りかぶる一連の動作。
投手が振りかぶる動作のことを指していますが、このワインドアップでは振りかぶり軸足に体重を乗せて、前方への加速をつけるコッキング期の前段階になります。
言い方を変えると、振りかぶって軸足に体重を乗せてバランスをとる局面だということになります。
初期コッキング期
初期コッキング期は、軸足と逆側の足が地面から離れている期間のことを指します。
加速力をつけるために軸足でプレートを押し、踏み込み足が地面につくまでのことを指しています。
後期コッキング期
後期コッキング期は、踏み込み足が地面についてから投げにいく動作の中で胸や肩が前方への移動を終了する地面までのことを指しています。
投げにいくときは、キャッチャーに対して投手の身体の側面が正面に向く状態であり、軸足が着地をして身体が正面を向く局面までのことになります。
アクセレレーション
アクセレレーションは、身体が正面を向いた状態から肩が内転・内旋しボールが手から離れるまでの期間になります。
リリース
ボールが指から離れる局面になります。
フォロースルー
リリース後、腕が身体に巻き付くように投球動作が終わりを迎えるまでの期間になります。
このように投球動作は6つの局面に分けられており、実際に動作を指導するときもこのようなフェーズに分けて指導されることがあると思います。
ただ・・・。
僕自身、これを見ていると非常にわかりづらいというのが正直なところで、いつも考え方としては立つ、前に(体重移動)、投げる、と考える方がわかりやすいと思っています。
魚住先生にご教授頂いたときも、このように理解すると非常に整理がしやすく、今でも現場で活用しています。上記の6つのことと同じですが、考え方としてはシンプルにする方がわかりやすいように思います。
続いて、この3つの立つ、前に(体重移動)、投げるという動作の中でどのようなところを見ているのか、またそれを指導時にどのように役立てるのか、そういったことをまとめていきたいと思います。
“立つ” 局面で見ていること
ワインドアップから軸足に体重を乗せてバランスをとる。そして、次の “前に(体重移動)” につなげるために以下のようなところを見たり、考えたりしています。
バランスよく立てているか?
まずはバランスの問題がありますが、軸足に体重を乗せたときコントロールの悪い選手は、バランスよく立つことができていません。また足の小指側に体重がかかってしまっていることがよくあります。
足元の環境によってその後のコントロールに大きく影響を与えます。
小指側に体重がかかってしまうと、エネルギーを十分蓄えることができなかったり、キャッチャー方向ではなく上方に抜けるような投球になります。十分エネルギーを蓄え、プレートを押し加速するためにもまずはバランスよく立つことが求められます。
小指側に体重がかかっていないかチェックしてみると意外とそういう使い方をしている選手は多いと思います。
地面はフラットになっているか?
続いては、足元の環境についてですが、バランスよく立つことが重要な理由は前のところで理解していただけたと思いますが、身体の使い方が問題ではなく足元の環境が問題になることもあります。
高校球児でよくみられるのが、足元の土に穴を掘って、そこにつま先を入れてしまうことです。このような環境にした場合、つま先立ちになって軸足に体重をかけるので、不安定です。
足元はフラットにする方がプレートを蹴りやすいですし、前方への加速もつけやすくなります。もちろんバランス良く立つことができますので、エネルギーも蓄えやすいのでボールに加える加速力も大きくなります。
地面がフラットになっているか?
それとも穴を掘ってしまって不安定になっているか?
これを変えるだけでもコントロールが良くなる可能性もあります。
つま先が開きすぎていないか?
つま先の向きによってプレートの押しやすさ、力の入り方が異なり、つま先が開きすぎると力が入りづらく、プレートと平行、もしくは若干外を向くぐらいだとプレートを押しやすくなり、力もいれやすくなります。
これは必ずプレートに対して平行にする必要があるということではなく、投手に大切にしていただきたいのはフィーリングです。
違和感のない程度にプレートと足を平行にするか、もしくは若干外に向けるか、実際にプレートを押して確認して力の入れやすい位置、つま先の向きを設定していきます。ここではフィーリングを大切にしてください。
膝が伸びきっていないか?
