プロ野球やJリーグの選手などのウォーミングアップで使用されるラダーですが、このラダーを使ったトレーニングは世間で“敏捷性(アジリティ)の向上”を目的として使われることがほとんどです。
より素早い動きづくりのために・・・。
よりフットワークをよくするために・・・。
と言われ、現場でよく活用されています。
このラダートレーニングの本来の目的は、敏捷性(アジリティ)トレーニングではなく、俊敏性(クイックネス)のトレーニングです。この敏捷性と俊敏性は、混同して使われがちですが、本来の意味は別物です。
今日はこの敏捷性と俊敏性という似ているようで異なる本来の意味を理解し、改めてラダートレーニングというものを見ていきたいと思います。
こちらの記事も参考にしていただければと思います。
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Contents
敏捷性(アジリティ)と俊敏性(クイックネス)の違い
さて、ここからは今日の本題に入りますが、敏捷性と俊敏性にはどのような違いがあるのでしょうか?
敏捷性(アジリティ)とは?
敏捷性(アジリティ:agility)
アジリティとは、機敏さ、軽快さ、敏捷さという意味がある。
敏捷性とは 、速さ×正確性という式で成り立ち、文字通り速く動くことと、正確性が合わさったもののことを言います。
例えば、それにあたるのが反復横跳びやシャトルラン、Tドリルなどがこれにあたり、これらはラインを超えたなかったり、目印を正確に超えるなどの必要があり、もしラインを超えなければ回数として数えなかったり、減点になったりします。
ここには正確性が必要であり、このようなトレーニングのことをアジリティトレーニングといいます。
俊敏性(クイックネス)とは?
一方、俊敏性とはどのような意味があるのでしょうか?
俊敏性(クイックネス:quickness)
クイックネスとは、素早さ、俊敏さという意味がある。
俊敏性は、敏捷性とは違い、正確さを必要とせず速さのみを指すものであります。
例えば、ある一定間隔に引いたラインを目安に、できるだけ速くステップすることを目的としたトレーニングなどがこれにあたります。
ここで重要なことは、ラインをきちんと踏むことが目的ではなく、いかに速くステップができるか、つまり筋肉を最大速度で収縮させることが重要であり、この速さを求めることが俊敏性の目的となります。
アジリティとクイックネストレーニングの現場での活用例
それぞれの違いを理解できたでしょうか?次はもう少しわかりやすく説明していきたいと思います。
例えば、野球の投手をイメージしてみてください。投手が投げた球を、バッターがバントするとします。このとき、この打球までいち早く到達するためにダッシュをすることになります。
いち早く到達するということを目的として行うのは、クイックネスです。つまり速さだけを求めていることになります。
しかし、野球はアウトにする必要があるため、打球を捕って1塁などに送球しますが、この送球がきちんと投げられることでアウトになるわけですので、ここには正確さが必要となります。
ここまでいけばアジリティトレーニングとして考えることができますが、速さだけが必要なのか、捕ってから正確に投げるところまで必要なのか、ここが敏捷性と俊敏性の違いとなります。
ラダーとは?
そもそも【ラダー:ladder】という言葉はどんな意味があるのでしょうか?
ラダーとは?
・ラダー (ladder) は梯子(はしご)、または梯子の形に似たもの。
引用:Wikipediaラダーより
このようにラダーとは、はしごを意味をしており、実際にラダートレーニングで活用する道具もはしごのようにマス目が並んでいます。
ラダートレーニングの例
このようなラダーを使い現場ではこのように活用されています。
例えば、マス目1つに対して1歩踏み入れ、交互に枠の中をできるだけ速くステップしていくというもの。
また、マス目1つに対して2歩踏み入れ、できるだけ速くステップをしていきます。
1マスに対して2歩入れて速くステップを行っていく種目。
このようにラダートレーニングは、さまざまなステップや方向転換、動きを行い、その中で敏捷性を養おうとする目的で行われています。
ラダートレーニングの本質
ここまでの話で、多くの方がラダートレーニングについて理解できたかもしれませんが、上記のことを踏まえて改めてラダートレーニングというものを考えてみたいと思います。
はしごのような目印を設定し、さまざまなステップを、より素早く行うことになりますが、ラダーというのは、蹴ってしまっても、枠を踏めなかったとしても減点などになることはなく、ここには正確性を必要としません。
ですので、ラダートレーニングは本来速さだけを求めるために俊敏性(クイックネス)として活用することになります。
一般的には【敏捷性のトレーニング】として活用されることが多いですが、上記でお伝えしたように敏捷性と俊敏性は異なるものです。
- 敏捷性=速さ+正確性
- 俊敏性=速さ
これらからラダートレーニングを見ると、敏捷性ではなく俊敏性であるクイックネスのトレーニングであることがわかります。では、敏捷性・俊敏性はどのようにトレーニングし、どのように高めていけばいいのでしょうか?
