一流の指導者と選手の考え方|ニュースレターNO.152

来週から10月に入ります。今週末からは国体が開催されます。秋のスポーツシーズンの開幕か、というところですね。最近、指導や指導者について考えることが多くなってきました。選手をどのように育てるか、また選手に最高のパフォーマンスを発揮させるにはどうすればよいか、指導者として一つの哲学が必要のように思います。

このことは、競技の指導者にかかわらず、パーソナルトレーナーのように人の健康・コンディショニングを指導する人たちにも言えることだと思います。要するに、我々の世界でプロとして活動する者にとって、自分の哲学を持って指導する必要があるということです。決して、教科書的な指導になってはいけません。

教科書に書いてあることは、ほんの一例に過ぎないことです。いろんな考え方を知る必要があります。指導する対象者もまた、一人ひとり違うはずです。“must be”“must do”は、避けなければいけません。

一つの哲学を持った指導者から指導を受けることは、指導を受ける側にもその影響を受けるはずです。そうなれば、指導の効果というか成果も必ずついてくるはずです。つまり、指導を受ける側のレベルも高くなる、すなわち、一つの教育的指導になるということです。それほどの責任感を持って指導に当たりたいものです。

そうすれば、指導においてごまかしはなくなります。また、変な理屈をこねる事も無くなります。簡単明瞭な考え方で、簡単明瞭な指導を心がけたいものです。

さて、今回は尐し古くなりましたが、8月の新聞に掲載されていた話題のオシム語録とハンマー投げのオリンピックチャンピオンである室伏広治選手の談話を紹介したいと思います。

この記事を読むと、指導者とはどうあるべきか、また高いレベルを追求していく選手はどのような考えかたをもってトレーニングに臨まなければならないのか、よくわかります。特に、室伏選手の話は、指導者にとってトレーニングを考える上で、大いに役立つと思います。

まず、朝日新聞朝刊2006.08.09.から。

オシム語録:「戦術は自分たちで決めるものではなく、相手に対して作るもの。バルセロナだって同じだ」

7色練習に混乱

のっけから選手たちがパニックに陥っている。7日の練習。15人のフィールドプレーヤーが3人1組になり、5色のビブス(ゼッケン)をつけた。青、白、オレンジ、緑、黄。3組9人が、2組6「人の守備を相手にパスを回す練習だ。

いくつか約束事がある。同じ色の選手にはパスを出せない。ボールを奪われたら、取られた選手が属する色の3人は守備に回り、守備2組のうち、長く務めていた組の3人が、パスをする側に回る。誰が味方で、誰が敵なのか。状況によって変わる。そもそも、自分たちはポールを回す側なのか、奪いに行く側なのか。瞬時に判断しなければならない。

オシム語録:「どんな選手であっても、走れない選手は使えない」

再三、選手たちの動きが止まる。「青と白が守備だ!」 みかねた大熊コーチの大声が響く。この後も、最多で7色のビブスを使う複雑な練習が続々と登場した。オシム監督の狙いは、状況判断の速さを鍛えることにある。どこにパスを出せば、速く攻め込めるのか。どこに味方のサポートに入れば脅威を与えられるのか。単純な走るスピードではなく、判断力の速さこそが、速い攻めを生む。そんなメッセージが一つ一つの練習にこもっている。

「体力的に疲れている中で、どれだけ頭を使えるかが求められる」と、FW坂田は話した。元気印のDF闘莉王も、1時間半の練習の最後には黙り込んでしまった。

命令は出さない

6日の合宿初日も、オシム色が鮮明に出た。平成国際大との練習試合。先発11人を送り出したオシム監督は前線4人の配置だけを告げ、中盤と守備陣のフォーメーションは「相手の布陣を見て、自分たちで考えろ」と指示した。ひと’まず、選手たちは3バックを選択。途中から4バックにした。

「軍隊ではないので、命令は出さない。相手の出方で我々の対応も変わる」。オシム監督は、ここでも状況判断の重要性を説いた。選手交代時も、何も言わない。交代があるたび、ピッチに立つ11人は考えた。そして、FWの人数を増減させることで「課題」を、クリアした。

やみくもはダメ

一方、速さを求めながら、やみくもに走ることには意味を見いださない。平成国際大戦のハーフタイムには、「いつも百%で走ってもダメだ」と、動きに緩急の変化をつけてこそ、速さが生きると指摘した。

こんなことも言った。「二度、いいミドルシュートを打ったとしよう。だが、次に同じタイミングで打っても、慣れた相手に簡単に対応される。そんな時はシュートを打つふりをしてパスを出すんだ。そんな欺くプレーが必要だ」

報道陣への対応も厳しい。7日の練習後、問いかけた。「W杯でのトリニダード・トバゴの3試合をすべて見た人はいるか?」。手が挙がらなかったのを見ると、話はできないとばかりに引き揚げた。

