とにかく暑い大阪です。35度以上の日が何日続いているでしょうか。昨年のこの時期は北海道でUHPCのクリニックをしておりましたが、今年は開催できず大阪で暑さと戦うことになりました。
そうこうしているうちにアテネオリンピックの開幕が目の前に迫りました。日本選手の活躍も気になりますが、世界のトップアスリートの素晴らしいパフォーマンスが見られることにワクワクした感もあります。
特に、陸上競技では昨年の世界陸上で200mで銅メダルをとった末続選手に注目が集まっているようです。報道によれば200mではなく、100mで勝負するとのことですが、200mは本当に出場しないのでしょうか。
100mの方が決勝進出に疑問符がつくように思うのですが、どちらにしても楽しみです。日本選手権のサブグランドで彼の走りを十分見させてもらったので、彼の強さと課題もよくわかります。正に上手くいけば・・・・というところではないでしょうか。
ところで、今回のニュースレターが、通算100回目となりました。第1回目が2000年の6月で、以後月2回のペースで、4年が過ぎました。内容を振り返ってみると結構参考になるものが多いので、これまでのものを整理してまとめたいと思っております。整理ができましたら、皆様にもお知らせいたします。
さて、先日TarzanのNo.425が送られてきました。表紙の特集のタイトルを見ると「脳を鍛える」というものでしたが、よく見ると、直前企画「末続慎吾、スプリンターの科学」という記事がありました。コーチの高野進と末続慎吾の取材記事ですが、カラーで6ページに渡って掲載されていました。
内容的には、これまで本や雑誌に書かれたものとほとんど変わりませんが、いくつかポイントになるところが見られますので、その記事から抜粋して紹介したいと思います。
『・・・ 高野は言う。「外国人の骨盤は前傾していて、日本人は後傾している。マック式というのは外国人の骨盤に合ったトレーニングで、日本人向きではない」
前傾した骨盤を持つ外国人は、膝を高く上げるように意識しないと本当に膝が上がらない。意識することで膝がちょうどよく上がり脚が前に出て、その脚に重心を乗せていける。いっぽう後傾した骨盤を持つ日本人は、膝を上げろと言われると、本当に高く上がってしまう。
そのためカラダが反って重心が後方に残る。しかし、前進しなくてはいけないから、脚で地面を引っ掻くように蹴り、それを推進力にしたのである。この引っ掻くように蹴ることで起こる脚の動きがリーチアウトなのだ。
「これでは体力ばかりを使ってしまい、スピードはそれほど上がらない。で、私たちの言葉で言う”乗り込む”ような走りを目指したんです」
乗り込むとは、着地した脚に重心を乗せて進むこと。膝を高く上げると重心が後方に残ってしまうので、膝上げはあまり意識しない。そして着地した脚に即座に重心を乗せる。と、慣性の法則で重心はさらに前に進むから、逆側の脚を前に出して、そこへ重心を乗せていくのだ。
「重心が脚に乗ったときに地面を押す感覚ですね。真下に押すのですが、実際は重心が前へ移動しているから地面に対して斜め後方に押すことになる。それが推進力になるんです。押した脚はすぐに前に出す。決して蹴らない。地面から離れた後はもう用なし。蹴ろうとすると重心が残ってしまう。
ちょっと難しい話ですが、位置エネルギーと運動エネルギーがあるでしょ。位置エネルギーを利用して、宙に浮いたカラダを接地のときに落とし込み、その後地面反力をうまく受け取ることで運動エネルギーを得るのです。重力を利用して走るんです。だから、とても楽に走れる。スッスッと脚を運ぶような走りですね。上半身は上下動が少なく平行移動するような感じになります」
もうひとつ大切なキーワードがある。それがシザース、つまり挟む意識だ。着地して跳ねた瞬間に両脚を挟むように意識すると、後方の脚は素早く前に出る。しかも、骨盤が左右に大きく回転することも防げる。
体力的にも楽になるし、骨盤の位置がぶれないから走りも安定するのだ。「イメージで言えば、忍者が水のヒをサササッと走っている感じ。脚が沈む前に次の脚を前に出せばいいというのと似ている。いつまでも、脚が残っていてはいけないんです」
この走りにとって、最も重要になってくるのが体幹、つまりコア。末績もここを重点的に鍛えているのだ。「骨盤の上に乗っているコアがふにゃふにゃしていては、走りが安定しませんし、脚に重心をしっかり乗せていくこともできない。どこに進むかわからないような走りになってしまうんです。
右に行ったり左に行ったりみたいな。ですから体幹を鍛えて、さらにきちんと意識して走ることが重要になってくるんですよ」
「相撲の稽古のときに鉄砲というのをやりますよね。あれは同じ側の手と脚が出る。相撲というのはすごく重いものを前へ押すわけでしょ。ということは、自分の重心を思い切り前に持っていっているわけです。短距離も同じ。前に自分の重心を運ぶわけで、相撲のぶつかってくるモノをさらに押していく強力なパワーを取り入れられないかと考えたんです。
