
ピッチングフォームを指導するとき、野球経験のある方はわかるかもしれませんが、自分が経験してきたこと、やってきたことを伝えがちになります。
そして、そのアドバイスは熱が帯びれば帯びるほど数が多くなり、その熱とは裏腹にピッチャーは迷い、動作がぎこちなくなり、結果的にアドバイスが原因でベストパフォーマンスから遠ざかることがあります。
素晴らしい指導者がいる中で、どうしても自分の考えを選手に押し付けてしまいマイナスになってしまうことがあるのも事実です。
指導者との巡り合わせは運命かもしれませんが、野球人生をその運命だけに委ねるのは少し危険な気もします。だとすれば、自分で身体の使い方を知り、自分の考えを整理する必要があります。
今日の内容がピッチングフォームに悩む投手の参考になればうれしく思います。現場での行ったセッションのことを振り返りながら、ピッチングフォームについて考えていきたいと思います。
Contents
ピッチングフォームのベースをどのように考えるのか?
まず考えていきたいことは、ピッチングフォームのベースをどのように考えるかということです。
どういうことかと言うと、筋力を高めるとピッチングが良くなるのか、柔軟性を高めることでハイパフォーマンスを発揮できるのか、何をどうすれば自分の最大の力を発揮することができるのかということです。
僕自身、投げるということに限らず、バットを振る、走るなどの動作に共通すると考えているのが、リラックスをしてスムーズな動作を行うことがベースになると考えています。
リラックスをすることで、関節に対して過度なストレスもかかりませんし、アームスイング、バットスイングなどのスピードが向上し、それがパフォーマンスにつながると考えています。
リラックスしてスムーズな動作ができると、その感覚は気持ちいい、または快の感覚を得ることができ、その快の感覚を感じながらプレーをすると結果も良く、結果が良いから楽しい。だから練習を率先してするようになり、さらにうまくなる。
そんな好循環になると思いますし、それを作るのもトレーナーとしての役目でもあり、目指すところでもあります。
指導するときの軸になる考えは、リラックスしてスムーズな動作を行うということです。これを目指すことでさまざまな課題がクリアになっていくはずです。
アドバイスの量を考える
指導をしているとひしひしと感じられますが、トレーナーの技量以上に選手は良くならないということであり、選手の現状は僕自身の現状でもあると思っています。
うまくなってほしいと思うが故に陥りがちなのが、アドバイス量が多くなってしまうことです。
先ほど、ピッチングフォームのベースはリラックスをすることだとお伝えしましたが、リラックスをするためには部分に意識を向けすぎないことが必要です。
- 腕を上げるときは●●して・・・
- 手首は●●して・・・
- 胸を張って肘を●●して・・・
というように1度にいろんなことを意識してしまうと、緊張が生まれ、動きが硬くなってしまいます。
選手はできるだけシンプルに考えプレーすることが重要だと考えていますし、指導時にはできるだけワンポイントで動作を変えられるように意識をしています。
人間は1度に1つのことしか意識できませんので、それをいくつものアドバイス通りに身体を動かそうとすると、そこには緊張しか生まれず、結果も見えています。
リラックスをするためには、身体の使い方も重要ですが、指導する側のアドバイスの量や質も非常に重要になります。
スムーズな動作をするために身体の使い方を知る
ここからは実際にピッチャーに指導したことを例に投げ方について見ていきたいと思います。
あくまでも個人の身体の使い方がベースにあり、そこでみられた課題に対して指導をしていますので、万人に共通するものではありませんが、アドバイスの内容が少しでも参考になればと思います。
腕の使い方について
まず投球時に腕の使い方で気になったことは以下のことです。
- 肘の位置が低い
- 腕を上げるとき、リリース前後などで動きが硬くなる
- フォロースルーの際に、腕が身体に巻き付かない
このような点が気になり、選手に確認をしてどのように投げているのか、本人の感覚や日頃受けているアドバイスなどを聞いていくと、原因が見えてきました。
- 肘を引いて、胸を張れと言われている
- ボールを前で離せ、肘から出せと言われている
このようなアドバイスを受けているそうで、上記の課題はこのアドバイスが原因で起こっているものです。フォロースルーのとき腕が身体に巻き付かないのも、ボールを前で離そうとすることが原因です。
ボールを前で離そうという意識を持っていると、腕は前に伸ばされるような形となるため、身体に巻き付きません。そうなれば肩の後方を痛める原因ともなってしまいます。
なぜこのアドバイスが問題なのかを詳しくお伝えしていきたいと思います。
肩の構造から見る腕の上げ方
投球時、肘が上がらず肘の位置が低い選手の場合、「肘を上げろ!」というアドバイスを送っても肘は上がりません。
どうすれば肘の位置が高く上がるのか、そこを具体的に指示する必要があります。
まずこの2つの腕の使い方について見ていただきたいと思いますが、どちらの方が自然な使い方に見えるでしょうか?
