再びストレッチングについて|ニュースレターNO.036

NSCAジャパンのストレングス&コンディショニングカンファレンスで、ストレッチングの講演の依頼を受けました。確か一昨年にも同じカンファレンスで「ストレッチングからモビリゼーションまで」と言う演題で講演したことがあったので、同じ話はと言うことで遠慮しましたが、もう一度基礎をと言うことで講演を引き受けることになりました。

しかし同じ話をするのはどうかと思い、ストレッチングに関する情報をいろいろと探してみましたところ、跡見女史の記事を見つけ、以前に紹介しました。その後、見つけたものが今回紹介するものです。大修館書店の『Q&A 運動と遺伝』という本があり、Q&Aの形でまとめられたものです。

その中に、東京大学の石井直方氏が『ストレッチはミオシン分子にどのような効果を及ぼすのか-強制伸張による張力増強のメカニズム』と言うことで書かれた文献がありました。

まずそれを箇条書きにまとめてみると、次のようなことです。

『静止状態の筋を伸張(ストレッチング)することは、筋の緊張を緩め、関節の柔軟性を増す目的でよく用いられている。』

『収縮中の筋をいったん伸張し(伸張性収縮)、切り返すようにして短縮させると、運動のパフォーマンスが増強されることが知られていて、実際の運動でも反動動作としてよく用いられている。』

『Edmanらは、等尺性収縮中のカエルの骨格筋単一筋線維にランプ状の微小な伸張(ストレッチ)を与え、伸張した長さに保持すると、伸張前の張力より大きな張力が維持されることを示した。これを、伸張による収縮増強効果(stretch potentiationまたはstretch activation)と呼ぶ。』

『一方、収縮中の筋に短縮を許すと(短縮性収縮)、まったく逆のことが起こり、短縮後には張力が元のレベルより低下する。これを短縮による収縮抑制効果(releasede activation)と呼ぶ。』

『伸張による増強効果がある時間持続することは、この間に筋に短縮をさせれば、短縮による仕事やパワーの発揮もまた増強されることを示唆する。筆者らは、カエルの骨格筋単一筋線維を用い、等尺性収縮中の筋をさまざまな速度で伸張した後、切り返して短縮させたときに筋線維が外界に対してなす力学的仕事を測定した。』『短縮時の仕事は、あらかじめ伸張を与えたときの方が、伸張を与えずに短縮のみをさせたときよりも大きくなった(伸張による増強)。』

『この仕事の増加の程度は、伸張の速度に依存したが、一定の伸張速度までは増大し、それ以降は減尐に転ずることがわかった。これによって、仕事の増強効果には至適伸張速度が存在することになる。』

『これに対し、伸張中に発揮される伸張性筋力は、伸張速度とともに単調に増大した。したがって、至適伸張速度があるのと同様に至適伸張性筋力があることになる。』

『同様の現象は、ヒトの肘屈曲、膝・股関節伸展動作(スクワット動作)でもみられ、最大の増強作用を示す至適伸張性張力は、肘屈曲では1.2~1.3Po、膝・股関節伸展では1.3~1.4Po(Poは等尺性最大筋力)であった。』

『これらの結果は、ジャンプ系の動作などで反動を利用する場合には、最大のパフォーマンスを生み出すために最適の減速タイミングや減速速度があることを示唆する。』

『伸張による収縮増強効果は単一筋線維でもみられるので、ミオシン分子とアクチン分子の相互作用のレベルで起こっていると考えられる。そのメカニズムについてはいまだに謎である。』

以上のような情報は、カエルの筋肉から引き出されたものですが、人間の筋にとっても十分参考になるものと思われます。

それで、いくつかポイントを拾って見ますと、まず筋を伸張した長さに保持すると、伸張前の張力より大きな張力が維持されると言うことから、直立姿勢で立っているだけで、何らかの下肢のトレーニング効果が期待できたり、正座はだめと言われるけれど、活用次第では大腿四頭筋の刺激となると考えることができます。

次に、仕事の増加の程度は、筋の伸張速度に依存するが、それは一定の伸張速度までであり、それより速くなると減尐に転ずるということで、仕事量の増強効果には至適伸張速度が存在するということです。

このことから、反動を使う場合、最初の予備動作の筋の伸張速度を調整することでトレーニング効果に大きな違いが出ることが考えられます。ゆっくり伸ばすのか、急激に伸ばすのか、加速的に伸ばすのか、いろんなスタイルが考えられますが、尐なくともゆっくりとか中間的な速さは考えられません。

ある程度瞬間的な状態になると思われますが、いろいろトライしてみる必要があるということです。ただ言えることは、予備動作に長い時間をかけないと言うことでしょう。

次に、伸張中に発揮される伸張性筋力は、伸張速度とともに単調に増大した。

したがって、至適伸張速度があるのと同様に至適伸張性筋力があると言うことですから、上記のことを考慮すれば、筋の伸張に使う動作スピードは、加速的なものか急激な動作によるものかということと、どの程度まで筋を伸張するのかと言うことがポイントになります。スクワットであればどの程度膝や股関節を屈曲すればよいのかと言うことです。

最後に、ジャンプ系の動作などで反動を利用する場合には、最大のパフォーマンスを生み出すために最適の減速タイミングや減速速度があるとあります。パワーを獲得する際の動作を示唆しているものです。

指導する立場として、反動をつける部分に注意が必要であると言えますし、どのような動作、どのような感覚にすればよいのかと言うことは、それこそこれらの情報をもとにわれわれ指導者が考え出さなければいけないことでしょう。

また速く、素早く、急激に、直ぐに、爆発的に、など、どのようなことばがけが適当かと言うことにもなります。

僅か2ページにも満たない文量の情報ですが、私にとってはまた指導のポイントに気づかされた情報でした。

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*