からだをゆるめる|ニュースレターNO.285

普段の生活においてもスポーツパフォーマンスにおいてもリラックスしていること、すなわちからだが弛んでいることが非常に重要です。

しかし、最も難しいことが力を抜いてリラックスすること、楽にやることでもあります。なぜからだが硬くなるのか、それは緊張です。よく集中しろ、何々を意識しろと言いますが、集中するところ、意識するところを間違えると、緊張することになってしまいます。

意識とは、緊張につながるということもあるのです。意識すれば動きが遅くなり、無意識での動きは早くなるということを忘れてはいけません。

日頃からリラックスしたからだを持ちたいものです。そういう意味で「からだをゆるめる」ということは、アスリートだけでなく、ストレス社会に生きる我々にとって・人間にとって重要視したいことであります。

今回紹介するのは、高岡英夫・松井浩著:インコースを打て(講談社2008)です。力を抜くことの大切さをいろいろなケースにおいて解説されています。参考になるところをピックアップして紹介しますが、興味のある方は原著をお読みください。

『野球界の皆さんに尋ねたいのは、リラックスすることや無駄な力を抜くことが大切だと言うのなら、日常的に、リラックスや無駄な力を抜くための専門的なトレーニングを取り入れていますか、ということです。また、無駄な力を抜くことが野球の技術の上達と具体的にどのように関わっているのかしっかりと理解されているでしょうか。

実は、リラックスすることや無駄な力を抜くことが、内角打ちはもちろん、バッティングの基本そのものに密接に関わっています。しかも、皆さんが想像されているより、はるかに深く関係しています。

無駄な力を抜くといっても、「練習前後のストレッチが大事だよな」とか、「定期的にマッサージを受ける方がよい」とか、「力まないようにリラックスに心がけている」などというレベルの話ではありません。野球選手にとって無駄な力がうまく抜けるかどうかは、その選手の野球人生そのものまでも左右してしまう重大なテーマなのです。

バッティング練習ということでいえば、フォーム固めや素振り、打撃練習などと同じように、無駄な力を抜き、体を柔らかく使えるための徹底した専門的なトレーニングが必要だということなのです。』
『人間の体は、ご存知のように筋肉を収縮させることで動きます。言いかえれば、さまざまな動作は、全身の筋肉がたるんだり、縮んだりを繰り返しながら行われています。そして、筋肉は、縮むことでパワーを出します。

そのため、筋力の効率的な出し方という面でいえば、筋肉の力を抜いた時と力を入れた時の差が大きい方が、その人のもつ筋力をより多く発揮しやすい状態にあるといえます。できるだけたるんでダラーンとした状態からよりギュッと縮めば、それだけ大きな筋力を生みだしやすいのです。

もちろん、各個人の筋力の大きさは、その人の筋繊維の性質や太さ、つまり質と量によって違います。しかし、まったく同じ筋繊維の質、まったく同じ筋肉の量の人が二人いると仮定すれば、筋力を発揮させる前からすでに力んでいたり、凝り固まっている人よりも、無駄な力が抜け、柔らかな筋肉をしている人の方が、その人が本来持つ筋力を効率よく発揮できるということです。』

『野球界の皆さんも、筋肉の柔らかい選手ほど何をさせても器用だとか、指導をしても吸収力があるなど体験的にご存知でしょう。また、同じ技術レベルの選手なら、筋肉が柔らかい選手の方が実戦では持てる力を発揮しやすいことも、最近ではよく知られているのではないでしょうか。福岡ソフトバンクの新井コーチも、学生時代を思い出して「力感がないのでスタメンで使ってもらえないんだけど、実戦で使われると私の方がよく打った」と話していますね。

反対に、筋肉が硬いと不器用だったり、怪我をしやすいものです。また、いわゆる筋力に頼った強引なバッティングに陥りがちです。

さらに重要なことは、筋肉が柔らかく、ゆるんでいるほどボディーコントロール力が高いということです。何をさせても器用ということにも関連しますが、ある動作をする時、全身の筋肉が時間的に最適な順番で縮んだり、たるんだりしやすいのです。

