コオーディネーショントレーニングの考え方|ニュースレターNO.088

トレーニングジャーナルの2月号に「コオーディネーション・トレーニング」の特集がありました。特集は3部構成で、第1部は鳴門教育大学の綿引氏が「コオーディネーションを考える」としてコオーディネーションの本質について書かれています。

第2部は「コオーディネーション・トレーニングの実践的課題」として徳島大学の荒木氏が実践における課題について書かれています。そして第3部は、同じく荒木氏が「コオーディネーション・トレーニング-実技編」として実際のコオーディネーション・トレーニングの方法について解説されています。いずれもワークショップの講演と実技からの紹介のようです。

綿引氏のコオーディネーションの本質のところも荒木氏の実践的課題も興味深いもので大切な理論編といえるものです。まだ読まれていない方や、読んだけれどよく分からなかった方はもう一度読んでみて下さい。

大事なことがたくさん書いてあります。実は今回の記事で、私が一番参考になったのは最後にあります質疑応答の要約のところでした。先の内容を理解していれば本当に面白い内容ですし、とレーニングに大いに役立つものです。すべては書けませんが、指導者にとって参考になる部分を上げてみましたので、その意味をよく考えながら読んでみて下さい。解答はすべて荒木氏によるものです。

Q:運動中の音に対して、色とか味をイメージするというのはどういう意味?

人間の感覚というのは、光が当たったときに、たまたま聞こえた別の音とか、温度というものを捉えています。人間の脳は、光が見えたときに80%は光で処理するけれども、残りの20は周りの雰囲気などを含めて覚えようとする能力かあります。それは昆虫と違うところです。

これを意識的にすればするほど、学習というか、形をつくりやすくなる。例えば、記憶力が優れた人というのは、文字を見たとき、その文字が書いてある画用紙の紙触りとか、蛍光灯のランプの色とか、そのときの状況を全部吸収して理解しようとします。そういう感覚を能動的に処理するため、意識的に常に行っておくということです。

例えば投げる練習をやるとき、投げることを100回やるよりも、投げることと反対の練習を20回やったほうが早く効果があります。だから、ジャンプする練習は着地の練習を先にやる。投げる練習は飛んでくるボールを受ける練習を先にやる。

こうして、本来やるべき動きを何度も再現するより、逆の動きをやったほうが運動をつくっていきやすい。そういう原理があります。運動では何かを発揮するよりも、そのときの感覚を求める動き、感覚のほうが先に興奮しているということがあります。コオーディネーションでは事前に感覚で予測したことに合わせるようにしています。

Q:今、話題の「ナンバ走り」をどう解釈する?

「ナンバの走り」と表現すると、同じ側の手と足を出すという「ナンバ」歩きが強くイメージされますが、結局、肩と腰をしっかり使えば走れるので、手を振ってエネルギーを使う必要はないということです。要は、体幹の動き、肩から骨盤の動き方が最も重要な点で、手と足とが揃うかどうかは大した問題ではない。

骨盤がずっと前に出てくれば、肩が全然動かない現象が出てきますので、いかにも安定した感じが出てきます。このように骨盤と体幹の捻じれ、バランスがとれているということが本質です。

Q:トレーニングでバランスの部分が入っていましたが、ウエイトトレーニングで体幹のトレーニングをやったときなどに、この練習を混ぜてやるのか、ウエイトトレーニングはウエイトトレーニングとしてやったほうがよいのか?

大原則は分離した発想は持たないほうがいいということです。筋力を発揮するとか、持久力の発揮というのは決してスキルと無関係ではありません。

つまりコオーディネーションするのは、いろいろな反応であるとか神経系の話が出てくるようだけれども、何をコオーディネートするのかと言うと、筋線維の肥大や筋力の発揮とかとものが重要なファクターにはなります。

だから筋力を高めて筋肉を肥大させようというと、筋肉を取り出して、いろいろなことで刺激を与えたくなるだろうけれども、どうやって筋力を高めるかと言うと、それは動きをどうつくるかという過程です

だから、例えばベンチプレスをやるにしても、バーベルを挙げるにしても、単純にその筋肉を肥大させようということではなくて、どうそれを使うかという話です。

私はよく言うのですけれども、日本では筋力は高ければ高いほどいい、持久力もレベルが高ければ高いほどいいと考えられがちですが、それは全く逆で、筋力を高めないでいかに強い力を発揮して、持久力を高めないでいかに持久力を発揮できるかという発想、それは正に動きのつくりです。

栄養があるという牛のレバーだけを食べるよりも、栄養がないと言われている牛の皮となんとかを一緒に食べたほうが栄養効果がはるかに高い。つまり複数のものの組み合わせをするのが高いレベルで、ケガがない一流選手というのは、やはりバランスがとれている。

では、現実に筋力トレーニングをやるときに、どういうことに注意しなければいけないかと言うと、一軸の動きのトレーニングは避けたほうがいいということです。どういうことか言うと、バーベルを挙げるとき、ある関節角度から挙げます。

