野球における常歩|ニュースレターNO.171

今回のニュースレターでは、皆さんの意見を聞かせていただきたいと思い、今年出版されて著書の中の一説を紹介したいと思います。ここのところ、意識と無意識について自分なりにいろいろ考えて実践しておりますが、意識をどこに、何におくかということと、無意識で行えることが最大のパフォーマンスを引き出せるというのが、現在の私の考え方であるように思います。

それで、以前から気に掛かっていたことですが、常歩(なみあし)・二軸で出てくる「外旋」ということです。

股関節の外旋域は、一般的には股関節90度、膝関節90度に曲げた状態で言われるように思うのですが、立った状態での股関節の内旋・外旋がどうも私には理解できません。立った状態では、股関節、すなわち大腿骨の内旋・外旋ではなく、つま先を内転・上転することで下腿が内旋・外旋し、それが大腿骨の内旋・外旋を導くように思うのですが、どうでしょうか。

上肢、肩の内旋・外旋についても出てくるのですが、これも私には理解できません。実際に動きを見てみないとなんともいえないのは当然ですが、文章の文字だけではどうにもイメージできないのが現状です。

そこで「常歩研究会偏:常歩式スポーツ上達法(スキージャーナル2007)」に紹介されている「野球における常歩」のところを抜粋してみました。ここで出てくる外旋がすんなり頭に入らず、引っかかり、動きがイメージできません。分かりやすく説明していただける方がおられましたらぜひよろしくお願いします。

このように、外旋にこだわり意識しすぎるとどうなるのかも心配なところです。自然な動きをさせれば、意識せずとも言われるような外旋動作が出るのかもしれません。全体の考え方は、先の著書を読んでいただければと思います。

『野球の投げる動作も、常歩から見れば、「押す」動作です。身体全体の運動量を、腕を通して投球に伝えるのがこの動作の目的です。

ところが、身体は止まったままで、腕を速く振る動きが投球だと誤解している人が多いようです。あるいは、身体を後ろに引いて勢いをつけ、腕を大きく振る動きだと思っている人もいるのではないでしょうか。とくにピッチャーのスローイングの場合は、思いきり後ろに身体を引いて投げる動作がよく見受けられます。

しかし、これは腕の振り幅が増えることよって「よく振れている」、「強く投げている」と錯覚した動きです。力強く投げたという“力感”があるだけで、実際のボールには身体の運動量が伝わっていない場合が多いのです。

あるプロ野球選手の話で、こんなことを聞きました。マウンドからキャッチャーに投げるときは肩が痛くてうまく投げられないのに、ゴロを処理して投球するときは、力強く良い球を投げられるのだと。なぜ、そのような違いが見られるのでしょうか。これは、ふたつの場面で投げ方が違うことが考えられます。

ゴロを処理したときの投げ方と、マウンドからの投げ方が違うために、このような問題が起こるのです。本来、投球とはキャッチボールの延長線上にあるものです。

ところが、ピッチャーマウンドに立つと、キャッチボールとはかけ離れた、まったく違う投げ方になってしまう。その選手は、とにかく速く投げたい一心で、体を後ろへ引いて投げていたというのです。

二軸での投球は、後ろに引くのではなく、前の軸に乗り込んで、身体の運動量を前へと押し出す動きです。そのためには、支持脚となる後方の軸から、投げる方向へとスムーズに重心を移動させ、その運動量を投球へと伝える必要があります。そのときポイントになるのが、「抜き」や「股関節・上腕の外旋」といった動きです。

前方ヘスムーズに重心移動するためには、それまで立っていた脚の股関節と膝を抜き、前の軸へと重心をシフトさせる必要があります。すると、前側の骨盤が自然に下がり、重力によって、前方へと自然に倒れていくようになります(身体を横にして階段を下りるときと同じ感覚です)。

さらに、これを導くのが外旋の動きです。前側の足を外旋することで、体重は外旋した方向へと誘導されます。これらの働きによって、前方へ勢いよく身体を落とし込むことができるのです。こうして前足を踏み込んだら、今度は振りかぶる際に、着地した前足の膝をわずかに抜きます。

すると、前の軸に引っ張られるように押し出された後ろの軸が、前の軸の力をもらい受けるようにして前の軸を追い越し、球を押し出す力になるのです。』

『上腕の外旋は、投球における大きなポイントになります。まず、テイクバックのときに上腕を外旋すると、腕がスムーズに上がり、楽に投球することができます。

バッターから見ると、ボールがピッチャーの頭の後ろに隠れるため、球種が読まれにくく、またタイミングを狂わせることができるというメリットもあります。

テイクバック開始時は、球を持った腕の前腕は回内(解剖学用語では、前腕は内旋といわず回内といいます)の状態で、上腕は内旋させた位置にします。テイクバックの過程で腕を上げていくときには、上腕には外旋方向の力をかけながら腕を上げていきます。内旋力をかけたまま腕を上げると、肩がつり上がって肩に負担がかかります。

球種を決める際にも、上腕の外旋は欠かせません。カーブやスライダーでは、上腕を外旋して投球します。上腕を外旋して投げることで、ボールを放ったあとの力の解放がスムーズで、肩や腕に負担をかけることなく、楽に抜き去ることができます。しかし、ストレートはやや内旋がかかるため、力が身体の内にこもり、抜けにくくなります。

ストレートで肩や肘を壊す選手が多いのは、そのためです。ストレートを投げるときは、振りかぶったあと、腕とは反対側に体重をシフトして力を抜く必要があります。これも、右と左の切り替えのひとつと言えるでしょう。ボールをキャッチして投げる一連の動作も同様です。左の軸で受け、右に移して、また左の軸に戻す、といった、素早い重心の切り替えによって生まれる動きなのです。