プロ野球選手でも最近では膝を深々曲げるのではなく、軽く膝を曲げる程度の構えをしている選手が多くいます。
このようなフォームを見てマネするのはいいことだと思いますが、勘違いをしてしまい膝が伸びきってしまう選手がいます。膝が伸びきってしまうとプレートを押しづらくなりますし、軸足に体重を乗せたときにうまく立てません。
足首、膝、股関節がそれぞれ適度にゆとりがあるような状態で軽く曲がってリラックスしていると立ちやすくなりますし、プレートも押しやすくなり加速もつけやすくなります。
膝を曲げすぎていないか?
先ほどとは逆で、膝を軽く曲げることは必要だと思いますが、深く曲げすぎるのも考えものです。というのは、膝を深く曲げるということは、重心位置が下がりすぎてしまうため投球後、腕が身体の巻き込みづらくなり前方に放り出されるような形でフォローするーを迎えてしまいます。
このような動作は肩の後方の腱板を過度に引っ張り、これが続いてしまうと炎症が起き肩を痛めてしまう可能性があります。
膝を曲げすぎていないかも考えることが重要です。
身体の捻りや大きな動きはできれば避けたい
元メジャーリーガーの野茂投手のように身体を大きく捻って投げようとしても、セットポジションから脚をあげてシンプルに投球するような投げ方。
これらは球速に変わりはありません。身体を大きく捻るからと言って特に大きなエネルギーが生まれるわけでもありません。
違いといえば、軸足に体重を乗せて一度静止し、そこから踏み込んで同じ位置に着地をする確率が異なります。
当然シンプルなフォーム程同じ位置に着地できる確率は高くなります。ただこれも投手のフィーリングが重要であり、何より打者のタイミングがとりづらくなるというメリットはあります。
投げ方で言えばプレスになることはあまりありませんが、ピッチングとして考えると武器になりますので、この辺りを考えてフォームづくりをしていただければと思います。
膝を高く上げることで大きなエネルギーを獲得できる
軸足に体重を乗せたときに逆の膝を高く上げることで、大きな位置エネルギーが生まれ投球すると球速が少し上がります。
そのためこのような膝の使い方を変えることでプラスになることもありますが、このデメリットはバランスがとりづらくなりコントロールを乱す可能性があるということです。
これも先ほどと同じで選手のフィーリングに任せてあげればいいと思います。
“前に(体重移動)” の局面で見ていること
2つ目の局面で見ていることをまとめていきたいと思います。
踵でプレートを押せているか?
プレートを押して加速するためには、つま先で押すよりも踵で押す方が加速します。
つま先でプレートを押すことで、ふくらはぎの筋肉が主に使われますが、踵でプレートを押すと臀部の筋肉や内転筋を使います。この方が大きな筋肉を使うことができますので、それだけ加速します。
また後述しますが、つま先でプレートを押すとつま先方向に力が働きインステップになります。そうするとインコースにボールが行ってしまうようになります。
実際につま先と踵でプレートを押した時に力の走りやすさを比べてみるとよくわかると思います。
踏み込み位置が理解できているか?
軸足と踏み込んだ脚が1本のライン上に並んでしまうと非常に不安定になり、投球時にバランスを崩しやすくなります。
踏み込んだ脚は、軸足の踵の延長線上に踏み込み足のつま先が来るように踏み込みます。
そうすると2本のライン上にステップすることになり、投球時もバランスがとりやすく安定します。このような位置関係です。
インステップすることで相手打者に恐怖感を与えることはできますが、身体を捻るような形で投球するためそれだけ腰部にストレスをかけますので、痛みが発生するリスクもあります。
投手はこの辺りを整理しておくと自分に合ったステップを見つけることができると思います。
肩や身体の開きが早くないか?
肩や身体の開きが早くなってしまうとボールがすっぽ抜けてしまったり、手で操作しようとして力のないボールを投げてしまったりしてしまいます。
身体の開きを抑えるためには、肩・グローブ・骨盤など自分が目安にしやすい箇所をキャッチャーに向かって真っすぐに移動させるようなイメージを持つと開きを抑えることができます。
逆に、開きが早い投手の場合これらのポイントがキャッチャー方向にまっすぐではなく少し開くように斜めに移動している可能性があります。
まっすぐ体重移動するためにはこの3つをキャッチャー方向にまっすぐ出していくような意識を持ち、繰り返すことで身体などの開きを抑えることができます。
体重移動の局面ではあれこれ考えすぎず、リラックスしてキャッチャー方向に体重していくことが重要で、いろいろと考えすぎてしまうと緊張になってしまうので、シンプルに考える方がスムーズな動作になります。
体重移動するときに腕の動きもありますが、これはすべて投げる局面にすべてまとめていきたいと思います。
” 投げる” 局面で見ていること
3つ目の投げる局面で見ていることをまとめていきたいと思います。
スムーズに腕が上がっているか?