そこで昔からナンバという走りがあったなと思い出して。ナンバと完全に同じではないんですけども、タイミングの取り方は似せることはできると思ったんです。そこから、足が接地してから重心を前に運んでいくという腕振りを試して、”末績やってみる?”と言ったら、”やってみますか”みたいな。
そしたら、けっこうl00mとか200mの後半がいいんですよ。昨日の練習でも末績も”だんだんナンバが効いてきましたよ”なんて言って。この言葉が出ると彼は調子がいいんですよね」
ナンバにすることで、コアはさらにしっかりしてくる。昔の陸上の走りは背中に1本の柱があるような意識で走っていた。その柱を軸に骨盤を左右に回転させて進むようなイメージだ。だがナンバをすることで柱が2本になる。それが背骨の両サイドにある2本の背筋だ。
「1本の柱を使って押すのと、2本の柱で押すのとどちらが強いか。大きい力を出さなくてはならない相撲では、左と右、2つの柱で押していくんですね。
右、そして左と。それと同じでナンバ的な腕振りを使用し始めると柱が2本になってくるんです。そうすると、真ん中に1本の柱を意識していたときとは違い、腰や上体のオーバーローリングがなくなる。だから上体も安定して重心の移動がしやすくなるんです。
さらに柱を鍛える意味もある。たとえばボールに空気が入っていないと弾みませんよね。走りも同じでふにゃふにゃの筋肉は弾まない。体幹を鍛えることで走っているときにちゃんと跳ね返るようなカラダになるんです」
こうした理論によって末績慎吾の走りは生まれた。』
いろいろ疑問に思うところもありますが、以上のような観点から末続選手の指導が行われているということです。「なんば」や「二軸理論」などいろんな考え方があり、そのような考え方は否定するものではありませんが、肝心なところを見失わないようにする必要があります。
それは、走り方とともに、いやそれ以上に大切なことが基礎体力のレベルアップにあるということです。古武術についてもそうですが、一流になるためにはどれほどの年月と訓練が必要であるのか、それを忘れで技術だけ追いかけても臨む結果は得られません。
末続選手の場合、高校1年の体育の授業で裸足で幅跳びをして7m20跳んだという跳躍力があったこと、これまでの走りはキック方向がクロスされていたが、踵の引きつけが直線的に改善されてきたことがポイントになるのではないでしょうか。100mで10秒を切るには、LJも軽く8mを超えれるはずです。
それほどの跳躍力が基本的に必要になるということです。基本、基礎は何かということです。
「木を見て森を見ず」 ややそんな傾向がトレーニングの世界に見られるような気がします。世の中に「これは絶対である」というようなものは存在しないということです。特に指導者は、柔軟な思考をもってトレーニングや練習に取り組んでもらいたいと思います。
それから、平成スポーツトレーナー専門学校は、現在トレーニングルームとトレーナーズルームをリフォーム中です。月末までには完成の予定です。また、私は、現在暑さと戦いながら来年からのテキスト作りに追われています。
メディカルトレーナーコース、コンディショニングトレーナーコース、アスリートコースのためのテキストです。これまで私が集めた資料や著作などを編集しています。
テキストは、『コンディショニングノート(仮題)』『リコンディショニングノート(仮題)』という理論編と、『テクニックマニュアル』という実技編の3部作になります。いずれも250~300頁にわたるもので、私のところの学生のためだけのものです。来年の3月完成を予定しております。
また、来年17年度から大幅にカリキュラムを変更する予定で、内容も実践的な授業を重視し、そこに必要な知識を理論として付け加えていく形式にする予定です。本来専門学校は実業教育ですが、知識教育の座学が中心に行われていました。
作成中のカリキュラムを見ているだけでも楽しみです。そして後1年かけて、カリキュラムも整理し、18年度からは本当の意味で私の学校がスタートします。メディカルトレーナーとコンディショニングトレーナーの本当のプロを育てるためには、もっといろんな方々の協力が必要と考えておりますし、その体制も整える必要があります。
それで、もし私と一緒に仕事ができたらとお考えの方がおられましたら、どうぞ名乗り出てください。「何々がしたい」、「こういうことなら私はできる、やりたい」とお思いの方は、ぜひ御連絡ください(E-mail:uozumi@heisei-iryo.ac.jp)。
また、学校のホームページにある私の『夢を語る』を読んでいただき、いっしょに私の夢の実現に協力したいという方がおられましたら、どうぞお越しください。
いろいろご相談させていただきます。夢の実現は1人でできるものではありません。同じ志を持ったものが集まって初めて可能性が生まれるのです。そんな基地を私は平成スポーツトレーナー専門学校につくりたいのです。