早くも蒸し暑い7月に入りました。私のほうの体調は、日々よくなっています。6月6日に退院して、5週間が過ぎました。その間に、HSSRのスペシャル講座が3週間続きました。13時から18時前までの講座と、その後23時過ぎまでの懇親会があり、楽しい時間を過ごすことができました。
3回の講座とも、定員をオーバーする参加者がありましたが、尐人数のせいもあり、それなりに満足していただけたものと思います。その感想は、一部の方のものではありますが、ホームページに掲載しております。
コンディショニング講座がⅠとⅡの2回、リコンディショニング講座はⅠが終わり、22日のⅡを残すだけとなりました。講座の目的は、いろんな考え方を理解してもらうことと、その考え方を実践を通して体得していただくことにあります。決してベストなものではなく、いろんなことに応用が利く考え方と実践方法をお教えしたのです。
それは、教科書に載っているものではなく、私がこれまでに実践してきたことを通しての考え方と実践方法を披露したものです。したがって、受講された方は、身体調整の方法やトレーニングというものの考え方と実践方法がよく御理解できたと思います。考え方を尐し変えるだけで、こんなことができるのかという新しい発見があります。今回の講座は、正に参加者の方々にとっては、新しい発見であったと思います。
これまでの3回の講座は、定員オーバーであったのですが、22日のリコンディショニング講座Ⅱは、定員に達していません。それは、何をするのかよくわからないからだと思います。実は、この講座が参加者にとっては一番自分のものになる講座になっているのです。特別なテーマはなく、現在自分が現場で困っていることについて、その解決方法を実践を通してアドバイスするというものです。
治療法からトレーニングにいたるまで参加者の抱えている問題に対して相談にのるということです。参加者が尐なければ、それだけ一人の方が多くの疑問点を解決できることになります。現場で困っている事があればぜひその解決にこの講座を活用していただけたらと思います。
さて、今回は「温める」ということについて取り上げたいと思います。現在では、「アイシング」という「冷却」が主流になっていますが、それと正反対の考え方である「温める」ことの有効性を訴えている方たちもいます。以前、私が水分補給についての二面性の話をしましたが、「冷やす」ことと「温める」ことの違いとそれぞれの特性について理解しておくことも必要だと思います。
今回紹介するのは、田澤賢次、伊藤要子共著の「運動能力アップの新手法」(生活情報センター 2005)です。温める手法がソルトレイク冬季オリンピックで距離スキーの選手たちに取り入れられ、効果があったと報告しています。温めることで、HSP(熱ショックプロテインが)が増加し、運動能力が向上するというものです。
これも最近注目されてきた療法です。HSPについて、詳細を知りたい方は伊藤要子著「からだを温めると増える HSPが病気を必ず治す」ビジネス社 2005 を読まれることをお勧めします。
『がん細胞は、正常細胞に対して熱に弱いといわれています。まれに起きるがんの自然退縮が「熱」と関係があることを、1868年にドイツの学者がはじめて報告しました。実際に、肺炎などにかかったがん患者さんが、4~5日も高熱が続いた後に、がん細胞が消えてしまっていたという症例を医師たちは経験することがあるといいます。
その一方で、温度を上げてもがんは縮小せず、かえって高温に強くなる症例も出てきたのです。そこでさらに熱とがんとの関係を各大学や研究機、関が追求したところ、私たちの体やがん細胞に、熱に対する生体防御のための特殊なたんぱく物質が体内に生産されることが発見されました。そして、熱に対応するたんぱく物質であることから、これをヒートショックプロテイン(HSP)と命名したのです。
