もう3月の2週目を迎えてしまいました。ついこの間新年を迎えたと思ったのに、この時間の流れについていくのがツラくなってきました。自分のやりたいことに十分な時間が取れているのか、そんな不安がありますが、精一杯時間を無駄にしないようにやって行きたいと思います。
平成スポーツトレーナー専門学校の入学試験も今月後一回だけを残すところになりました。今年は本当に楽しみな学生が集まってくれたようで、今から楽しみでなりません。本当に充実した教育内容を本学独自の教育システムで、一人でも多くの本物のスポーツトレーナーを養成したいと思います。
他の学校で学んだけれど、「満足できない・もっと本物を学びたい」という2年時編入の学生も集まってくれました。平成スポーツトレーナー専門学校の入学に関しては気楽にご相談ください。本物を求める学生のための学校です。
さて、ようやくというか、ついにというか、ストレッチングはよくないという考え方が出てきました。日本にストレッチングが紹介されてから20年以上たちますが、ストレッチングそのものを否定するという考え方はこれまでにありませんでした。それを否定する本が出版されました。
加瀬建造「伸ばさず縮めるマッスルユニット・トレーニング」ベースボール・マガジン社2006です。著者の加瀬氏は、キネシオテーピングの考案者で、クライオパックを製作し、冷やすことの有効性を広げられた方です。本来はカイロプラクターです。私も何度かお会いして、御話した事がありますが、いろんなアイデアをもたれた方です。
筋肉は、縮むことによって力を発揮することは当然のことであり、伸ばすことによって力を発揮することはできません。以前に話をしましたが、筋肉は意識して縮めることはできますが、意識して伸ばすことはできないのです。そして、活動すれば、筋肉は短縮を繰り返し、活動を終われば元の状態より少し縮んだ状態になると考えられます。それを元通りに戻すことがストレッチングであり、元の長さ以上に伸ばしすぎてはいけません。
というより、関節が正常であれば正常以上に筋肉を伸ばせないように思うのですが、どうでしょうか。アイシングと同様で、アイシングも炎症を起こしている患部を正常な温度に戻すことが目的であって、冷やしすぎては二次的な影響が出てしまいます。
ストレッチングも同様で、正常より伸ばしすぎることによって、二次的影響が当然考えられるはずです。そのあたりのコトを頭に入れながら上記の著書を読まれると参考になる部分が多いように思います。そして、ストレッチとストレッチングの違いが理解できていれば、なおさら分かりやすいと思います。最初のところを少し紹介します。興味のある方は、完読されることをおすすめします。
『世の中にはウソが常識になってしまうことがほんとうに多い。これが大変な問題なのだ。図らずも、2005年9月、衆議院解散後の演説で小泉首相がガリレオの話をしていたけれども、ガリレオは天動説から地動説を唱えたために死刑になった。一昔前だったら常識を覆すようなことを唱えた場合には、即死刑。
現代社会では極刑に至ることはないが、間違っていることが常識としてまかり通ってしまっていることがたくさんある。実際にそれが間違っているのならば、正さなければならないのではないだろうか。
そこでストレッチング。私はこのストレッチングが、正さなければならない“間違った常識”だと考えている。スポーツ関係のトレーナーや選手も含めて、しかもそれが日本だけではなくて世界中で、「ストレッチングは体にいいものだ、不可欠なものだ」と考えられている。
この問題を提起するのは、私にとってはガリレオ以上に大変だなと思うが、そもそもキネシオテーピングを開発したのはこの問題がきっかけで、その後治療に携わり、実際に多くの選手や患者を診て試した結果、ストレッチングで筋肉を伸ばしすぎることが故障につながることがわかってきたのだ。
私は、最初は自分の体で何度も繰り返し試してみた。自分の体がストレッチングすることでどのように変化するのか、筋肉が伸ばされることでどのような症状が出るのかと。
そして今度は、同じことが患者さんや選手たちに起こっているかどうかを観察すると、やはり同じ結果が出る。
そこで生理学的に考えたり、解剖学的に考えたり、運動学的に考えたり……。いろいろな疑問を学問的な裏付けであたってみようとしたら、まさに筋肉は伸ばしたら弱くなるし、伸ばした状態から収縮することを繰り返しているうちに、筋肉は疲労を起こすということに気がついた。さらに、そのことから、筋肉だけではない腱そのものにも影響を与え、そして骨から関節に障害を起こすということが、確実に裏付けられたのだ。』
『筋肉を立体的な位置から見てみると、関節のそばに靭帯を保護しているインナーマッスルがある。これを伸ばしてしまうと関節はグラグラになってしまう。いろいろな治療法の中にストレッチングもあるのだが、治療をして悪くなる例を見てみると、伸ばしすぎて縮みにくくなると骨がずれやすくなり、症状をさらに悪くしていることがわかる。これは瞬間的に速く動かした場合だが、ゆっくり長く伸ばされたときには、皮膚と筋肉の上の筋膜が伸ばされることになる。