オシム語録:「選手をけとばしたことはない。いつも言葉で目覚めさせている」

前日もみっちり

8日の練習も、試合前日の調整といった雰囲気は全くなかった。選手たちは3色のビブスをつけて、ボール回しや、攻撃3人、守備2人でペナルティ諸エリア内の攻防をみっちり練習した。

足を止めた選手には「なんで動かないんだ。動いていいんだぞ」。パスをミスすると「落ち着いて、正確にやれ」。髪を振り乱し、激しく身ぶり手ぶりを交えて指示した。

練習終盤には駒野、闘莉王、坪井、田中隼の4バックで相手のユトップに対応する守備と、駒野、闘莉王、坪井の3バックで2トヅプに対応する守備の連係を確認していた。(中小路徹)

「知性」こそ大事

初戦前に会見

今回の目標は。

「勝利を目指すのは当然だが、内容の分析も大事だ。知性、振る舞いなど、選手に対する要求は次第に高くなっている。勝つと見えなくなるものがある。負けるのは嫌だが、敗北は最良の教師だ。といって、試合後に学ぶために負けたとは言えない。明日、一定の成果が出るだろう」

「ちょっと政治的な問題だが、日本は敗北から学んだお手本だと世界は思っている。歴史、戦争、原爆の上に立って復興した。サッカーも強国に肩を並べることがどうしてできないのか。それが私の願いだ」

先発メンバーは。

「発表しない。相手は攻撃が優れているから守備はある程度固まっている」

今後、システムは変わっていくのか。

「システムよりもチームとしての知性を獲得することが大事。何をやってくるのかと、相手に恐怖を与えることが大事だ。短い時間では難しい。個人の知識とは違う。サッカーは11人でやるもの。1人だけ知性のない選手がいたら全員が害を被る」

「古い井戸ではない選手も試したいと言ったことをお忘れではないか。自分の言葉に縛られるのは嫌いだから、こうなった」

「呼べなかったのは千葉とガ大阪の選手と、欧州で活躍している選手。松井(ルマン)はレギュラーでやっていながらW杯では呼ばれなかったが、私の考えには入っている」

急きょ、青山を呼んだ理由は。

「五輪世代にもチャンスがあるというメッセージでもある」

主将は誰か。

「見栄えする主将は時に役に立たないことがある。私が決めるのではなく、チームの中にそういう雰囲気が出るのを待つ。主将は育てるものではなく、生まれるものだ」

朝日新聞朝刊2006.8.25から

室伏広治 31歳 アテネ五輪ハンマー投げ金メダリスト

質問:アテネ五輪で金メダルを獲得した後も、室伏さんは常に新しいものを取り入れようとしている。今は、どんな課題を持って取り組んでいるのですか?

室伏:今、世界のトレーニングが急変しています。このままだと、日本スポーツ界が後れをとる時が来るのではないかと思います。今までの常識が通用しなくなる。

ただ単にウエートの量を増やす、練習の負荷をあげる、ということではなくなっています。ハンマー投げでは新しいものの出し合いなんです。数年前から。みんなが想像できないような練習をしているんですよ。トレーニングの「原則・原理」ってありますよね。同じことを何度も反復するのもそう。だけど僕は、反復は絶対にしない。

しない方が練習になる。最初から慣れたら練習にならない。何が起こるか分からないと常に思ってやらないといけない。

例えば100齎の練習だったら、最初の10層にはコンクリートがあり、次に砂場があって、次にマットがきて、最後に画びょうがまいてある所をよけながら走るようなこと。しかも、それらを毎回入れ替える。そこまでやったらやり過ぎだけれど、要は緊張感が大事。反復して、きつくなってきて、根性で乗り切るのが精神力ではない。

そういう考えになったのは、(腰と脇腹を痛めた)去年のけがが大きかった。毎日同じトレーニングをして反復することで、アンバランスになることを知った。それが、肉体的にも精神的にもストレスになった。練習は楽しくないといけない。肉体を超えたところで感覚をつかむのが楽しい。

質問:来年の世界選手権は、日本で16年ぶりとなる開催です。選手として、どうすれば盛り上がると思いますか?

室伏:成績も大事でしょうけど、そればかりではねえ。一生懸命やるしかない。僕自身もトップを目指したいが、そればかりは自分の努力次第です。ただ、人気が出るためにただ単に記録を伸ばしたらいいのか。陸上って、そんなものじゃないと思う。肉体を超えようとする美しさや理想を持ったアスリートが増えればいい。

それが、陸上の本来の姿だと思う。その姿を今の選手に分かってもらいたい。多くの人に共感してもらえるように戦うことが第一じゃないかな。精いっぱいやる姿が大事。選手には、それ以外にない。

質問:世界選手権では金メダルはまだありません。やはり目標は頂点ですか?

室伏:メダル自体が大変です。うかうかしていられない。もちろんメダルの色は一番いいのがいいですが、まずはメダルを取ることが大事です。

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