しかしHSPは、熱から体を守るだけではなかったのです。体内のあらゆる悪環境からも、細胞を守ってくれていたことがわかってきたのです。壊れた細胞の修復、寒さや活性酸素、重金属、アルコール、炎症などによる体内のストレスから、細胞を守っていたのです。このようなことから、HSPをストレスたんぱくと呼ぶことがあります。』
『新しい医薬品の有効性は、まず動物実験を繰り返して確かめられるのですが、HSPの体内での有効性も、はじめは動物実験で確認されてきました。しかし、人の体内でも動物と同じ有効性があるとは限らないことから、慎重に人体の臨床テストをしなければなりません。
このため、大学のスキー距離競技選手10名によって、HSPの有効性の検証が10日間の合宿で行われたのです。合宿中は、食事や生活が同じですから、同一条件下で行わねばならない実験には最適なのです。
この10名のうち加温群5名、残りの5名は加温をしない非加温群としました。そして加温群のみ、遠赤外線加温装置を使って全身を加温し、非加温群の5名とともに血液検査、リンパ球内のHSPの検査などを行いました。
加温群5名には、41℃~42℃に設定した遠赤外線加温装置に、うつ伏せ、あお向けそれぞれ20分ずつ、合計40分の全身加温を行って検査をしたところ、リンパ球内のHSP産生は、加温48時間後で平均2.64倍、加温後96時間後では平均2.07倍と増加していました。
このような検査結果から、ヒトの場合でもHSP産生の最大誘導時間は、個人差にもよりますが、加温後48~96時間の間であることがわかります。これはなにを意味するのかといいますと、加温後48~96時間後に運動すると運動能力が向上するということです。』
『ランニング機器のトレッドミルを使って、予備加温の効果を試してみました。
まず、予備加温するグループと予備加温しないグループとに分けて、2日後のトレッドミル運動中に、血液中の疲労物質にどのような変化が現れるのかを調べました。血液中の疲労物質の代表格は乳酸ですが、この乳酸の量が多いほど疲労が大きいということがわかるのです。
この実験で予備加温したグループの、運動を開始してからオールアウト(もうそれ以上運動ができない運動の限界)までの血液中の乳酸量と、予備加温しなかったグループのそれを比較したところ、予備加温を行ったグループでは、明らかに乳酸の産生量が抑えられていることがわかりました。そして同時に、オールアウトに達するまでの時間も長くなっていたのです。このような結果から、HSPは運動競技力の向上にもたいへん効果があることが証明されたのです。』
『10日間の合宿期間中、3日目に遠赤外線による加温装置で加温した予備加温群と非予備加温群の血液検査を行って疲労物質を調べました。
この場合は、やはり疲労の度合いを示す総ケトン体、アセト酢酸、3ヒドロキシ酢酸の蓄積の程度を調べたのですが、予備加温4日目に、加温群の血液中には疲労物質の蓄積はあまり見られませんでしたが、非加温群5名中の2名が、特にこれらの疲労物質の蓄積が多くなっていました。
このような結果は、数日間の激しい運動を行っても途中で加温しHSPを産生することによって、疲労の蓄積を軽くすることができることを証明したものであり、またこのようなHSPの働きは、疲労の蓄積で起こりやすい事故の予防などにも役立つことになります。』
『加温によってHSPが増加し運動能力がアップするなら、毎日連続して加温すれば、HSPが増加し続け、運動能力はどんどん向上することになります。
そこでこれまでは、運動前2~4日の1回だけの全身加温によるHSPの量を調べていましたが、改めて、1回だけ、2日連続、4日連続というように、加温の連続期間によるHSPの変化を追ってみたところ、意外な結果が出たのです。なんと加温でHSPの量が最も増加したのは、1回目のみで、2回目以降はほとんど反応がありませんでした。つまり、運動の2~4日前の1回だけの加温が、HSP産生を誘導するには最も効果的であることがわかったのです。』
『予備加温によるHSPの誘導は、時間的にどのくらいの期間、そのエネルギー効果を発揮してくれるかという実験は、マウスを使って行ってみました。
