四肢同調二柱走法|ニュースレターNO.142

平成スポーツトレーナー専門学校も授業を開始して3週間目に入りました。新入生には平成スポーツトレーナー専門学校のコンセプトと私の夢について話をしました。また、月曜日にはわが国の「スポーツトレーナー」の歴史について話をしました。

2回の話の中で、今年の新入生の心構えがこれまでの学生とぜんぜん違うことが感じられました。ここに夢を持ち、その夢の実現のために何をしていかなければいけないのか、いろいろ感じ取ってくれているようです。本当に、たくましい、楽しみな新入生たちです。

きっと本物のスポーツトレーナーが数多く旅立ってくれることでしょう。実践的な授業は、20名以下に分けてやっているので全員に眼が行き届く状況です。教員も、1年間を通して研修を続けてきたので、それを生かすよう努力してくれています。今後の平成スポーツトレーナー専門学校をどうか注目ください。

さて、今回のニュースレターでは、気になり続けているところを紹介し、皆さんの感想を御聴きしたいと思っています。それは、「ナンバ走法」、「ニ軸走法」を取り入れていると語っていた陸上短距離のコーチである高野進氏が今度は「四肢同調二柱走法」という新しいことばを用いだしたことです。

彼のこれまでの経過を見ていると、自分自身のスプリントに対するコンセプトというものが無く、世間で流行の言葉にかぶせてきている気がします。今回のことも、「ナンバ」「ニ軸」ということばが色あせてきたためと思われて仕方のないことだと思います。

ただ、ことばはともかく、そのコンセプトによって早く走れるようになれば何の問題もないと思うのですが、「四肢同調二柱走法」について書かれているところを読むだけでは、とても早く走れるようになるという氣はしません。そのドリルを見るとなおさらその間が強くなります。

スプリントに関して、速く走るということに関してどのように考えかたをもっているのか、その真意を知りたいものです。今年の3月号に陸上競技マガジンと月刊陸上競技に「四肢同調二柱走法」が紹介されました。それを紹介し、皆さんの感想を御聴きしたいと思います。

まず、陸上競技マガジン2006.03.に紹介されたのは、平成18年1月28・29日に日本エアロビクスセンター(千葉)で行われた「第2回JAAFコーチングクリニック」で高野進氏が指導した「短距離種目のコーチング」の実技で行われた習得ドリルです。

『四肢同調二柱走法は、「なんば走法」や「二軸走法」とも呼ばれているものである。高野氏は「なんば感覚」をイメージした走法を追求している。それは、身体を1つの柱としてとらえるのではなく、「竹馬」のように左右に2本の柱をつくるイメージで腕と脚とを同調させ、素早い左右の柱の切り替えと動作の先どりを目的とした走法である。また、振り下ろした脚の接地点に重心を乗せていくこと(乗り込み動作)も、ポイントとして挙げている。

この動作を習得するためのドリルを順を追って説明すると、以下の通りとなる。

 

1.柱をつくる

踵(かかと)を合わせて、つま先を180度に開きバレリーナのように立つ(白樺のポーズ)。次に手を後ろに回し、両方の手の甲を合わせて肘を後ろに引く(肩甲骨を合わせるような意識)。そしてそのままの姿勢で両手を静かに下ろし、180度開いたつま先をまっすぐに戻す。全身に無駄な力が入っていないことを確認し、立位姿勢を決める。

 

2.柱の移動

柱を前に傾けると自然に脚が前に出て重心の移動が始まるが、このままのタイミングだとすべての動作が遅れがちになってしまう。したがって、重心の前方への落とし込みを予測して動作の先どりを行う。つまり、柱の倒れ込みを意識して、前もって予備動作を入れておく(脚を先に前に運びつつ、柱の倒れ込みを待つ)。

予備動作としての脚の意識は膝におき、膝頭を二等辺三角形の頂点として前に引き出していくイメージで行うと、脚が後ろに流れにくくなる。足の接地はつま先からではなく、踵から乗り込む意識で行う。

 

3.二柱イメージとその移動

脊柱(せきちゅう)、肩甲骨、骨盤のポジションが決まったところで、二柱のイメージをつくる。まず、竹馬に乗っているイメージをつくる。次にそのまま90度身体をひねる(右利きの場合は左足と左肩を前に出し、右足と右肩を後ろに引く。ちょうどボクシングの構えのようになる)。その体勢から左脚と左腕を前に出し、すり足で左側の柱から重心を前に移動させる。その際、同時に右腕を後ろに引くようにする。続いて右腕と右脚を引き寄せ、2本の柱を移動させる。

 

4.同調移動「ハードルまたぎ越しドリル1」

四肢を使ったランニングづくりの第1段階として、ハードルまたぎ越しドリルを行う。まず、ハードルに対面して斜め45度に立つ。続いて、両腕を水平に上げてそのまま上半身をねじるようにしながら、手先を進行方向に向ける。そのままの体勢で右側の柱からハードルをまたぎ越して、続いて左の柱を通す。このとき、視線は必ず進行方向を向くように意識する。

 

