「分かっている」「できる」「教えられる」|ニュースレターNO.239

自分では「分かっている」と思ったり、「できる」と思ったり、「教えられる」と思っていることは、だれにもあるはずです。しかし、人間の脳は錯覚して先入観をもったり、イメージを変えながら記憶を残していくということを認識しなければいけません。このことは、自分自身を振り返ってみれば気付くことも多いはずです。

あまりにも自分がもっている技術・テクニックや考え方が絶対だと思いこんでしまうと、停滞したり間違った道に進んでしまったりします。そのことが結果として、こんなはずではなかったと思うことになったりします。いろいろと勉強を積んだり実践を重ねたりしても、そのようなことが起こります。同じパータンの繰り返しが一番危険なように思います。

日ごろから、「自分はこのように考えているが、これでOKだろうか」と振りかえって繰り返し確認していく必要があります。特にトレーニングの分野では、新しい考え方が次から次へと出てくるので、何がまともなことか、何がおかしいか考えるだけで本質が見えてきたりします。

特に、「何とか理論」というものは、一番怪しいし、なぜそのような理論という名称を付ける必要があるのか考えてみると、結局は何かの応用というより名称を変えただけのことが多いように思います。本や雑誌についても同様で、よく専門家と称してエクササイズやストレッチングを写真で紹介しているものがあります。

そのようなものは特に何がおかしいか勉強するのに最適なものです。これはおかしくないかと疑って見ていくとおかしなところがたくさん見えてきます。説明の文書と照らし合わせると、こじつけが分かったりするものです。おかしなところがどれだけ目につくか、どれだけ見つけ出せるかが自分のレベルを確認する手段にもなるでしょう。

たいていは、人生経験が少なく、実戦経験も少ないのに、本やビデオを見たり、学校で学んだから自分はできると思ったり、わかっていると思ったりするものです。特に学校の授業で学ぶことは、ほとんど教科書に載った基本的なことばかりで、まず実践ではほとんど使えません。教科書を教えるのではなく、「コトの本質を教える授業」でなければまず実践で使えるようにはならないでしょう。

実践を重ねながら教科書を振り返るのであれば、知識としても身に付きますが、上辺の知識ばかり先行すると知識と実践がかみ合わなくなってしまいます。

スポーツトレーナーやパーソナルトレーナーとして何より大切なことは、まず“体はどのように動くようにできているのか”ということの理解です。どのように動くことができるようになっているのかが分かれば、どのように動かさせればよいのか、その指導能力が必要になります。これは指導技術になります。

教えることは、相手にまずどのように動かすのか理解させなければいけません。この際、言葉がけが大切です。どのような言葉を使うのか、当然相手の頭の中でその言葉を理解させ、理解したことを裏付ける動作が見られなければいけません。しかし、ほとんどこちら側からの一方的な情報伝達になってしまっていることが多いようです。

当然、結果は望んだものになるはずがありません。選手にせよ、一般人にせよ、やる側の理解ができていなければただやっているにすぎないので、それで結果を求めることはあり得ません。

それで、上手くやれないということはどういうことでしょうか。それは指導が悪いということです。知識があっても、適切な指導ができなければ教えたことにはなりません。

ただやらせただけです。常に、なぜうまくできないかということを考えなければいけません。上手くできないケースは、ほとんどの場合、動作の手順が間違っているのですが、それに気がつかないのです。またそれに気がついても、どのように修正・指導すればよいのかが分からないのです。

例えば、ウエイトトレーニングなどでよく見られますが、スクワットでどのようにしゃがんでどのように立ち上がるのか、ほとんど理解できていません。本などには姿勢のことなどは書かれていますが、それもいろんな書き方がされているのが現状です。勉強する人は、本の写真を見たり、ビデオを見たりしているだけで、自分で分かっていると思っているところがほとんどではないでしょうか。

本に書かれていることは、一つのケースにすぎません。スクワットでいえば、しゃがんで立ち上がるエクササイズですから、目的に応じで、どのようにしゃがむのか、そしてどのように立ち上がるのかという手段を考えなければいけません。だから、「スクワットはこうする」というようなことにはなりません。そのことがどれだけ理解されているでしょうか。目的があって方法があるのです。

ここに、「分かっている」「教えられる」と思っている錯覚があるのです。アスリートに対して、また一般の方に対していろんなエクササイズを教える際に、このことが大きな問題になります。ほとんどの方が本やDVD、学校の授業でしかほんの一部の表面上の知識と実践しか経験していないのですから、仕方ないことかもしれません。

本質を学んで理解しなければとてもプロとしては成り立ちません。まず「分かっている」「できる」「教えられる」と思っていないか、自覚することです。自分自身がそうですが、勉強を続けていくと新しい情報にであいます。すると必ずと言っていいほど新しいことに気がつくことは当然ですが、「そうだったのか」というように勘違いしていたことにも気づいたり、こんなことは知らなかったということにもであいます。

そこで見直すことの多くは、体の構造と機能のところです。解剖学が本当に分かっていないということです。体の機能構造を本当にわかるには、何年もかかります。それを実感しているのが今日この頃です。日々勉強を重ねないと身体調整にしてもトレーニングにしても上手く指導することができません。逆に、身体構造と機能が明確に分かっていれば、トレーニングにも身体調整にも大いに役立ちますし、新しいテクニックも発見することができます。

「分かっている」「できる」「教えられる」と思っている一番のものは、「ストレッチ・ストレッチング」でしょう。しかし、一番わかっていないし、指導できないものも「ストレッチ・ストレッチング」といえます。

「ストレッチ・ストレッチング」を教えるには技術が必要です。特に、パートナーストレッチングは、どこに手を当てるのか、どの程度の力加減でどの方向にどのように筋肉を伸ばしてあげるのか、というところが技術になります。ただ伸ばしているだけのことが多いようです。伸ばすにも目的があり、その目的のために伸ばし方が何通りもあるということです。

そんなこと、すなわちストレッチ・ストレッチングの本質がわかっていればその結果も目を見張るものが期待できるはずです。ただやっているだけではどうしようもありません。

常に、これでよいのかという疑問を持って物事に接していくことが大切だと考えています。勉強会を通して、「分かっている」「できる」「教えられる」と思っていたことに気がついていただき、コトの本質を理解してもらえるようになり、学んだことを現場で応用実践できるようになられていることは嬉しいことです。

コトの本質を教えていくことが本物のトレーニングコーチ、トレーナー、施術家、パーソナルトレーナーなどを一人でも多く育てることになり、そのことが私の務めだと思い、これからも日々努力を重ねたいと思います。

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