マウスの足を42℃で30分問予備加温し、そのあと1日後、2日後そして7日後に、51℃で再加温しました。その結果、予備加温したマウスの高エネルギー物質の枯渇時間は、延長していることがわかりました。しかし、予備加温7日後のマウスでは、非加熱マウスとの差が認められず、予備加温によって産生するHSPが筋肉エネルギー有効利用率を高める効果は、およそ1週間以内であることを確認しました。』
『前述のことからもわかるように、あらかじめ、私たちの生体に温度ストレス刺激を加えることによって、前もって生体防御能力を運動競技前に向上させておくことで、疲労しにくい体をつくり、代謝能力が向上し、細胞の能力を強化することができることがわかったのです。その結果、疲れにくく、運動能力が向上することがわかったのです。
生体防御能力の向上は、運動能力の向上のみならず、私たちが怪我を負ったときにその傷を修復する能力を向上させますので、怪我の治りが早くなることもわかっています。病気の予防、身体機能の回復への応用など医療面からも広く利用できるものと期待されています。』
『水は加温すると蒸気になり気体になります。また、冷たくすると氷になり固体になります。
一方、冷たいバターを温かいパンに塗ったときのように、脂も温めると軟らかくなって液体になり、冷たくすると固まりとなります。物質は一般に温めると軟らかくなり冷たくすると硬くなります。スポーツなど運動するときには、体をある程度温めて行わないと怪我をしやすく危険度が増加するのです。
また、体温が低下した状態での運動は、血液循環も悪くなっていて、酸素やミネラルが細胞に運ばれず、したがって細胞の疲労も早くなりますので、体を温めて運動することが大切です。このように、冷たい体での運動はとても危険なのです。』
『筋力を持続させるには、運動する2~4日前に遠赤外線加温装置を利用して体を温めておくほうがはるかに効果的であることが、実際にソルトレイク冬季オリンピックの選手たちによって証明されたことは前述しました。
このような効果は、スポーツ選手だけに見られるのではありません。運動の2~4日前に、あらかじめ体に40℃~42℃くらいの熱を与えておくと、あなたの運動能力だってアップするのです。これを予備加温効果というのですが、遠赤外線サウナとか、温泉などで一度しっかり体を温めておく、つまり予備加温しておくことで筋力が持続し、運動能力を高めることができるのです。』
『ヘルストレーニングでは、筋力をつけることはいいことだというわけで、さまざまなメニューが試みられています。「筋力」は、筋肉に取り込まれたブドウ糖が、赤血球が運んできた酸素と反応したとき発生するエネルギー量に支配されます。
従ってこのエネルギー量が多いと、筋肉の収縮と弛緩によって生じる体の各部位の運動能力がアップするので、特にスポーツ選手たちは筋力をつけるためのさまざまなトレーニングに挑戦するわけです。
といっても、運動選手には筋力だけではなく、運動に必要な行動するためのそのほかの体力、すなわち筋肉および呼吸機能の持久力、瞬発力、機敏さ(スピード性)、そして筋骨隆々の体ではない柔軟性と、さらに例えば野球なりテニスなり、あるいはマラソンなど、それぞれの運動に応じた体の特性がなければなりません。
このようなことは、スポーツ選手であれば当然要求されることですが、一般的に私たちが健康のために何か運動をしようとする場合にも、スポーツ選手ほどではないにしても基本的な狙いは、このような行動あるいは運動するための体力の向上にあると考えてもよいでしょう。目的はなんであれ、運動には筋力の影響は大きいのです。そこで、より効果的に筋力をつけるためには、筋肉の量を増やさねばなりません。
筋肉のエネルギー源は、大量のブドウ糖と酸素です。そして、ブドウ糖が足りなくなると、肝臓にためてあったグリコーゲンをブドウ糖に変えて補うのです。私たちが気づかなくても、体内では体のあらゆる部分の筋肉の状態に応じてこのような作業が絶え間なく続いています。
