
「汎適応症候群」「ストレス学説」でおなじみの、ハンス・セリエの本を読みかけました。トレーニングの「超回復」のところで出てくる、セリエの適応理論について調べてみたかったからです。その理論がどのような状況から生まれたものなのか、非常に興味がありました。
しかし彼は1982年に死去し、彼の理論は1936年のもので、その資料を上手く見つけ出すことができませんでした。それがインターネットで本の検索をしていると、「生命とストレス」(工作舎)というセリエが1967年に書いた著書の全訳本が見つかりました。発行は1997年です。
その本を読み始めていくと、物事の捉え方、考え方が何か自分と共通するところがあるように感じました。視野を広げ、全体を見ていく中で問題点を探り出すということです。科学を細かく分析していくことだけにこだわると、本来の目的とずれが生じる危険性があるということです。
セリエは、『計画的な予測ではなく、直感的感性による推測を軽視してはいけない』と述べています。そして『科学における人間の最も知的な活動の、最初の、しかも最も決定的段階が、曖昧な直感に依存している。発明と解明があり、発見に必要な資質と解明に必要な資質とは異なるものである。そこには二人の人間が存在する。
一人は、自然の動きに対して大体において直感的感性を働かせる、つまり諸々の観察の背後に潜む重要性に対し、また広い視野の中での相関について鋭いセンスを持って臨む人・・課題発見者である。もう一人は、これまで知られているところから出発し、それを解体して、その構成とメカニズムを理解しようとする人・・課題解明者である。』
私は、きっと課題発明者なのだろうと思いました。セリエは『細かいところに注目すればするほど、予期せぬ「周辺視野」による発見のチャンスも少なくなる。-木を見て、森を見失うな!-』と、忠告してくれています。
我々指導的立場に立つものは、広い視野を持って物事の解決に当たらなければならないのだと再認識しました。トレーニングにも、リハビリにも、そして指導方法にもいろんなテクニックがあります。それをたった1つの手段やテクニックだけで、最大の効果を獲得することなんて無理なことです。
どれだけ多くの材料をそろえ、それを何十、何百、何千通りに組み合わすことのできる技量が、その道のプロとして要求されるということです。何十、何百、何千、組み合すことのできる材料には、知識だけでなく、実践的テクニックも含まれますし、話し方、言葉がけなども重要になりますし、人間性も要求されます。
けっして『偉い』人間ではないのです。『相手のために、最大の援助をしてあげよう』という気持ちがなければ、信頼関係も結果も生まれません。また、相手の努力も引き出せないでしょう。
そして、トレーニング、リハビリ、テクニックの指導において、何よりも必要なことは、その人の動きを読み取ることです。パフォーマンスの問題にしても、怪我の問題にしても、その動きが、その人にとって理想でなければ、また正常でなければ問題は解消されていないし、当然目的を達成することはできません。パフォーマンスの停滞や怪我をしたり、怪我から復帰できないということになるでしょう。
現在、多種多様の講習会が開催されています。しかし、1つや2つの講習会だけで全てが把握できたような錯覚に陥るのが現実だと思います。たった1つや2つの専門知識、テクニックだけではどうにもならないのです。相手は一人一人違うのです。
様々な知識を、まるでピラミッドのように組み立てることができたなら、本当のその道のプロになれると思います。1つのことについて深く追求することは、課題究明者であり、研究室での実験にこだわる人たちです。我々実践的立場にいる者の役割は、これとは違います。
セリエの本を読んで、自分自身の立場は、トレーニング、リハビリテーション、指導法、トレーニング計画などにおいて、最適な組み立てをするための課題発見者であると肝に銘じ、努力していきたいと思いました。
最後に、セリエは、研究における4つの段階として、次のような段階を上げています。
- ぼんやり見ている段階
- ハッと気がつく段階
- 課題の発見
- 課題の解明
*感性、直感、閃きというのは、何かがあるのです。大切にしたいものです。