セカンドやショートがゴロを捕ったとき、ファーストに向けて右重心のスローイングをするシーンがよく見られます。このとき、選手はほとんど上腕を外旋させてシユートドライブをかけています。重心のある軸を使って投げるために、外旋によってボールの浮きを抑える必要があるからです。ドライブがかかるとファーストも受け取りやすく、タッチしやすいという利点があります。

往年の長嶋茂雄氏の動きは、まさにこれです。というより、ここでストレートで投げろと言われても、不可能なのです。よく上に暴投してしまう選手がいますが、あれはストレートでそのまま放っているからです。

腕が内旋してしまうピッチャーは、ノックを受けてファーストに送球する練習をすると良いでしょう。ゴロを捕って動きながら投げると、意識的な動きが解除され自然な動きになるものです。』

『バッティングでは「腰を回せ」ということがよく言われます。では、腰(骨盤)が回るということは、具体的にはどの関節が動くことでしょうか。それは股関節です。背骨の下部の腰椎が回ると思う人が多いかもしれませんが、実は腰椎はほとんど水平回転をしません。

両脚を骨盤の幅に開いて立ち、ラジオ体操のように体幹をひねって左右に両腕を回してみてください。このとき、股関節は内・外旋しています。では、股関節外旋(膝頭と足先を外側に向ける)と股関節内旋(膝頭と足先を内側に向ける)の状態で、同じように腰を回してみてください。外旋の状態のほうが回りやすいことがわかると思います。したがって、構えたときに股関節外旋の状態で構えることがまず大切です。

中日ドラゴンズの福留孝介選手は、2001年までは股関節を内旋させたインエッジ感覚の構えでした。足裏の母指球に体重をかけるような感覚の立ち方でしたが、翌年からは股関節、とくに捕手側の左股関節を外旋させて立つようになりました。足裏全体で立ち、むしろアウトエッジを意識しているような立ち方です。股関節を外旋させたほうに体重が寄るという性質が我々の身体にはありますので、福留選手は体重を左に寄せて構えるようになっていました。

中心軸感覚しか持たない選手は、左右の股関節に上体が乗っていないため、ピッチャーが球を投げてくるまで、いつもメトロノームのように中心軸を動かしておかないと、バッティングのタイミングがとれないことが多いようです。中心軸の動きでは、タイミングをとりながら打つというテクニックが必要になります。

ところが、二軸で左右の股関節に乗せることができれば、いつボールが来てもタイミングを合わせることができます。中心軸は同じ拍子でしかタイミングを刻めませんが、二軸の場合は、そのリズムを自由自在に変えられるのです。

二軸動作のバッターを見ていると、動きが止まっているため、一見固まっているように見えることがあります。しかし、これは二軸の姿勢で止まっているだけで、すぐに動くことができるものです。大リーグなどでも静止しているバッターをよく見かけますが、これは二軸動作だからできることなのです。

上腕外旋の要素はバッティングにおいても欠かせません。スイングするときに、投手側の腕に外旋力をかけておくことが必要です。投手側の腕について「脇をしめるように」とか「前の手の甲を球に当てにいくように」など、さまざまな感覚的表現でコーチングされているようですが、ポイントは脇が締まっていてもやや空いていても、外旋力をかけておくことです。

福留選手の場合は、左腕は脇が空いて内旋位置にありますが、左上腕は脇が締まる方向に向けて外旋力をかけながら構えています。この左腕の外旋力によって、右腕の支えを外したときに、左腕で押し込める体勢をとっています。』

『さて、福留選手の左脇が空いていると述べました。福留選手は左の好打者であり、やはり左打者であるヤンキースの松井秀喜選手も同じように左脇が空いています。ところが、右の好打者の場合、捕手側の腕すなわち右腕は脇が空いていないことが多いのです。それはなぜでしょうか。

左打者と右打者は鏡像関係ではないのです。それは私たちが「右ネジの法則」と呼ぶ現象があるからです。

通常ネジは右に回すと締まり、左に回すとゆるみます。人間の体も左方向に回すときにゆるみやすく、右方向に回すときに締まりやすいという法則があるのです。

右打者も左打者も、左軸が基準になり、左上腕に外旋力をかけることが大切になります。右打者は投手側にある左上腕に外旋力をかけて構え、テイクバック時も左上腕の外旋をかけたまま、右腕でプッシュして打ちます。投手側にある左軸に体重を乗せていく感覚です。それに対して左打者は、投手側にある右上腕に外旋力をかけるということにはなりません。

捕手側にある左上腕に外旋力をかけ、体重は乗せやすい左軸に乗せ、左の腕一本で押し込むようにして左軸を前に出していきます。

そのため右打者と左打者の技術では、右打者の方が難しいようです。たとえば、右打者は左打者に比べて、インコースを引っ張ったときにファールになりやすいですが、これは前足の左足に体重を乗せてゆるみやすい、ということだと思います。

読売ジャイアンツの原辰徳監督とお話ししたことがありますが、「左打者の指導書が100ページで書けたとすると、右打者の指導書はもう50ページは必要」と話していました。首位打者をとる選手に左バッターが多く、松井選手のように右投げでも左打ちの選手が活躍するのはそのあたりに理由があると思われます。

左打者出身の打撃コーチは、後ろの側の腕で押すことを強調することが多く、右打者出身のコーチは前の左腕の外旋感覚を教える人が多いようです。それによって右打者を教えるのが上手だが左打者を教えるのは得意でないコーチと、その逆が生じるのです。』

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