
NSCAジャパンジャーナルの2001年12月号に、『中高年のための爆発的トレーニング』と言う記事が載っていました。その記事を読まれた会員の方から掲示板で質問がありました。それは、中高年者にも転倒防止の意味からも爆発的トレーニングが必要に思うが、どのような方法がよいかと言うものでした。
この質問から、一つの情報を見たとき、いろんな解釈ができるものであり、解釈を間違えてしまうと間違った判断をしてしまう危険性を感じました。
それで今回のニュースレターでは、その記事を紹介し、皆さんはどのように解釈されるか、私の解釈と比較していろいろと検討していただければと思います。当然いろんな捉え方が出てくるように思いますが、よく考えてみると本筋は一つしかありません。
『・・冒頭略・・・・筋パワーは、神経伝達スピードの低下、高い力発揮を行う速筋線維の選択的な萎縮によって筋力低下が起こるために、加齢に伴い顕著に低下する。
このような筋パワーの低下は、多くの場合、中高年の転倒の大きな原因となっている。しかし残念なことに、動作の素早い実施を伴う筋パワーの神経的な側面に焦点を当てた爆発的トレーニングなしに、顕著なパワーの改善は起こらない。
また、通常のレジスタンストレーニングは筋パワーのストレングス要素を扱うため、両方のトレーニング法はともにプログラムに用いられるほうがよいだろう。
爆発的トレーニングはまた、骨に直接的にかかる負荷への応答のみでなく、どれだけ素早く骨に負荷がかかるかによっても骨密度の改善を助け、加齢に伴い広範囲にわたって衰える他の身体的要素の改善をも助ける。骨粗鬆症が世界中の何百万人もの人々に影響を及ぼすいま、この問題はより全般的なヘルスケアにも関連する。
最後に、爆発的トレーニングに対する最も誤った仮説は、傷害率が高いとされていることである。しかし、傷害の原因は速く挙上したり重いものを挙上するためではなく、不完全なテクニックで行うことによると考えられる。
それゆえ、適切なテクニックを強調し、綿密にそのことを確認させて、中高年は爆発的トレーニングを安全に、成功裏に実施できるのである。』
上記の文献を読んで、『加齢とともに速筋線維が萎縮し、同時に神経伝達スピードが遅くなる。そのことが中高年の転倒の原因と考えられる。
そのために、速筋線維を強化するパワー系のトレーニングをする必要がある。爆発的トレーニングは骨密度の改善にもよい効果を与えるので、適切なテクニックを指導すれば、非常に効果が得られる。』と言うように理解されることになると思います。
この様な理解はいかにも正当なように思われますが、一つずつは正しいといえますが、それらを組み合わせていくと納得できない解釈になってしまいます。
速筋線維が萎縮しているから爆発的トレーニングを行うと言うことはどうでしょうか。スピードを意識した動作では、速筋線維が動員されることは理解できますので、萎縮した速筋線維を刺激することはできると考えられます。
次に、筋パワーの低下が転倒の原因であるということはどうでしょうか。ここでの考え方は、筋パワーと神経伝達速度の関係を言っていますが、神経伝達速度の低下が筋パワーの低下と関係があることは理解できますが、問題は、そのことと転倒の関係です。
パワーが弱い人は転倒するという考え方になってしまいますがどうでしょうか。
次に、骨にかかるストレスについて、そのストレスのかかり方、すなわちスピードを持ったストレスが骨密度の向上に効果があるという理解になりますが、私自身勉強不足で、ストレスのかかり方にスピードがどのような影響を及ぼすのか、そういった資料を見たことがないので何ともいえません。
ただ感覚では、『急激なストレス』と言う意味では、非常に大きなストレスが局所的に加えられるイメージがありますが。 最後に、中高年の人にも、テクニックを教えれば爆発的なエクササイズも問題はないと言うことになっています。
ここで言う爆発的エクササイズとしては、ジャンプスクワット、レッグプレス投げ、ベンチプレス投げと言うようなエクササイズを紹介しています。
以上の考え方から、中高年者に転倒防止のために爆発的トレーニングを勧めるべきだと言う解釈ができるでしょうか。
私は、転倒防止のために、何故爆発的トレーニングをする必要があるのか疑問です。どの程度かわかりませんが、速筋線維が萎縮することが転倒の原因と言う固定概念になってしまっているように思います。
転倒と言うことを考えてみると、バランスを崩して危ないと思ったときに、足が一歩出るかどうか、また手を出すことができるかどうかというようなことではないでしょうか。
と言うことは、反応が鈍くなっていると言うことがいえますし、足や手を出しても支えるだけの力がなかったということもいえます。また、その前に簡単にバランスを崩すと言うこともいえます。この3つのことが転倒の大きな原因ではないでしょうか。
それでは、この原因に対する対策として、爆発的トレーニングが必要でしょうか。加齢によって低下した反応の鈍さを改善するために、本当に爆発的トレーニングが必要でしょうか。テクニック的にも難しいし、その習得に時間がかかるでしょうね。
スポーツの向上のためなどの目的として爆発的トレーニングをするのなら理解もできるのですが、一般のからだが硬くなった中高年者にそんなに難しいエクササイズを指導する必要があるでしょうか。
私なら、ゆっくりした動作で、姿勢を正したスクワットをさせるだけになると思います。後は、歩いたりジョギングしたり、何か動的なスポーツを楽しまれれば良いと思います。
人間にとって大事なことは、重力を受けることですし、それに重みが加われば骨にも良い意味のストレスが加わり、骨密度に対しても良い影響が期待できるはずです。わざわざスピードを加えて骨にストレスを加える必要はないと思います。骨密度に問題があるのなら、そのようなストレスの与え方は、余計に骨の傷害の危険性が高いように思えます。
反応が少々遅くても、下半身がしっかりしてバランスが取れていれば転倒はしないはずです。爆発的トレーニングでクィックリフトを活用し、クリーンやスナッチまですることになると、更に問題は多くなると思います。それは、中高年になるとからだも硬いし、肩の動きも硬くなって、とてもスナッチどころではないですし、クリーンで肩の上にバーをのせることも難しいはずです。
一つの考え方が出てきたときに、いろんな方向から検討してみる必要があります。そしてあらゆる角度から検討したときに、なるほど納得できると言うことになれば、ひとつの理論や方法として理にかなったものと考えることができるのではないでしょうか。以上は、私の考え方、捉え方でしたが、皆さんはどのように捉えられたでしょうか。