一般的にウォーミングアップというと、ランニングをしてストレッチをするというイメージが強いかと思いますが、本来の意味や目的を理解するとそれだけではないということに気づきます。
今行っているメニューはなぜ行っているのでしょうか?
寒いこの季節に座って筋肉を伸ばすことで、どのような効果があるのでしょうか?それはグランドではなく、温かいところではだめなのでしょうか?
そういったことをひとつひとつ紐解いていくと、いかに目的や意味を理解する大切さがわかります。
今日はそんなウォーミングアップについてお伝えしていきたいと思います。今回はただお伝えするというよりも、トレーナーとしてどのように考えメニューを作成しているのかも含めて、お伝えしていきたいと思います。
■パートナーストレッチングを行う上で知っておきたい10のこと
ウォーミングアップについて
ここではまず、ウォーミングアップということについて考えていきたいと思います。
ウォーミングアップという言葉の意味とは?
そもそもウォーミングアップというのは、どういう意味なのでしょうか?
■ウォーミングアップとは?
ウォーミングアップとは、warm,up という言葉からなっていますが、
- warm・・・暖める
- up・・・上げる
という意味があり、身体を暖める、体温を上げるというあります。
- スポーツで、軽い準備運動。
- 転じて、物事を本格的に始める前にする軽いならし。
コトバンクより引用:ウォーミングアップ
ウォーミングアップの目的とは?
ウォーミングアップを行う目的というのは、
- 体温、筋温の上昇
- 神経の促通
- 柔軟性の向上
などがあげられます。
これらの目的を達成するためにウォーミングアップを行いますが、どのようにして体温を上げればいいのでしょうか?
体温の上げ方について
体温をどのように上げるのかということですが、そもそも何を指標にしてどのようにあげればいいのでしょうか?
一般的にはこのようなことで体温を上げると思います。
- ランニング
- ジョギング
- バイク
などがあげられると思いますが、これらをすることでなぜ体温が上がるのでしょうか?
体温を上げるためには心拍数を上げることです。心拍数を上げるためには心臓を上下に揺らすような刺激を加えることで心拍数は上がってきます。
そのため、心拍数を上げる目的で方法を考えたとき少し考えただけでも数多くの方法が浮かんできます。
- 縄跳び
- その場ジャンプ
- おにごっこ
- サッカー 等
心臓が上下に揺れそうな運動すべてが刺激となりますし、頭を柔軟にして考えるとランニングだけではないことがわかります。
心拍数を上げることで体温が上がることはわかると思いますが、どこまで心拍数を上げればいいのでしょうか?
それは、120拍/分です。
主観的運動強度と言って、自分が自覚する感情から心拍数を推測することができるというもので、このような表があります。
主観的運動強度
標 示 | 自覚度 | 強度 | 心拍数(拍/分) |
20 | もうだめ | 100% | 200 |
19 | 非常にきつい | 93% | |
18 | 86% | 180 | |
17 | かなりきつい | 79% | |
16 | 72% | 160 | |
15 | きつい | 64% | |
14 | 57% | 140 | |
13 | ややきつい | 50% | |
12 | 43% | 120 | |
11 | 楽に感じる | 36% | |
10 | 29% | 100 | |
9 | かなり楽に感じる | 21% | |
8 | 14% | 80 | |
7 | 非常に楽に感じる | 7% | |
6 | (安静) | 0% | 60 |
心拍数が120拍の目安というのは、ややきつく感じるようなときになりますので、その感覚が目安になります。
またはあはあドキドキ汗ばむような状態になれば、同じように120拍前後の心拍数を計測します。
ランニングやバイクなどをする目安というのは、はあはあドキドキし、汗ばむような状態になれば終えて、次のメニューに移行するという形になります。
ウォーミングアップ時に勧められないこと
ウォーミングアップは、体温を上げるという意味があることは理解していただけたと思いますが、この体温を上げるときに気をつけることがあります。
体温を上げる意味合いで、お風呂やサウナに入るということも考えられますが、これはあまり勧められません。
ウォーミングアップをした後には、練習なり試合を行うと思いますが、お風呂などに入ってしまうと疲労してしまうため、その後のプレーを全力で行いづらくなります。
また外的な要因で体温を上げようとしているため、深部まで温めることができません。
このようなことを考えると、ウォーミングアップ時にはあまりお風呂やサウナに入ることは勧められません。
一般的に行われるウォーミングアップの内容について
僕も長い年数野球をしてきましたが、少年野球のときから高校までウォーミングアップを行う一連の流れは大きく変わりませんでした。
一般的に行われているウォーミングアップは以下のようなものではないでしょうか。
ランニング
まず行うことは、ランニングを3周走りなさい。という指示を受け、とりあえず走る。
そしてできるだけ疲れないように、グランドを小さく回って3周を終えるというようなことですが、そもそもなぜ3周走るのでしょうか?