意見が分かれるところではあると思いますが、おそらく前者の方が多いのかなと思います。
これが問題です。肩の構造上、身体の後ろ側に腕が来てしまうと、関節面で骨がぶつかり合い、腕は地面と平行の位置よりも高く上がりません。そのため、肘は下がってしまいます。
肘が下がってしまう原因のひとつにこの腕の使い方にあります。
身体の前側で腕を動かす、ラジオ体操の腕回しのようなイメージで腕を上げるとスッと腕は上がってくると思います。
このような身体の構造上の問題があるため、胸を張ったり、肘を引いてしまうとどうしても肘は下がってしまいます。選手はアドバイス通りに身体を使うことができていますが、そもそもこのアドバイスに問題があります。
リリース前後の動きについて
リリース前後で動きが止まるような動きがみられていましたが、本人に感覚を確認していくと、
- 肘を前に出すように意識している
- できるだけボールを前で離そうとしている
という意識で投げているそうです。
それぞれの意識でボールを投げようと思うとこのような動作になってしまいます。
このような動作はスムーズな動作の妨げとなってしまい、このような意識を持つことで動きが硬くなり、肘が伸びきってしまったり、肩の後方が引っ張られるということが続くため、肩肘を痛める可能性もあります。
腕はリラックスすればスムーズな動きになるため、このような余分な意識は不要です。
先ほどの腕の使い方からの流れで、腕を身体の巻き付けるようなイメージで動作を行えば問題は改善されるはずです。
身体の構造上、このようにしか動かないという動きが決まっているため、それを理解することでよりスムーズな動作を行うことができます。
この腕の使い方については、指導時にはリラックスさせ、軽く腕をサポートしながら回し、そこから腕を身体に巻き付けるように伝えるだけでスムーズな動作ができるようになり、選手の感覚も良くなっていきました。
体重移動について
選手のひとつの特徴でもありますが、軸足に体重を乗せるときに沈み込み、キャッチャー方向に体重移動するときに身体が浮きあがり、アップダウンしながら投球する癖がついていました。
下半身で60%のエネルギーが生まれますが、体重移動の際に浮き上がって抜けてしまうため手投げ状態になってしまっていました。
その他にヒップファーストを指示されており、それ自体はいいのですが、練習時にマウンドの上に立った状態で、軸足に体重を乗せると同時に軸足側に沈み込むような動きをし、そのときに右肩を下げる癖がついていました。
そのためやり投げ選手のように、斜め上方に向かって投げるかのような状態となり、そこから前方に移動し、そのときに身体は浮き上がる。
このような身体の使い方をすると、高めにボールが浮いてしまいますし、無理に手元でコントロールをしようとしてしまうと、低めにいっても力のないボールになってしまったり、沈んでしまいます。
ここについては、マウンドの上で行っている練習に問題がありました。
立ち方について
整理をしやすいように選手には、立つ、前に、投げるという3つの動作で分けて理解していただきました。
その中のひとつの立つというところですが、セッションを開始したばかりですので、こちらがセッション中に言う「踵」という意味を理解していただくために、足首にテーピングを巻き踵の位置について共通認識を持てるようにしていきました。
このテーピングを巻いただけでも立ちやすくなり、バランスが良くなりましたが、三点支持ができるようにこのポイントで立てるようにしていきました。
先ほど、軸足に体重を乗せるときに右肩が下がるとお伝えしましたが、脚を見ていると膝が伸びきったような状態で、軸足に体重がかかると小趾側に体重がかかっていました。
踵で立てるようになれば、次に行ったのは足首と膝を軽く抜き、自分が一番立ちやすいところを探って、軸足に体重を乗せていきました。
足首と膝を抜いたことでさらに立ちやすくなり、安定してきました。指導した選手はまだ中学生ですが、理解力があり伝えたことは理解し、自分の意見も投げてくれるので、お互いが理解し合った状態でセッションを進めることができました。
前方移動について
バランスよく立てるようになったので、次は前方への体重移動を指導していきました。
この部分での課題は、体重移動して前足が着地したと同時に骨盤と上体が開いてしまうことです。
自然であればセットポジションから前に体重移動すれば足の向きはキャッチャー方向ではなく、3塁側に向いているはずです。
それが着地と同時に開くということは、何かそういう練習をしていないかと尋ねると、やはり日頃の練習では着地と同時につま先を開くような練習をしているそうで、それが癖づいてしまっていました。
またこの身体の開きを修正するために指導を受けていたそうですが、その方法がサイドスローに変更するというもので、サイドスローにしてみたけども身体の開きは変わらなかったそうです。
これは結果が正しく、投げ方を変えても身体の開きは改善されません。踵でプレートを押すと、前足のつま先は、軸足の踵の延長線上に来ることを伝え、軸足の踵で地面を押すようなシンプルな動作を繰り返し行っていきました。
そこから実際に投げてもらいましたが、徐々に身体の開きが改善され、まだ課題はありますが、初めと比べると開きも出なくなっていきました。
全体の動きについて
ここまでの流れを実際に指導し、動きを変えていきましたが、最後はボールを投げながら微調整をしていきました。