5.四肢同調移動「ハードルまたぎ越しドリル2」

続いて腕のアクションを利用しながら、勢いをつけて柱を通すドリルを行う。ボクシングのパンチングの構えから、ジャブを突き出すようにしながら最初にまたぎ越した脚を接地させ、乗り込むように柱をハードルの前に落としていく。この際「押し腕と引き腕」と「落とし脚と持ち上げ脚」との同調を心がける。

 

6.四肢同調移動「ハードルまたぎ越しドリル3」

続いて、ツーステップを入れながら上述したタイミングでハードルをまたぎ越す。歩行でのまたぎ越しはなめらかな線で行うイメージであるが、ツーステップで行う際は力を1点に集中し、一気に乗り込む。四肢の同調と2本の柱が崩れないように注意を払いながら行うようにする。

 

7.四肢同調移動「ハードルジャンプオーバードリル」

走る動作は歩行とは違い、「踏み切り」と「着地」がある。そこで、四肢と2本の柱を意識してハードルを跳び越える。最初は2m程度の間隔でハードルを並べるが、ハードル間が狭いと加速をつけて跳び越えることができないため、しっかりと踏み切って、接地の際に腰が後ろに残らないように注意する。踏切脚が片方に限定されるので、セットごとに交互に入れ替えるようにする。

徐々にハードルの間隔を広げていき、着地から踏み切りまでの動作が間延びしないように、「挟み込み」を意識したつなぎにしていく。

 

8.ドリルから連続動作としてのランニングにつなげる

ジャンプオーバードリルからそのままランニングに移行し、四肢を同調させたランニングイメージをつくっていく。』

後一つは、月刊陸上競技2006.03.で紹介された「四肢同調のトレーニング」の記事です。

『私は今「ラスポート」のランニングクラブで、小学生、中学生、マスターズを指導していますが、この取り組みの中で良かったと思うのは、自分の発想がずいぶん豊かになってきたことです。動きづくりでも、これまでにないざん新なものが見つかったり、走法もかなり底辺が広くなってきました。子供のための練習もありますが、意外にそれがトップアスリートに応用できたりするのです。練習のバリエーションがすごく増えました。

今年のテーマである「四肢を同調させて走る」ということ。子供たちにまず腕振りから指導したんですけど、ただ「腕を振りなさい」ではないなと思いました。考えたのが、振り子のような腕の振り方です。

柱(体幹)に腕をつけて、柱の移動に腕の振りをつなげるためのタイミングの取り方。それをうまくやるにはどうしたらいいか。柱の強化と腕の強化で、手押し車を取り入れるようになりました。柱も左右2本を意識させてやります。

この「四肢同調トレーニング」は、うまく行き始めていると思います。右脚と右手、左脚と左手をチューブでつなぐ補助具(4輪駆動チューブ)も業者と改良を重ね、完成に近づきました。

これまで「腕を振れ」と言われていても、極端に言ったら、前から後ろに振るのがいいのか、後ろから前に振るのがいいのか、またなぜ振るのか、わからない人が大勢いたはずです。「走りのバランスを取るため」とか「地面を押すキックカを増すため」という答えがあったでしょう。さらに、2003年のパリ世界選手権で末績が銅メダルを取ったあたりから「なんば」が注目され、「なんばのように腕を使う」という言い方もされました。

さらにその後、私は「腕振りそのものの概念を変えてみようかな」と思って、まずは腕回しから入り、動物の走りの「前あし」に着目しました。動物は前あしを使って走っています。それをヒントに腕振りのイメージが浮かび、まだ完成はしていませんが、やっと発想が落ち着いてきました。

腕はくるくる「回す」のではなく、やっぱり「振る」イメージです。末績もそのイメージを推し進めているところです。

「走る」「食べる」「集う」の3本柱

末績らトップアスリートを頂点に、7歳から70歳までの年齢幅の人が同じグラウンドで練習ができる機会も珍しいと思いますが、その根幹となるのが「走る」「食べる」「集う」の3本柱です。

「走る」は文字通り、我々が追究していること。赤ちゃんが四つ足でハイハイを始め、やっと立ち上がって二足歩行を開始。さらに走るという行為に移ります。私は「走る」ということを「より速く、より美しく、より知的に」と考えています。

なぜ知的かというと、動物が走るのは「逃げる」「追いかける」という目的があります。人間はそういった目的以外に、自分の中できちんとその目的を持って走ります。走るという行為は単純ですが、知的な行為なんです。人類の英知を動員して、9秒台を目指したりしているわけです。動物は走ることに関してそうは考えません。

ですから、走ることはワイルドであり、知的である。そこに、私はアートとして美しさも求めたい。ゴールにたどり着くタイムだけが「走る」ではないのです。

「食べる」は生きていくための基本的な欲求であるし、身体は食べたものから作られます。食べる物が変われば、身体や脳に及ぼす影響も変わってきます。

食べることは生きていくうえで欠かせない行為で、こだわりもありますが、ないがしろにしている部分もあります。それは、いかに食べるか。走るという知的かつ原始的な運動と、食べるということ。栄養学的なところで結びついて考えられていますが、別々に捉えられていることが多い。

そこに「集う」ということが加わると、合宿で皆で食事をするような場面が頭に描かれ、私はすごく豊かな陸上競技活動ができるのではないか、と思えるのです。何を食べるかより、何を、どのように食べるかが大事なんです。』

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