ストレッチングについて|ニュースレターNO.034

「Sportsmedicine 2001.No.28とNo.29」(ブックハウスHD)に跡見順子女史が、『ストレッチは、なぜよいか』というタイトルで、分子レベルの話をされています。この中で興味深いところがいくつもでてきました。

これまでストレッチを筋肉そのものに対してのみに目を向けていたのですが、分子の、細胞のレベルで見ていくと、ストレッチの効果が、筋のリラクゼーションをもたらせるという単純なことではなく、筋肉そのものをよい状態に維持する効果があることがわかりました。

またそれだけでなく、筋肉を伸ばすことによる機械的刺激が腱、腱が停止する骨にも良い影響が及ぼされることも理解することができました。

2回に渡る連載で、その中のポイントを少し抜粋してまとめてみました。少し難しい内容ですが、興味のあるかは、是非原文を見直していただけたらよいと思います。

ストレッチに関しては、私自身の専門的なところでもあったのですが、これまでスタティックストレッチングはリラクゼーションに用いることが最適だという考えをもっていましたが、視野を広げて捉える事をまたまた教えられた思いです。

また、筋肉を細胞レベルで捉えた話は、非常に興味深いものです。皆さんもそれぞれに感じとられるところがあると思います。すでに、承知の方には興味のないことかもしれませんが…。

 

ストレッチは、なぜよいか

『骨格筋のストレッチと細胞レベルのストレッチとつながるところがある。骨格筋はストレッチに耐える構造で、ストレッチがシグナルになる。ストレッチは個体レベルでも気持ちがいいし、筋や腱を伸ばすことで細胞レベルで遺伝子発現につながる。するとそのようにコード化されているのではないか、骨格筋をみているとそう考えられる。』

『細胞に機械的な刺激を与えると、それがシグナルになる。筋の収縮は張力の発揮だが、それと分子がつながったというのが筋肉研究の歴史では大きなポイント。それから、ATPが発見されて、エネルギーが加わったが、エネルギーと収縮するタンパク質分子と実際に発揮される張力が問題であって、そこに細胞という概念はなくてもよかった。』

『細胞という概念が筋肉の研究の最先端に出てきたのは、MyoD(マイオディー)の発見である。MyoDというのは、ある遺伝子が活性化されると筋肉ができるというもので、その種の遺伝子が発見されたのは筋肉が最初である。』

 

筋肉は「動く」(move)ではない

『筋肉は動くかというと動いてはいない。収縮はするけれど、「動く」(move)ではない。moveは「動く」だが、細胞自体は動いていなくても、ダイナミックに細胞の中で動きがある。”move”というか移動ではない。筋肉になる細胞(筋芽細)はあまり動かない。

他の細胞と比べて、筋芽細胞は筋線維(筋管細胞)と同様に動かない細胞の性質をすでに持っている。筋肉は動いているわけではなく、収縮しているだけで、収縮しているのと動くのとは違う。筋は収縮しているのであって、筋自体力が働いているわけではない。

筋肉も細胞からできているが、筋芽細胞が融合して筋線維になるので、筋と細胞とが直接つながらない理由がそこにもある。筋線維が線維(fiber)だと思っているが、細胞である。筋線維には数千の細胞核があり、それが融合して1つになっている。』

『筋細胞は特殊な細胞で、ストレッチで外部から伸展力を加えると、意志としては伸ばそうとしているが、伸ばされる筋や腱にとっては、受動的に力を加えられている。それとは別に、筋と腱、腱と骨という異質のものがつながっているので、連結部を強化することも考えられる。』

『筋にとっては、心筋細胞であろうが、骨格筋細胞であろうが、細胞としては横紋構造を持っている点で同じで、それが伸張されると肥大するという現象がある。あるいは肥大しなくても形が維持される。