指導前の状態では、スムーズさが見られなかったりしていましたが、指導後はリラックスすることもできるようになり、スムーズな動作ができるようになっていました。
まだ少し力を入れようとしてしまうところがありますが、それは今後の課題でもあります。
ただ全体を通してみていると、非常にいい方向に改善できましたし、選手自身も気持ちよく投げることができるようになり、ピッチングフォームの改善を感じていただくことができました。
必ずしもピッチングフォームの改善に時間がかかるのではない
今回の選手への指導でもそうですし、野球選手に限らず、一般の方の姿勢や動作については、1度お伝えすると改善されますし、必ずしも動作の改善に時間がかかるというものではありません。
指導したことが相手に伝わり、理解していただくことで動作などは変わるため時間が尺度ではなく、理解度の問題です。
これは伝える側の責任というか技量が大きく関係し、シンプルで相手がわかりやすい表現を使うことで動作はすぐに変わります。
言い方を変えれば、時間をかけても選手自身の中で何のためにやっているのか、どのように変えればいいのかが理解できていないとただ時間を浪費してしまうことになり、時間の無駄遣いになりかねません。
確かにピッチングフォームの改善をするためには時間がかかることはあります。改善したい動作を繰り返し繰り返し行う必要がありますので、時間がかかることもありますが、何よりも改善する動作を理解することが重要です。
スムーズな動作ができない原因を見極めること
選手からの質問で、「スムーズな動作をするためにどのような柔軟をすればいいのか?」ということを聞かれましたが、そもそもなぜスムーズな動作ができないのでしょうか?
柔軟性が低ければスムーズな動作ができない要因になる可能性がありますが、実際に指導時にはスムーズに動くことはできていました。
それを考えると、この選手については柔軟性の問題で動きが硬いということではなくなります。ではなぜスムーズな動きができないのか?
それは、スムーズな動きができないように動いていたからです。だとすれば、スムーズな動作をするためには、身体の使い方を理解することが必要であり、柔軟性とは別問題になります。
このような話の流れから、体幹トレーニングの意味や必要性、投げるスタミナと走るスタミナは別物だと言う話などにもなり、目的と方法を一致させることが重要であり、なぜうまくいかないのかという原因をみつけることが先だということを伝えました。
考え方についても少し整理できたようで、当たり前に言われていることも少し見方を変える必要があることに気がついたようでした。
最も大事なことは感性を育てること
今回の指導で最も大事にしたことは選手本人の感性を育てることです。
プロ選手とアマチュア選手の大きな違いは、この感性であり、修正能力に長けているのがプロ野球選手です。
指導した選手の場合、指導者からいろんなアドバイスを受けるあまり、言われたとおりに身体を動かしていたため、自分の身体をどのように使えばいいのか、そういう感性の部分が育っていないように感じられました。
トレーナーとしてアドバイスを送っていても、最初に確認することは自分の中で不快感があったり、合わないと感じたことはしなくてもいいということを伝えています。
リラックスした動作ができるように誘導できれば、そういった感覚はあまり出ませんが、こちらが言ったことがすべてではなく、選手が一番です。
選手自身が違和感のないように投球できることが重要だと考えていますし、それが個性でもあると思います。その個性は残しつつ、スムーズな動作を行えることが理想です。
感性を育てることは、アドバイスをしすぎないこと、また動きや感触などを感じようとすることで育っていきます。何気なくやってしまうと感性は育ちませんし、小さな身体のズレを修正することもできません。
こういった動きだけではない部分も投手にとっては非常に重要な要素になるのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ピッチングフォームについて、実際の現場で行った指導や考えをまとめていきましたが、少しでも参考になる部分があればうれしく思います。
いろんな選手を話をしていると思うのが、選手自身が理解できていない中で「●●をしなさい」と言われていることが多く、言われたまましているというケースが非常に多い。
なぜこれをするのか、なぜこのように身体を動かすのか、理解した状態で練習するのと、なんとなくしてしまうのでは、効果も結果も大きく変わってきます。
好きで始めた野球だと思いますので、野球をやっている時間が嫌々ではなく、本当に楽しい、充実した時間になるように、指導する側も選手に配慮し続けていきたいなと思います。
では最後に今日のまとめをお伝えしていきたいと思います。
- ピッチングフォームの基本はリラックスしスムーズな動作を行うこと
- アドバイスの量が多すぎると緊張し、動きが硬くなる
- 投げ方については3つ(立つ、前に、投げる)で考えるを整理しやすい
- 投手は身体のことも重要だが、感性を育てることも重要である
このような内容でお送りしていきました。
今日の内容が少しでも参考になればうれしく思います。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。