敏捷性・俊敏性はどのような目的で行い、高めればいいのか?
敏捷性(アジリティ)の高め方
- 遅い動きから速い動きへ
- 簡単な動きから複雑な動きへ
反復横跳びで考えてみたいと思いますが、反復横跳びは簡単そうで難しいものですが、基本的には重心の運び方をまず教えていきます。また着地の仕方などをどうするのかを教え、それらが確実にできる速さで繰り返し行います。
すると次第に動きに慣れ、重心もうまく運ぶことができるようになるため徐々に動きを速めていきます。
このようにどのように動くのか、それを正確に脳で理解させ、身体で覚えさせるためにいきなり最大の速度でしようとしないことです。
速さになれ、正確に動けるようになると、そこからさらにメニューを複雑にし、難易度を上げます。そのときもまずは、ゆっくりとした速度で動きを覚え、そこから速く行うという段階を踏むと敏捷性は向上していきます。
アジリティトレーニング:反復横跳び
重心の位置を理解させる
つま先重心になると回転の力が働きますが、踵重心にすると最短で横移動ができます。
重心を運ぶ
一般的には足で地面を押すような感覚で行われることが多いですが、移動したい方向に先に重心を運ぶことでスムーズに脚が出て、移動しやすいため重心を運ぶような動きを覚えていきます。
このように地面を押すように動くと動きが硬くなり、遅くなります。
まずはゆっくり動きながら確実に動きをインプットしていく
敏捷性向上のために、まずは動きを理解していきます。
動きに慣れてきたら、その動きを早く行う
このように敏捷性を高めるために手順を踏んで行います。
俊敏性(クイックネス)の目的
人間の身体は、速筋線維(白筋)と遅筋線維(赤筋)大きく分けて2つのタイプの筋肉が存在します。速筋線維の割合が多ければその分だけ筋肉の収縮速度は速く、100m世界新記録保持者のウサイン・ボルトのような走りができる可能性が高まりますが、これはほぼ遺伝によって決まっていると言われています。
一般の方であれば、この割合は5:5に近いものになり、そういうお父さんがいたとします。
このお父さんは日頃から運動しておらず、速筋線維の割合は5になりますので、筋肉が最大速度で収縮しても5の速さしかでません。 脚の速さをレベル5と設定しておきましょう。
運動会のある日、気合を入れてリレーに出たけど途中でこけてしまうハプニング。このとき起こったことは、本来はレベル5あった脚の速さは、日頃レベル5で使うことがないため、レベル2ぐらいの走りしかできませんでした。
でも昔の自分が脳裏に焼き付いていたため、実際にパフォーマンスと理想とギャップが生まれ、脚が絡まりこけてしまうということが起こりました。
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と物語のように書きましたが、速筋線維は割合が変わることはほぼないが、この収縮速度を維持することを日頃から行う必要があるということです。向上はしないが維持をするという意味合いで、クイックネスというものをとらえます。
ここで先ほど出たラダーなどがこの目的に合致しますが、ラダーのマス目をより速くステップし、筋肉を最大速度で収縮をさせ、これを毎日維持するために行います。
もしくは、ラダーでなくても同じような間隔で目印を置いたり、ラインを引いたりし、筋肉に最大収縮速度を体感させることで、維持できるということになります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ラダートレーニングは一般的には敏捷性、アジリティトレーニングと言われていますが、本来はクイックネスとして活用するほうが目的に合っています。
もし、ラダーになんらかの正確性を加えたメニューをするのであれば、それもアジリティトレーニングと言えるのかもしれませんが、よく行われている形のラダーはクイックネスということになります。
では、最後に今日のまとめを書いていきたいと思います。
- 敏捷性(アジリティ)=速さ×正確性
- 俊敏性(クイックネス)=速さ
- 敏捷性を高めるためには、遅い→速い動きへ、簡単→複雑な動きへと移行させる
- 筋肉の収縮速度を維持するためにクイックネスを行う
- ラダートレーニングはアジリティではなくクイックネスを目的としたトレーニングである
このような内容でお送りしてきました。今日の内容が少しでもお役にたつ内容であればうれしく思います。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。