高校野球のチームを指導したことが今まで何チームかありましたが、時間が取れなくなったことから、現在は1チームだけです。それは長野県の丸子実業高校です。かつては、甲子園の常連高でしたが、2~3年前までは、ほとんど素人の子どもたちの集まりでした。
チームに監督としてこられたのが、上田東高校で監督をされていた竹内政晴先生です。竹内先生は丸子実業高校の野球部から、国士舘大学の体育学部に進学され、現在体育の先生をされています。高校、大学とハードな野球を経験されてきた方です。
竹内先生との出会い
竹内先生との出会いは、上田東高校におられた6~7年前です。名古屋での私のセミナーに参加され、一度チームを見てもらえないかということがきっかけでした。ちょうど良い機会ですので、上田東高校と丸子実業での私の指導経験を紹介し、トレーニング、コンディショニング、指導法というものについて見直したいと思います。野球関係者には非常に参考になる話だと思います。
結局竹内先生の情熱に、一度見せていただいてから、相談しましょうということになりました。それで上田東高校に出かけていき、練習環境や選手のレベルを確認し、野球のトレーニングや指導法についていろいろと私の考え方をお話ししたところ、ぜひ先生のやり方で指導して欲しいということになりました
その頃の上田東高校は、一度甲子園に出場したことがありましたが、やはり素人の子どもばかりで、ボールは投げられない、打っても飛ばない、うまく捕れないという状態でした。部員も20名程度でした。いわゆる普通の高校の野球部でした。
最初の冬にトレーニングのビデオを作製し、エクササイズプログラムと週間計画を添えて送り、とりあえずスタートしました。そして1ヶ月程度経過した春に、上田東高校に出向いてはじめて現場で選手を指導しました。
当然トレーニングのテクニック上の問題も多かったのですが、このときにはウォームアップの指導とプログラムのチェックを行いました。このときに、トレーニングの成果は技術指導によって大きく変わるということを申し上げたら、技術的な指導もお願いしたいということになりました。
当然私の技術指導・動作の指導は、今までの野球界の中で正しいとされてきた指導とは異なるものが多かったのですが、それでも100%受け入れていただきました。
6月に行った指導
次の指導は、夏の大会前の6月でした。通常なら、大阪と長野ということなので、夏の新チームの指導、11月の冬のトレーニングの指導、3月の技術的なチェックというように、年に3回程度になるのですが、その他は電話で状況を聞いて対応していました。
私が上田東で指導した4年目となる3年前に母校の丸子実業に転勤されました。丸子実業の最初の年は、前監督からの引継ぎがあり、夏の新チームができてから私も呼ばれることになったのです。今年3年生になる選手が竹内先生の最初の指導を受けたことになります。
上田東と同様に、その選手たちも投げられない、打てない、うまく捕れないという素人の選手ばかり20数名でした。3塁から1塁まで投げられなかったり、投げる動きすらまともにできなかったりという選手がほとんどでした。またバットにボールが当たっても内野の頭すら超えない状態でした。
守備といえば形にもならない状況で、特に守備練習はとても見られたものではない状態でした。こんなとき、問題点は2つ考えられます。1つは力が無いのか、後1つは力の出し方やからだの使い方が解らないのかどちらかの問題です。
いずれのチームも同じ状況でスタートしたのですが、3~4ヶ月、半年、1年と私が行く度に上手くなり、力強くなり、パワフルになっていきました。現在丸子実業では、父兄の援助もあり、今年は2月、3月、6月、8月、10月とすでに5回出向いて指導しています。
それだけに選手の進歩は目覚しいものがあり、見学に訪れる父兄も我が子の成長の早さに驚いている状態です。その成長とは、からだが大きくたくましくなり、プレイも上手くなったということです。以前は1泊2日の指導でしたが、今年から2泊3日で指導していることもあると思います。今年の8月には、初めて3泊4日で指導しました。