ウォーミングアップに限ったことではありませんが、すべてに意味があり、その意味を説明できなければ何のためにやっているのかがわかりません。
季節や気温に関係なく決まった数をこなすような感覚で行っているところが多いように思います。
ストレッチング
ランニングを終えると、これも季節に関係なく地面に座って筋肉を伸ばすようなストレッチングを行うことが多いと思います。
ウォーミングアップ時のストレッチングは、筋出力を低下させる可能性があるため、30秒以上のストレッチングはあまり勧められていません。
これについては、理解しておきたいウォーミングアップ時のストレッチについてで詳しくお伝えしていますので、参考にしていただければと思います。
ダイナミックストレッチ(体操)
ストレッチングの後に行うのは、ダイナミックストレッチといわれる体操ではないでしょうか。
高校野球などに代表されるのは、数列に並び掛け声をかけながら全身でいっせいに体操をする。
見た目としてはかっこよく映るかもしれませんが、ダイナミックストレッチは流れの中でやるものではなく、筋肉を緩め動かしやすくするために行います。
多くの場合が、形だけをしているような体操が多いように思います。
ダッシュ
ここまでの流れが終われば次はダッシュというような流れがベースでした。
このダッシュも、30m、15m、5mとさまざまな距離を走りましたが、ただ何気なく走っていたように思います。
このような一連の流れを行う練習や試合に入っていましたが、この一連の流れは季節や行うことが変わっても内容は変動しませんでした。
時間の都合で、カットされたりすることがありましたが、その他の場合は基本的に同じ内容で行われていました。
一般的にはこのような内容を行っているところが多いと思いますが、本来はウォーミングアップの目的や競技、季節や年齢、さまざまな要因を踏まえてメニューを考えます。
当然季節があるため、年中同じメニューというのは不適切であり、その状況に合わせて変化させる必要があります。
次は、トレーナーとしてウォーミングアップを考えるとき、どのようなことを考慮しているのかなど、専門的なことも踏まえてお伝えしていきたいと思います。
ウォーミングアップのメニューを作るときに考えていること
ウォーミングアップのメニューを作成するときは、当然ながら強いチームが行っていることをすべて真似をするようなことはありません。
また雑誌や何かで方法を知ったからといって、それを現場で行うこともありません。
以下でお伝えするようなことを考え、意味のある内容にしていきます。
ウォーミングアップを行う目的
最も大切なことは、目的を理解することです。何のためにウォーミングアップを行うのか。
先ほどお伝えしましたが、身体を暖める目的で行うわけですが、ここでいう目的はウォーミングアップを行ってどうしたいのかということです。
ウォーミングアップの後に試合があるのか、それとも練習をするのか。
その練習はバッティングのみなのか、それとも走ったり捕ったりするのか。
なぜ身体を暖める必要があるのか、どういう動きをしやすくしたいのか、そういった細かいところを明確にすることで、ウォーミングアップ時に行うメニューを決定していきます。
まずはウォーミングアップの目的を整理することを行います。
人数について
人数を把握することも重要で、1人でやるときと100人でやるときではメニューも異なります。
人数が多くなればそれだけ場所をとりますし、動ける範囲も狭くなります。もし小さなスペースしかないところでは、その場ですべてのメニューをこなさないといけない場面もあります。
逆にマンツーマンの状態であればそれだけやれることの幅も広がりますし、狭いスペースでもできます。
このように人数によってもメニューを変えています。
環境について
環境というのは、先ほども少しお伝えしましたがウォーミングアップできる場所が広いのか狭いのかということもあります。
室内なのか野外なのか。砂利なのか土なのか、コンクリートなのか。
晴れた日のグランドなのか、雨の降った後のグランドなのか。
それによっても座ってできなかったり、場合によっては足場がぬかるんでおり、走ったりすることができないかもしれません。
また冷暖房の有無も重要で、寒い日に暖房の利いた室内でウォーミングアップができるのであれば薄着でもいいかもしれませんが、真冬の野外では着る物も変わりますし、すぐに体温が下がる可能性があります。
こういった環境の問題も考えてメニューを作成していきます。
時間について