筋肉の量が多いと、この作業で筋肉の量に比例してブドウ糖の量も増えるわけで、その分筋肉の量が尐ない人よりも、筋肉エネルギーもあり、筋力が強いことになります。
同じ体重の男女で腕相撲でもしてみますと、勝つのはほとんど男性です。これは男性のほうが筋肉の量が多いから、筋力が持続し勝てるのです。しかし、いかに筋力があっても運動などで筋肉は疲労します。それは、生体側にとってストレスになるわけです。また、スポーツの競技などは、観る人たちにとっては大変楽しいものですが、選手にとって競技は一種のストレスにさらされることになります。
ところで細胞の中には、普段から細胞内の代謝にかかわっている生体防御機能をもったHSPというたんぱくが存在しています。そして、ストレスや疲労、あるいは傷害などを受けると細胞はより一層多くのHSPたんぱくをつくって細胞の損傷を修復するのです。つまりHSPは、細胞の危機を救うレスキュー隊員の役割をしています。
HSPのストレスに対応するこの働きをさらに効率よく利用するには、予測されるストレスを体が受ける前に、予備的に体におだやかなストレスを与えることで、HSPをより多く細胞の中に誘導して、本番のストレスに対抗してもらおうという発想が、予備加温です。このように、HSPはストレスによって増加しますので、ストレスたんぱくとも呼ばれています。
スポーツ競技や試合、あるいは運動という本番のストレスに直面する前に、加温という穏やかなストレスを与えてレスキュー隊員を増員、配備しておけば、本番のストレスによる筋肉のダメージは、予防、軽減あるいは速やかに修復され、その結果、筋力が回復またはアップして、運動能力を高めることができる、ということが現段階で証明された最新の筋力トレーニング法として注目されているのです。』
『・・・運動によって筋肉の中では、さまざまな変化がおきています。筋肉のエネルギー源がブドウ糖であることは、すでにお話ししました。体がエネルギーを必要とするときには、肝臓はたくわえていたグリコーゲンをブドウ糖に変えて血液に送り込み、それが筋肉の活力源となります。
しかし困ったことに、グリコーゲンをブドウ糖にかえるときに乳酸という筋肉の疲労物質が生じて血液に入りこんでしまうのです。そして筋肉で乳酸の量が増えてたまってしまうと、筋肉はついに動けなくなります。もちろん、これで筋肉の寿命が終わるということはありません。
それを救うのは、酸素です。酸素の運搬役は赤血球です。赤血球が運んできた酸素は、その乳酸を水と炭酸ガスに分解し体外に排泄できる状態に変身させ、筋肉の疲労を回復させてくれるのです。
とはいっても激しい運動などで筋肉中の乳酸の量が増え続けると酸素の供給が追いつかず、ついに筋肉の力は衰えていきます。
そこで筋肉を疲労させないためには、大敵の乳酸の生産をおさえればいいわけで、このときこそ、予備加温で増員され配備されたHSPというストレスたんぱくのレスキュー活動がはじまるのです。
最初にお話しした予備加温による競技成績の向上をもたらしたのは、まさにこのレスキュー隊により、選手たちの筋肉に疲労物質である乳酸の蓄積を減らすことができたことも大きな要因でしょう。
また、体の疲労は、細胞の酸化作用でもあるわけです。疲労が進行するほど酸化も進みますが、この疲労による酸化の予防あるいは軽減は、健康上そして運動の成果をあげるにも重要な意味があるのです。
この点でも、予備加温後2~4日の競技データに、十分その効果が現れていました。
こうしたことは、スポーツの競技ほどではなくても一般の人たちが行う運動は、個人差はあるものの筋肉に一種のストレスを与えるということでは、同じです。
いま、最新の筋肉トレーニング法として、ストレスたんぱくHSPが注目され始めたのも、そのような理由からだといえましょう。
ここでいう運動とは、特殊なものだけではなく、家事全般その他日常生活に必要なすべての行動も含まれると考えたほうがいいのです。なぜなら、筋肉の動きを必要としない動作は、ほとんどありえないのですから。』