監督をはじめ選手の努力もあり、今年は長野県レベルでは上位のレベルになり、甲子園に出場してもおかしくないチームに成長しました。2年前を知る人は、私を含め、まさに夢を見ているような子どもたちの変身ぶりです。
最初はウォームアップのジョグからトレーニングの指導、次に投げる、打つ、捕球するという基本動作の指導から始まりました。ポイントは如何に楽に動くかということです。ウエイトトレーニングはどこかの業者に依頼してやっていたのですが、重いものに挑戦するようなボディビルタイプのものをやっていたようです。それで腰や肩を痛めることが多くなり、筋力強化と野球のプレイがつながらないという状況にあったようです。
時間の効率化
高校生は、1年の4月に入学し、3年の7月に最後の県大会があることから、わずか2年と2~3ヶ月で終わってしまいます。その間に技術練習もやらなければならないし、どうしても技術練習が中心になるのは当然のことです。
そのために、技術練習が終わってから、トレーニングをやるようなパターンが普通になっています。そうすると練習が終わるのも20時、21時になり、家に帰ると22時、23時ということになってしまいます。ウエイトの種目も12~15種目3セットやるのであれば1時間で終わるはずはありません。時間の、練習・トレーニングの効率を考えなければいけません。
技術練習が終わる頃には、空腹と疲労感、そして集中力のない状態でウエイトトレーニングが始まります。筋力トレーニングは神経系のトレーニングであり、このような状況では強くてパワフルな筋肉をつけることは当然期待できませんし、疲労を増すだけです。
ウエイトトレーニングを一生懸命やったと思っていても、実際に筋肉やパワーがつかなかったり、からだも大きくならなかったりということになるのです。
またチームとして体力測定を会社に依頼しているところも多いようですが、その測定方法に問題があると考えます。当然体力測定のデータを見て昨年よりレベルアップしたかどうかを問題にするわけですが、筋力測定ではそのデータが当てにならないことが多いのです。
トレーニング効果は筋力を強化する方法と測定方法が同じ形式でなければ、正しく評価することができません。例えば、アイソメトリックスの形式で筋力測定するのであれば、トレーニングでもアイソメトリックスの形式を使った筋力トレーニングを中心にしなければいけないということです。
またパワーを測定する形式の筋力評価であれば、瞬間的な動作スピードを意識したトレーニングを心がけないとトレーニング効果を正しく評価できなくなります。このような矛盾を知らずして、トレーニングと測定・評価をしていることが実際に多くの学校で見られます。
そうするとトレーニングでからだが大きくなっても、その測定ではレベルアップが見られなかったり、変化もしていなかったりという結果になってしまいます。
問題は如何にボールを投げ、打つ、走る動作に生かされる筋力、パワーをつけるかということです。正に専門性の原則です。2年2~3ヶ月の間に、体力と技術を習得しなければならないのです。
単純なスタイルで練習後に、週に2~3回、12~15種目、10~15回3セットのスタイルでは疲労のほうが先に立ち、集中力の欠如から、特にパワー系の力はついてきません。いかに集中した状態で、技術を獲得する土台となるからだづくりがやれるか、これがコンディショニングなのです。
特に長野県の高校では学校から自宅まで遠い選手が多いこと、また交通の便も良くないことから、できる限り効率よく練習とトレーニングをしないと、運動、食事、睡眠の原則が守れなくなります。公立高校で下校時間の規制があるところでは特に問題です。
ポイントは、如何に効率よく練習・トレーニングをするかということです。集中力と意欲は、比例するはずです。その意欲を引き出すことが指導者の一番大事なところなのです。
このように、今までの野球界の中で正しいとされてきた考え方からの発想ではなく、トレーニング、コンディショニング、指導法の原理原則から、そして選手を取り巻く環境から、いつ何をすべきかを追求していけば自ずとベストな発想が生まれてくるはずです。
これは野球に限ったことではありません。是非、そのような観点から現在行っているトレーニング、コンディショニング、指導法を見直してみてはいかでしょうか?