直立姿勢を考える(1)|ニュースレターNO.262

今回は「スポーツトレーナー虎の巻-完全版2010」の魚住の考え方から紹介したいと思います。

身体のいろんな問題は、身体が自然体にないことが原因であると考えています。その自然体の定義に明確なものはありません。指導する側が一つの基準として、自分の自然体に対する定義を持つ必要があると思います。そこで、自然体の基本である直立姿勢について考えてみたいと思います。長くなりますので、2回に分けて直立姿勢の考え方について紹介したいと思います。

人間が四足動物から2本足で立てるように進化してからどれほどの年月が経過したのでしょうか。人類の誕生は地球の歴史では、1日24時間に直すと、誕生してわずか2分しか経過していないことになるそうです。我々のからだは、まさに進化の途中というより進化の始まりの段階かもしれません。

4本脚で体を支えて安定して歩きまわっていたものが、手を使うために2本足で立って歩くようになりました。そんな人間が元の4本足でどれほどのスピードで走れるのでしょうか。2008年に「四足走行100m世界最速記録」がギネスに登録されました。そのタイムは、18秒58です。

テレビでギネス記録に挑戦するという番組でのことでしたが、私も見ていました。猿のように両腕と両足を四つん這いの状態で交互に使い、素晴らしいスピードで100メートルを駆け抜けていきました。その人物は動物園で見た猿の動きに魅せられて、サルの動きをまねることにのめり込んでいった結果であるといいます。

2本足で立っていて、身体のどこかに不快感があれば4本足に戻ってもよいのではないでしょうか。例えば4本足動物に腰痛はないのですから、腰がいたければ這い這いしていれば自然に治るように思われます。5~6キロあるといわれる重たい頭を脊柱で支え、その土台である骨盤を左右の2本の脚で支えているという構造上から、上の頭の重りが正中からずれると、それを支える脊柱にたわみが生じます。

そのたわみをたわんだまま支えるために、特定の部分が緊張を強いられることになります。それが全体の歪みとなり、局所に不快や痛みをきたします。全体の歪みは、当然内臓系にも影響します。頑丈な筒の中に内臓が抑えられているのではなく、柔らかい組織が重なり合っているので、前後左右上下のどこかから、ゆがみのストレスを受けることが考えられます。

その結果、ストレスを受けた臓器の働きは低下します。外側を考えれば、脊柱ラインの歪みストレスは、脊髄周囲を流れる脳脊髄液の流れを抑制したり、脊髄神経の伝達を抑制したりすることが考えられます。

5~6キロある頭を支えている一番上にある椎骨は7個の頸椎で、第1頸椎の環椎と頭蓋骨の後頭骨とが環椎後頭関節で支えています。

この関節では、軽度の屈曲と伸展(約15度)、側屈(3~5度)、回旋(左右4~6度)ができますが、大きな動きはその下にある第2頸椎の軸椎と環椎で構成される環軸関節で行われます(屈曲・伸展は約10度、側屈はほぼ0度、回旋は左右47度)。頭が正中線に垂直状態になければ、この2つの関節に影響し、可動範囲が制限されるだけでなく、その下の第3~第7頸椎までの配列にも影響し、頸椎の正常なカーブが保てなくなります。

そうすれば、頸部周囲の筋の緊張が生じ、首こりや肩こりを生じることは想像できます。尐なくとも、頸椎の自然なカーブを維持して、頸椎をサポートする周囲の筋肉に緊張を生じさせないで、頭がきっちり第一頸椎の上に収まっていることが重要なのです。すなわち、環椎後頭関節と環軸関節の動きが十分な状態であるということです。

結局のところ、頭と体幹の正中を維持した自然体が保持できないことに原因があると考えられます。周りを見回してもきれいな立ち姿をしている人間を見つけることは難しいでしょう。

リラックスしたバランスのとれた立ち姿ができれば、上記のような異常は現れないはずです。日常生活の癖、職業上の癖、さまざまな癖というものが、自然な立ち姿・直立姿勢をゆがめる原因となるのでしょう。首、肩、腰、膝などの不快を解消するために、トレーニングをするという発想の前に、その根本原因であろうと考えられる崩れた立ち姿・直立姿勢を改善する必要があります。

バランスが崩れた緊張した肉体に力を出させるのではなく、まず緊張をとるために力を抜かせることが必要です。力を抜かせるために、ストレッチングすると
いう考え方ではなく、からだのパーツが尐しずれているので、適切な配列に戻すという考え方です。パーツの配列、すなわち骨の配列が適切でないから、そこに緊張が発生するのであり、骨の配列を適切なポジションに戻せば、自然にその周囲の筋や組織の緊張も緩和し、その弛みが全身に広がっていくはずです。

部分的な緊張や全体的な緊張をとるために、筋肉を伸ばしたり、組織をマッサージして緊張をとろうとしても、根本的な骨の配列が適切なポジションに戻っていなければ、立って重力負荷を受ければ、また緊張が再発し元通りになるというのは想像できます。うつ伏せや仰向けで緊張をとっても、最終的に、坐位・立位で骨の配列が適切なポジションに戻っていなければどうにもならないということです。

局所の不快は全体の崩れを導いているはずですので、常に全体を見て、全体を動かしながら自然体に戻していく必要があります。それが自然体の立位姿勢です。からだを緩みのポジションに置けば、病的に関節の拘縮がない限り、骨・関節は動くはずです。要は、どう動かして自然体に戻すのかということになるのです。

立位姿勢で大切なことは、2本足で立つことですが、両足の開き具合を考えてみる必要があります。通常は、安定するために、肩幅に開きましょうということが多いようです。しかし、肩幅というのは、骨盤を支える2本の脚は、台形状で骨盤を支えることになり、その上半身を支えるために両下肢の外側が強く緊張することが解ります。

逆に、両足を閉じた状態では、両下肢の内側が緊張します。いずれのポジションでも長く楽に立っていられません。理想的には、下肢の内側にも外側にもストレスがかからない緊張しない骨に垂直方向の、すなわち長軸方向のストレスがかかるポジションということになります。その条件にかなう足幅は、左右の骨盤を支える股関節の大腿骨と寛骨臼が関節結合している幅と考えられます。

実際には、両足の幅は10~15㌢ぐらいになると思われます。男性であれば、立ち小便をするときに、その足幅を容易に見つけることができます。足幅を変えて排尿すれば、一番楽に自然に排尿できる足幅が10~15㌢であることが解ります。閉じてしまうと、股が閉まって排尿できなくなります。快適な排尿のために、快適な足幅があるということです。

以下、次回に続きます。

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