といえば、「最適な順番で縮んだり、たるんだりするって?」、「筋肉の収縮に正しい順番がある?」などと疑問に思う人が多いでしょう。非常に大切なことなので、じっくり説明していきましょう。

野球ではしばしば全力疾走をしますが、この全力疾走というのは、当然、全身運動ですよね。全身運動ということは、走っている間に全身に約500といわれる筋肉のほとんどが縮んだり、たるんだりを繰り返しているということです。

その場合、自分のもつ筋力を効率的に発揮しようと思えば、あちこちの筋肉がデタラメに縮んだり、たるんだりしていてはダメなのです。走るという運動に合わせて、全身の約500に近い筋肉が、各瞬間ごとに最適な順番で縮んだり、たるんだりする必要があります。また、ある瞬間、瞬間に縮んでいてほしい筋肉と、その反対にたるんでいてほしい筋肉というのもあります。

つまり、全身の筋肉が、正しく使われる必要があるということです。そして、ここで言う「正しく」とは、私たちが人間へと進化する過程で身につけてきた体の造りや機能に従ってということです。』

『バッティングでいえば腰の回転でも、ある瞬間にはたるんでいてほしい筋肉が十分にたるんでいなければ腰の回転は鈍くなってしまいます。また、収縮した後、すぐにたるんでほしい筋肉の反応がほんのわずかでも遅れたら、やはり腰の回転は鈍ります。腰を回すという運動一つをとっても、全身の筋肉が最適の順番で正しく縮んだり、たるんだりする必要があるのです。

ある筋肉がたるむのがわずかでも遅れたことで、まさに収縮してパワーを出そうとする別の筋肉の邪魔になってしまうからです。無意識のうちに腰の回転にブレーキがかかってしまい、その分バッティングではピッチャーの投げたボールに差し込まれやすくなります。

また、バットコントロールという面から見ても、ゆるんでいることがとても重要になります。一例をあげると、肩に三角筋という筋肉があります。力こぶのできる上腕二頭筋のさらに上方に位置する筋肉です。全身をダラーンとさせた状態から、この三角筋に瞬間的にキュッと力を入れてみてください。

どうでしょうか。ほとんどの人は、その瞬間、両腕がピクッと前方に上がるでしょう。

その距離はわずかでしょうけれども、実は、バットを振る時でも、この筋肉に無意識に余計な力を入れてしまうと腕が勝手に上がる傾向が強くなります。それがほんのわずかなことでも、結果としてバットの軌道は自分の想定よりも高くなりがちです。バットでボールの芯より上の部分を叩き、内野ゴロに倒れる確率が高くなりますね。

さらにフォワードスイングの最中に、この三角筋(特に前側部分)と上腕二頭筋に筋収縮したがる強い癖がつくと、影響はそのバッティング全体にまで及び、スイング軌道全体がアッパースイングになってきます。あるいは、腰背筋という腰の裏側の筋肉があります。ここにキュッと力を入れると、上体が反ります。

上体が反ると、連動して腕も上がりやすくなります。ですから腰を鋭く回そうとして無意識に腰背筋に無駄な力を入れてしまっても、バットスイングは自分の思い描いた軌道よりも高くなることがあります。

日本のプロ野球やメジャーリーグなど高いレベルで活躍したいほどゆるむことが大切人間の筋肉というのは、極めて精巧にできています。だからこそ、150キロを超える豪速球を捉えてホームランを打つことができますし、鋭い変化球でも的確にボールの芯を捉え強く打ち返すことができるのです。しかし、それゆえ、筋肉の使い方のわずかなずれが、バットスイングを狂わせもするのです。

より高度なバッティングを実践したいと思えば、筋肉の収縮と弛緩が正しく、適切に行われることが必要になります。そのために前提条件となるのが、全身の筋肉がゆるんでいることです。プロ野球やメジャーリーグといったより高いレベルで活躍したいと思うなら、全身の筋肉が柔らかくて、ゆるんでいることが重要になってくるのです。』

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