学生の場合、下校時間が決まっていて1日2時間弱しか練習時間がないところもあります。
そんなときにウォーミングアップに1時間もかけてしまうと、ほとんど練習ができなくなります。
逆に4~5時間も練習時間があるのであれば、ウォーミングアップに時間をかけて行ってもいいと思います。
このように時間という要因でもメニューが変わります。
年齢について
小学生と社会人では体力に大きな差があり、社会人であれば1時間ウォーミングアップをしても練習などもこなせると思います。
ですが、小学生低学年なんかは1時間もウォーミングアップを行ってしまうと疲労してしまい、練習に集中できなくなってしまいます。
また高齢の方にウォーミングアップだと言って、ランニングをさせたり、バイクをこがせたりと若い年齢の人と同じことをさせる必要もありません。
このように年齢によってもメニューを変えていく必要があります。
完璧なメニューは存在しない
これは要因ということではありませんが、ウォーミングアップを完璧に作り上げようと考えすぎると、時間の無駄になってしまうことがあります。
あくまでもウォーミングアップは、その後に行う動作やプレーをしやすいように準備する時間であり、最も重要なことは試合でベストな状態で臨める身体にするということです。
大切なことは試合に勝つことです。
ウォーミングアップのメニューは完璧がないため、柔軟な発想でその時々によって臨機応変に対応することが大切だと思います。
実際に行ったウォーミングアップのメニュー例
ここでは実際に現場で行ったメニューを少しご紹介したいと思います。
基本的な流れはこのようになります。
- ランニング5周
- ダイナミックストレッチ(体操)
- アジリティドリル
- バランストレーニング
- プライオメトリックス
- クイックネストレーニング(ラダー)
- アジリティドリル+ダッシュ
ダイナミックストレッチについて
体操を行う手順というのは、基本的には上から下に動かしていきます。
これは、筋肉は脳が支配しており、脳に近いところが緊張していると下半身などが緩みにくいため、脳に近い上から順に動かして緩めていくという考え方です。
実際にこういった体操を行っていきます。
具体的な内容については、理解しておきたいウォーミングアップ時のストレッチについてを参考にしていただければと思います。
バランストレーニング
野球選手を指導する場合、ウォーミングアップにはバランストレーニングを行います。
このバランストレーニングというのは、バランスボールの上に乗ってバランスをとる・・・というようなことではなく、ジャンプストップなどを行い、フラット着地を繰り返します。
両脚や片脚で行ったりし、バリエーションを加えながら進めていきます。
バランストレーニングについてはこちらを参考にしていただければと思います。
クイックネストレーニング
クイックネスという言葉は、日本語の意味で俊敏性といいます。
俊敏性=速さであり、敏捷性=正確性×速さになります。
これはラダートレーニングですが、より枠の中を速くステップし筋肉の収縮速度を維持する目的で行います。
ラダートレーニングについてはこちらを参考にしていただければと思います。
■敏捷性・俊敏性とは?アジリティ&クイックネストレーニングの違いをラダートレーニングから考えてみる
まとめ
今回はウォーミングアップについてお伝えしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
ウォーミングアップは、ただランニングをしてストレッチをして練習に入るというような簡単な作業ではなく、ひとつひとつに意味があります。
それは理解した中で行うことで、より効果がわかり動きやすい身体になります。
なぜグランドを5周走るのか、どのくらい走れば適切かなど理解していただけたかなと思います。
今回の記事の内容が少しでも現場で取り入れていただくと嬉しく思います。
最後に、今日の内容をまとめていきたいと思います。
- ウォーミングアップは、体温を上げる、反応を速くする目的がある
- 心拍数を120拍/分まで上げ、軽く汗ばむぐらいまで体温を上げる
- ストレッチングをするのではなく体操で筋肉を緩め動きやすくする
- 季節や環境、年齢などによってメニューは変わる
- 完璧なメニューは存在せず、柔軟に考え行うこと
このような内容でお伝えしていきました。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。