筋膜・筋肉というのはビニールのシートみたいなものだと想像していただきたい。ビニールのショッピングバッグがグーッと伸びるようなものなのだ。弾力性のあるゴムなら伸ばしたら引き戻しがあるが、残念ながら筋肉はゴムと違って戻りがなく、伸ばしきったら切れてしまう。つまり、伸ばすことによって徐々に弱くなるということが言える。
筋肉の特性は「伸展収縮」と言われているが、実際は伸展をして収縮するのではない。ゆるんだ状態になって、そこから収縮する。伸ばして収縮するのではなく、ゆるんだ状態から収縮するという意味だ。筋肉を使っていない状態、リラックスしている状態を、“よく筋肉が伸びている”と言うが、実際にはこれは筋肉がゆるんだ状態なのだ。
確かに最大収縮の反対は最大伸展ではあるが、筋肉は最大収縮から最大伸展するようにできていないということ。常にある程度ゆるんだ状態から“きゅっ”と収縮するようにできているのが筋肉なのだ。』
『日本人の多くがいろいろなスポーツに関与するようになって、スポーツ人口は確実に増えている。そして現実的に、スポーツの種類そのものが以前よりも多くなっている。フットサル、セパタクロー、ビーチバレー、スリーオンスリーのバスケットなど、数えればきりがない。
スポーツ障害の発生率は、絶対数が増えている現状からすれば、増加の傾向も致しかたない。私は、スポーツ障害はすべてストレッチングが原因だとは言わないが、ストレッチングも原因の一つであることは事実だと考えている。
多くのトレーナーたちは、スポーツ障害をできるだけ少なくするために、準備運動にストレッチングを取り入れている。一生懸命筋肉を伸ばして、筋肉に準備をさせている。しかし現実は、ストレッチングをやっているからといって、スポーツ障害が減っているだろうか。
ストレッチングをやって準備万端整えているはずなのに、障害が起こってしまうケースは多々あるのだ。ということは、ストレッチングがスポーツ障害を減らす役割を果たしていないのは事実だ。
たとえば、試合前にせっかく鍛え上げた筋肉を、ストレッチングをして筋肉を伸ばして試合に出るとしよう。鍛えすぎた筋肉というのは硬くなっている場合がある。
硬くなっている筋肉をストレッチングすれば、筋肉、靭帯は伸びすぎてしまって弱くなってしまう。すると関節は不安定になるし、関節がずれてしまうこともある。
実際にそれによってケガも起きる。いちばんよい例がプロ野球のK選手だ。あれだけ鍛え上げた筋肉を持っているというのに、ウォーミングアップで激しくストレッチング。その結果、ケガに泣くことに……。
とくに彼の場合は、大きい筋肉だけではなくてインナーマッスル、つまり関節のそばの筋肉まで鍛え上げているので、ストレッチングすると、関節のインナーマッスルまで強く伸ばされ、もう切れそうになっている状態だ。たぶん内出血くらい少し起きていると思われるが、そんな厳しい状態の中で激しい動きをするわけだから、ケガは起こるべくして起こっているのだ。』
『では、どんな準備運動を行えばよいのだろうか。何を行えば、ケガの起こりにくい体になるのだろうか。答えは、柔軟体操をやればいい。柔軟体操とストレッチングの違いは、柔軟体操ははずみをつけて行うものだ。その他にアジリティという、速さを鍛えるための運動をプラスして、端から端に動くとか……。
ボクサーがよく行っているジャンプもおすすめしたい。縄跳びのジャンプを1000回、2000回できているボクサーは、耐久力があるし、相手のどんな動きにも対処できる。ジャンプは重力に打ち勝つ上でいちばん重要な運動なのだ。余談になるが、私にとってのいちばんよい運動は、家の中で、毎朝、500回軽くジャンプすること。
周囲に響くといけないのでマットを敷いて、その上で500回、縄跳びする感覚で縄は使わないでジャンプする。かかとは床につけず足先だけで跳ぶといい。どんな運動よりも効果的だと思っている。
さらにそれぞれのスポーツに適応できるトレーニングとなると、後半部分で紹介するマッスルユニット・トレーニング(MUT)だ。
普段私たちが歩いているときは、ただまっすぐ一定のリズムで動いているわけだが、スポーツを行うときには、瞬間的に体をギューっと曲げたり反ったりするわけだから、そういう柔軟な動きに対応するトレーニング、瞬間的に避けるトレーニング、瞬間的に位置を変えるトレーニングなどを行わなければならない。そんな瞬時の動きを解析し、筋肉のメカニズムを理解した上で理想的に考えられたトレーニングがMUTなのだ。
先程も述べたが、筋肉というのは、効率よく機能させる準備をするためには、ゆったりと収縮させることが必要だ。その準備をするためのトレーニングがMUTなのだ。』