
全力でバットを振るとはどういうことでしょうか?おそらく力を目一杯入れてバットを振るだと想像する方が多いのではないでしょうか?
これは一般的な全力のイメージだと思いますが、スポーツ選手がこの認識を持っていると動作が硬くなってしまったり、スムーズに身体を動かすことができなくなります。
全力というのは、最も効率よく身体を動かし、最大のスピードを引き出せる状態のことであり、バットを振ることで言えば最もスイングスピードが速くなる状態のことであり、それを全力といいます。
力む、力を入れる、ということが全力ではないということです。
その状態とは、リラックスしている状態です。リラックスすることで、スムーズな動作ができ、スムーズな動作はバットを速く振るためには必要なことです。
今日は、気持ちよくバットを振ることでバッティングが変わった現場での経験をご紹介したいと思います。
こちらの記事も参考にしていただければと思います。
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Contents
ボール1個分ポイントがズレる
社会人野球選手への指導で、最近バッティングをしているときにボール1個分程インパクトの位置がずれているような詰まっている感覚があり、気持ちよくバッティングができなくなったということを聞きました。
素振りをしていても、気持ちよさがなくなり、素振りが終わった後は身体も疲れてしまうとのことでした。
素振りをすると身体が疲れるのは、当然と思われるかもしれませんが、身体がスムーズに動き、気持ちよく身体を動かすことができれば息も上がらず、筋肉も硬くなりません。
逆に、力んでバットを振ったり、投げたりしている時ほど疲れてしまい、筋肉もパンパンに張ってきます。
話を聞いていくと、以前指導を受けた後は気持ちよくバットを振れていたそうですが、ある日身体が重く感じ、そのときバットを振ったときから少しずつリラックスできなくなっていき、現在のような状態になってしまったとのことです。
ボール1個分ズレていると感じる原因は、スムーズな動作ができなくなり、以前と同じタイミングでボールを打ちにいくとスイングスピードが遅くなっているため自分のポイントでボールが捉えられなくなっているためでした。
現状の把握
選手自身は、リラックスしてバットを振るために、以前教えたゴルフスイングを行っていましたが、このときに緊張した動作が見られ動きに硬さがありました。
見ている側には硬さが見えるのですが、スイングしてる選手自身はリラックスしてゴルフスイングをしている“つもり”でしたので、今どのようにスイングが行われているのかを真似、現状を把握していってもらいました。
このゴルフスイングを行うときは、体重移動を行いながらトップの位置からバットを落とすようにスイングしていきます。
そうすると、バットの重みを感じることができ、重力の影響で加速しながらスイングすることができます。
選手の場合、この落とすという局面でうまく力が抜けておらず、引き下ろすように動かしてしまっていました。
緊張が見られた部分をひとつずつチェックし、どのようにすればリラックスできるのかを確認しながらゴルフスイングからバットスイングへと移行していきました。
ゴルフスイングの活用について
よくこのゴルフスイングについて質問されることがありますので、少しご説明していきたいと思います。
ゴルフスイングを行う理由は、リラックスしてスムーズにバットを振れるようにするためです。
そのためには、身体の構造をある程度理解しておく必要があります。
腰はほとんど捻れない
野球解説の本などを見るとたまに「腰を捻って打つ」という表現で書かれていたりしますが、腰椎と言われる腰の骨は、ほとんど捻る(回旋する)ことができません。その範囲は約5度と言われています。
この時点で腰を捻るという表現は適切ではないことが分かります。
実際にバットを振っている姿を見ると、身体が捻られているように見えますが、これは主に股関節が回旋することでこのように見えます。
また腰ではなく胸椎と言われる肩ぐらいの高さからへそぐらいまでの高さにある背骨が回旋します。
ゴルフスイングを行う時は、腰を捻ろうとする意識は持たず、股関節が回旋しながらスイング動作が行われていきます。