でも、人間は何も言わないでも一軸でやろうとしないから、2回目に挙げたときには、腕を曲げてみたり、捻ってみたりします。バーベルを挙げるとき、同じ軸ではなくて、2回目には体を曲げてみたり、もっと言えばバーベル自体のバランスを崩してみたりして行う。バルーン(ボール)に乗ってウエイトトレーニングをやることなどは当然必要なことです。

それからおもりにしても、バーベルを挙げるときに右と左のバーベルの位置などを不安定にしてみたり、何よりもともかく単純に挙げるだけでなく、左右に動きをつけて挙げるというふうにすることが、神経には非常に大事です。

私はどちらかと言うと、動きつくりにおいては、おもりを使わないで、手動負荷(徒手抵抗)といって手の負荷を推奨するほうです。人間同士、手で、あるいは足で動かそうとするときは、機械と違い、ある特殊な振動で揺れます。

機械の動きは一軸ですが、人間同士で向き合って、腕を押したりすると皮膚と皮膚の反射で揺らぎが起きます。これが神経には「これは物じゃない」というシグナルになり、微妙な動きをするから、それに反応しようとします。

そのわずかな動き、それにどう反応するかが大事なのです。多分、日本で行われているウエイトトレーニングの多くは、その意味で一軸だけに刺激を与えるという旧式のやり方ではないかという気もします。筋力トレーニングは筋肉を肥大させると同時に、その筋を支配している神経に刺激をどう与えるという発想がなければ絶対意味がないと思っています。

Q:大学でボートをやっています。ボートの漕ぐ動きに合ったトレーニングというのは?

例えば筋線維が4本あって、こちらは2本しかないとします。しかし、4本がそれぞれがずれて収縮したとします。一方2本だけの筋線維でもその2本が同時に団結して収縮すれば、4より強い。これが筋の同期性であって、筋力トレーニンクをするうえでは、どうやって一瞬の少ない筋線維で同期的な構成をするかというのが、最近の考え方です。

具体的に言えば、一瞬の力を「カッ」と入れる練習では、力で入れたあとに緊張を取る練習からやらなければいけない。例えば一番簡単な方法を挙げてみましょう。

腕相撲をするように、手と手を合わせて、力を抜いたら抵抗をすぐにやめて下さいと言う。筋出力の立ち上がりも強く上がって、力を抜いたときに速く抜けるという状態をつくる必要があるわけです。

例えば、剣道で言えば当った瞬間に、打ち抜かないで引く感じです。ボートでも力を入れて引いたから、最後まで引ききらずに途中で力を抜いて戻す。最初に力を入れて、「パッ」と抜いた瞬間に、筋が同時に収縮します。力を一瞬で出すということと、力を一瞬に抜くという練習をしなければならない。

ところが、次の問題が起きます。ほとんどの筋が同期的に放電し始めると、そのときにケガが起きやすくなってくるということです。なぜ、バラバラに筋が収縮するかと言うと、ケガを起こす可能性かあるから、一斉に放電するのを少し抑えるからです。だから逆にこういうトレーニングをしていくと危険性も出てくるわけです

だから、こういうトレーニングをするときには、一般の筋力トレーニングでの負荷よりも弱い負荷のほうがよいと思います。筋肥大ではなくて、動きづくりが先行していているからです。まず動きづくりを先にし、それに応じて筋の肥大や神経の要素が決まってくるということだと思います。

つまり神経の動員をいかに一瞬の間にできるか、またそれを解除することができるかが大事になります。

例えば最大筋力の75%を発揮してくれと言われても、普通はできませんが、非常に優秀なスポーツ選手は、何%の力を出せと言われれば、驚くほど分化能力があって、正確に出します。これは、それだけ神経の配列を自由に変えられるということです。だがら筋電図をとって、いろいろな波形をずっと調べてみると、優れた選手ほど、強い力と弱い力を発揮したときには違う筋線維が動員されているのがわかります。無駄な動員はしない

ところが運動をあまりしないと、強い力でも弱い力でも同じような筋放電が生じる。スポーツにおいて、筋を鍛えるというのは、動きをつくるということです。筋力トレーニングは筋力トレーニング、スキルトレーニングはスキルトレーニングと分けてやらないということです。

以上の内容から筋力トレーニングの方法について重要な示唆を与えられています。最大重量に挑戦していくことが、そのままパフォーマンスの向上に直接結びつくものではないということを示唆されているわけです。

私自身も現在スプリンターに筋力トレーニングを指導しておりますが、また高校野球の選手たちにも筋力トレーニングを指導してきましたが、重量負荷ではなく、身のこなし、身体の使い方、力の入れ方・入れるタイミング、入れる程度、力の抜き方などについてその大切さを教えております。筋力=重いもの、高負荷のトレーニングという図式の危険性はこれまで感じてきたことです。

私の指導理念である「楽な」「リラックスした」「スムーズな」動作の重要性を解説してもらった気がしています。ぜひ特集をお読みください。指導の考え方、筋力トレーニングの考え方が変わると思います。またコオーディネーションは、コオーディネーションとして独立したものでないことも理解できると思います。

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