心筋は伸ばされると肥大する。骨格筋は使わないと萎縮していくが、ストレッチをすると肥大はしなくとも、維持される。長さが維持された状態で収縮が起こらないと、筋は肥大もしないし、壊れるだけだろう。』

『短縮した状態で刺激を加えると、筋にマイナスに影響する。それが横紋筋の大事なポイント。張力曲線を見ると、ピークが決まっていて、ある一定の長さで最大の力が発揮できるというのが横紋筋の特徴。あまり長すぎたり、短すぎたりすると損傷する。

それはサルコメアの長さが決まっているから。サルコメアのA帯とI帯があって、そのアクチン部分の長さを1ミクロンと決めるタンパク質(ネブリン)があること自体がすごい。』

『アクチンはいろいろな長さに伸びることができるし、ミオシンも重合して束をつくるが、そのときに相互作用して、最も効率のよいところが、アクチンが1ミクロン、サルコメア全体として約2.2ミクロン。哺乳類では、そう決まっている。

例えば、エキセントリックコントラクションで筋が損傷しり、骨折でギプス固定するとき、固定の長さが問題になる。伸ばして固定すると発達するが、短く固定すると、短いほうに適応し、サルコメアの長さを短くする。帳尻が合わないと、多分力がうまく発揮できない。』

 

ストレッチは身体を維持する

『ストレッチすると筋は肥大しなくても、維持される。基本的な筋の張力発揮と、肥大するときの必要条件の1つである。重心を維持するというのも、結果的に筋の長さを保持する運動になっている。瞬間的に力を発揮したり、大きな物を持ち上げることとは違うが、自分の身体を維持するということでは、ストレッチは大きな意味を持っている。』

『筋が肥大するのは、細胞が大きくなっている。タンパク質の実質、アクチンとミオシンを中心とする筋原線維が増えれば、実質的な肥大になる。タンパク質が増えなければいけない。骨格筋の場合、実際に細胞の数が10~20%は増える可能性がある。』

『スポーツ心臓は、心筋細胞の肥大である。細胞と組織をつないで考えるときは、心筋だからといって全部が心筋細胞ではない。心筋細胞は半分くらいで、残りは血管内皮細胞、細胞が住む環境をつくるためコラーゲンなどを分泌している線維芽細胞、マクロファージなど。

半分は実際に収縮して力を発揮しない細胞という理解が必要である。ランニングなど運動をすると、線維芽細胞自体の性質も変わるということが報告されている。』

『細胞自体が肥大するのは悪いことではないが、それが身体のどこで何をしているかによって、良かったり、悪かったりする。スポーツでは筋肉や骨が肥大することは良いことだと捉えられるが、それはよい方の適応で、通常細胞はそんなに肥大するものではない。』

『細胞の大きさを決める原理は何か? 細胞には適切な大きさがあるとされ、細胞にとって必ずしも大きくなることがよいことではない。細胞も生命も、ある一定の大きさの中で効率がよいようにできている。そのサイズが非常に肥大したり、極端に変化することは細胞にとっては正常なことではない。

そこから骨格筋が肥大することは、どういうことかと考えたほうがよい。肥大するのは大変なことだし、肥大したものを維持するのも大変である。維持するには大変な刺激とエネルギー源を入れなくてはならない。』

『細胞は、元に戻ろうとする。至適なところがあって、それを維持しているのが、地球上に生きて適度に動いているということである。それが基本にあって、その辺の一定のレベルを保つような仕組みが進化の過程でつくられている。pHでも体温でも、その他でもそう。その中で肥大するということは、大変だと考えなくてはならない。』

『骨格筋の場合は、肥大すると発揮する力が大きくなるが、筋ばかり肥大させ、循環器系をそのままにしておくと、循環器系からみるとあまり「健康」ではない。ただ、体質もあって、比較的簡単に筋肥大が起こる人もいるし、その人には遺伝子の変異があるかもしれない。実際には、そういう肥大する遺伝子がいくつか見つかっている。』

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