
ソルトレイク冬季オリンピックが開幕しました。その中で、ジャンプと複合、そしてスピードスケートを見て感じたことを書きたいと思います(まだ3日目を終えたところです)。
複合競技は、昨年合宿に数日参加したこともあり、注目していました。特に荻原選手がどうなるのか。ジャンプと複合は、特にレベルダウンした感が強く、その原因はいろいろあると考えられています。1つには、日本人に不利になったとされるスキーの長さが短く規制されたことが挙げられています。
しかし、日本人と同じ体格の外国選手が、活躍していることもあり、この問題も問題でなくなっています。ここ数年間、身体を軽くするために減量に取り組んだようですが、それによってパワーも減少させてしまったようです。
それに気がつき、昨年から筋力トレーニングを積極的に導入したと言うのが現状です。このことだけを見ても、パワー種目でありながら、筋量・パワーを落とすと言うとんでもない考え方に行き着いたところが常識では考えられません。それがナショナルチームであると言うことが、情けないという一言です。
昨年からの筋力トレーニングで、それなりの成果が見られるようになり、今回のオリンピックも期待されていましたが、結果的にはもう1つと言えますが、現状の結果ではなかったかなと思います。私が気になったのは、踏み切り動作です。
日本の選手と外国選手の踏み切り動作はまったく異なります。これはスピードスケートの滑走動作にも感じました。
日本選手の踏み切り動作は、クラウチングスタイルから、膝の伸展動作、大腿部を使った立ち上がり動作が見て取れます。
しかし、外国選手の踏み切り動作は、上体のお越しと、股関節の伸展動作から始まっているように見えます。すなわち、股関節の伸展動作によってエネルギーを生み出し、それを足に、スキーに伝達すると言うことですが、日本選手は逆で、両脚で踏ん張って上体を持ち上げていると言うことになります。
このことだけからも、踏み切り動作のパワーに大きな差が出ているのではないかと考えられます。能力的には、差がないけれど、この力・パワーの伝達の差になっていると思いました。
結局は、踏み切り動作の基本的な考え方に問題があるような気がします。そのことが荻原選手にも大きな問題になったように思います。
昨年からフィンランドのコーチを呼んで、クロスカントリースキーのレベルアップに力を入れてきました。私も合宿で、そのコーチと話をしましたが、しっかりした理論を持っていて、トレーニングプランも段階的な計画を立てられていたので、必ず結果は出るだろうと思っていました。
しかしそのとき感じたことは、クロカンは強くなってもジャンプに問題があるのではと言うことでした。ジャンプのためのトレーニングに理解できないものであったからです。基本的には踏み切りのパワー種目ですから、その対応が必要なはずです。
しかしそこで行われていたトレーニングは、伝統的なアプローチを安定させると言うアイソメトリック系のエクササイズが多くありました。踏み切り時のパワーアップにつながるようなエクササイズがほとんど見られなかったからです。
クロカンのためのトレーニングはフィンランドのコーチがしっかりしたものを作られていましたが、ジャンプのためのトレーニングは日本のコーチによるものでした。私の目からなるほどと言えるものはなく、思い出すこともできません。
特に、荻原選手は32歳と言う年齢を考えれば加齢による自然な体力の低下があるはずで、全盛期の筋力、パワーに近づける努力をしなければいけないはずなのに、恐らくこれまでと同じようなトレーニングをしていたはずです。そのことが今回のオリンピックにも結果として出たようです。
彼のジャンプは2本とも、現状では最高のものでした。しかしどう見ても踏み切り動作が遅くなって、パワーが低下していることが解りました。課題の分析が確かであれば、後5mは楽に飛べていたはずですし、そうなればメダルにも手がとどいたはずです。
翌日の15キロのクロカンは、優勝者と30秒程度の遅れをとっただけです。クロカンでは、世界のトップと引けを取らなかったのです。これはクロカン練習の成果です。伝統的練習やトレーニングにこだわることの典型的な失敗例ではないでしょうか。
ジャンプ競技からは踏み切り動作の違いを感じたわけですが、スピードスケートでも蹴りと言うかプッシュと言うか、スケーティング動作の違いを感じました。一昨年のシドニーオリンピックの自転車競技を見て感想を書いたと思いますが、まったくそのときと同じ感想です。
日本選手は、「大腿四頭筋依存症」のように思われます。大腿四頭筋の太さがそのまま結果に現われるような考えをもっているのではないでしょうか。私には外国選手はどう見ても股関節の伸展動作を使って滑っているようにしか見えませんが、日本選手は大腿四頭筋を使って滑っているように見えます。
そのことが特にスピードの急速なダウンにつながっているように感じます。グリコーゲンを使い切ってしまえば、その後どうにもなりません。そこにはペース配分が何よりも重要に感じますが、そのような作戦はこれまで見かけません。いかに効率よくエネルギーを使い切るかということが最も大事なはずですが・・・。
エネルギーの使い方と共に問題に思うのは、スケーティング動作です。日本選手は、大腿四頭筋を使って氷を押そうとしているのですが、これでは上体を持ち上げようとしていることになり、氷に力がうまく伝達されないはずです。
日本のスキーのジャンプ選手と同じ間違った理解によるものと思います。スケートの場合には、上体を立ち上げながら、股関節の伸展と言うわけにはいきません。
それで外国選手をよく見ていると、上体はそのままで、膝の角度をほとんど変えることなく、棒状に支えにして、そのまま股関節の伸展動作を使っているように見えます。そして、やや後方外側に押し切ることでスピードを増しているように感じます。日本選手には、膝の曲げ伸ばし的な動作が多く見られます。
大腿四頭筋は、膝の伸筋ですが、単純に考えれば、ボールを蹴る動作の膝の伸展動作がメインのはずで、動きとしては、足先を身体の前方にもっていく動作です。前方に進むためには、力は後方に伝える必要があり、その中心となるのは、股関節の動きになるはずです。
大腿四頭筋を強化するために、スクワットは欠かせないものですが、その考え方を間違えれば、パフォーマンスにつながらないことになると言うことを理解しなければいけません。
今回のオリンピックは、いろんな意味で動きを捉える勉強になりました。アメリカの選手でスピードスケートの男子5000mで自己記録を14秒ほど短縮して世界記録を出し、銀メダルを取った選手がいます。彼の脚の形は素晴らしいように思えます。臀部、大腿部、下腿部、この3つの部分をよく見てください。
またその関係も見る必要があります。からだづくりと効率の良い動作の習得は、トップアスリートになるための基本です。そのためには、これまでの伝統的なトレーニングやテクニックと言うものについて、もう一度、また常に見直す必要があると言うことです。