投球時に肘の位置が低い選手は、腕の上げ方に問題があることがあります。
腕の上げ方については、人間の肩は前方30度の位置にあり身体の少し前側に位置しています
よく、胸を張って投げろだとか、肘を引けと言われていますが、これらのアドバイスを鵜のみにしてしまうと肘は上がらず、このアドバイスが原因で肘の位置が下がってしまいます。
ちょうど、ラジオ体操の腕回しをするような感覚でリラックスして身体の前で腕を回してやってみるとスムーズに上がってきます。問題は腕の上げ方です。この辺りは引っかかるような動作をしている選手も多いので、投手に限らず野手も良く見るようにしています。
余計な意識を持っていないか?
先ほどと共通することですが、投球前に2塁にボールを見せるようにするとか、腕を内側に絞りながらあげてくるとか、そういう余計な意識を持つことでそこには緊張が生まれます。
緊張が生まれると動作に引っ掛かりが生まれ硬くなります。そういう意識がスムーズな動作をできなくしてしまう原因になりますが、身体の前で腕を回してリラックスしていれば自然と腕は上がってきます。
余計は意識を持っていないか、この辺りは選手の話を聞くようにして選手の感覚を理解したうえで指導を行うようにしています。
前でボールを離そうと意識していないか?
ボールを前で離そうという意識があると肩や肘を痛める可能性がありますので、そういう意識を持たないようにした方がスムーズな動作ができます。
フォロースルーでは腕を身体に巻き付けられているか?
リリースを迎えた後は、腕は減速されていきますが、腕が身体に巻き付いていないと減速されず、引き伸ばされるようなな刺激を受けてしまい、肩肘を痛めてしまう可能性があります。
きちんと腕は巻き込めているかをみています。
キャッチャー方向を見続けていないか?
人間の身体にはさまざまな反応があり、そのひとつに頚反射という反応があります。これは、視線を送っている方向に腕が伸ばしやすくなるという反応ですが、キャッチャー方向を見たまま投げるとその方向に腕が伸ばされてしまいます。
そのため、投球時は軽く顎を引くようにして上目づかいをするようなイメージで投げます。
そうすると腕はその方向に動いてきますので、軽く顎を引いていると腕は身体に巻き付けやすくなります。この辺りも注意して見ています。
ざっと挙げればこれら3つの局面ではこれらのようなことを見ており、選手によって1人1人動きが異なりますので、見ているところやアドバイスの送り方も個人によっては異なります。
ただ、大まかに挙げるとこのようなところを見て指導をしています。投げ方のポイントとして整理するのに役立てていただければと思います。
実際の投球動作はシンプルに、リラックスして気持ちよく投げる
これまで多くのポイントをお伝えしてきましたが、実際にこれらのことを意識すると動きは硬くなります。
選手の方が実践するときは、もっとシンプルに考えて行っていただきたいと思います。その手順が以下になります。
立つ、前に、投げる。バランスよく立って、リラックスして前に移動し、一本背負いするように投げる。これだけです。イメージはこちら。
この3つのポイントぐらいで十分です。気持ちよく感じるように力を入れたりせず、リラックスして投げていただければと思います。
スムーズな動作ができない方へ
スムーズな動作がうまくできないという方はこちらの動画を以前作成していますので、こちらを参考にしていただければと思います。
まとめ
野球選手の投げ方をひとつひとつまとめていくとこれらのようなポイントになりますが、多くの情報があったとしても実践するときはシンプルに。それが一番大事なことです。
頭でっかちになってもいけませんし、フィーリングとして合わないことはしない方がいいとも思います。
どれかひとつでも参考になればうれしく思いますし、振り返りのために活用していただけると嬉しく思います。
今日の内容が少しでも参考になればうれしく思います。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。