骨盤と体幹は同時に動く
ゴルフのスイング動作をバイオメカニクスの観点で分析したデータがあり、ゴルフスイングを行うとき人間の身体はどのように動くのかというと、骨盤と体幹は同時に動くそうです。
捻るというよりも、同時に回転するように動くため、捻る感覚を持たなくてもいいことになります。
バットを落とす感覚を出すこと
ここからはゴルフスイングの活用についてお伝えしていきたいと思いますが、ゴルフスイングを行うときに大事なことはバットを高い位置から落とすことです。
高い位置から落とすことができれば、その反動で反対側に自然に上がっていき、再度その逆を行うことで元の位置に戻ってきます。
バットを高い位置から落とすことができると力まなくてもバットが振れること、また自然とフォロースルーまで身体が自然に動くことが体感できます。
ゴルフスイングからバットスイングへ移行する
ゴルフスイングをするだけでは、実際の野球の動作には活かせませんので、ゴルフスイングから実際にバットスイングへと移行させていきます。
トップの位置からバットを真下に落とすようなイメージでゴルフスイングを行いますが、そこから少しずつグリップ側の手の小指でリードするように、インパクトのを前に置いていきます。
ゴルフはプロの打点を見ていると前脚の前辺りで打ちますが、野球は身体の前でインパクトを迎えることでよりボールに力を伝えることができます。
そのため、この差を埋めるように、インパクトの位置を身体の中から前に移行させます。
選手への指導
今回選手への指導で気をつけたことは、選手自身の“できているつもり”という感覚を変えてあげることです。
自分の中ではリラックスしているつもりでもそれができていなかった。これまではどのように緊張したのか、そのときの感覚と、実際にリラックスできスムーズに動けたときの感覚の違いを伝え実感してもらいました。
ひとつひとつの動作を行ったときに、「動きが良くなってきたね」「気持ちよく動けるようになってきているでしょ?」と確認しながら進めていくと、選手もよく理解できたそうで、気持ちよくバットを振ることができるようになりました。
スイングからバッティングへと移行し、指導前はつまっていたり、気持ちよく打つことはできていませんでしたが、指導後は気持ちよくスイングでき、気持ちよくバッティングをしているように映りました。
「めちゃくちゃ調子いいです。」「自分が思った方向に打球を打てますし、何より気持ちいいです。」
選手にうまく伝わったため、動きも変わり、バッティングも変化し、選手も何をどうすればいいのかがわかったそうです。
シンプルな言葉をかける
バッティング中に何度か、グッと力む瞬間が見られ、硬さが見えることがありました。そんなときは決まって良い打球はいきませんが、そのときに後ろから「気持ちよくね。」と声をかけるとリラックスします。
すると結果もよく、思い出すかのように選手は気持ちよく打ち出します。
人それぞれかける言葉は異なり、かけられた言葉への解釈も違います。この選手の場合、バッティング中に「リラックス」という言葉を使うと力を抜いてしまい、ボールの勢いに負けてしまいます。
「気持ちよく」とか「スムーズに」、「柔らかく」という言葉を使うとスムーズな動作ができます。
このように人によってかける言葉を変えながら目的とする動作ができるように誘導していきます。いかにシンプルに最適な言葉をチョイスするか、これも指導では大切なことです。
多すぎるアドバイスは、頭であれこれ考えてしまうため、それが原因で緊張することもあります。
何かを指導するときには難しい言葉ではなく、できるだけシンプルな言葉で伝えることも大切なことだと改めて感じる瞬間でした。
まとめ
今回、野球選手の動きが硬くなってしまっていた原因は、ゴルフスイングの動作がまずくリラックスすることができなかったということです。
柔軟性がどうこうということではなく、動き自体に問題があり、その動きを直すことでリラックスでき、気持ちよくバットを振ることができるようになりました。
先日の魚住先生のご指導を見て、選手自身にいかに理解させるかということを意識して指導すると、結果もよく選手自身がよく理解できていたように思います。
- 問題が起こった原因は何か?
- それをどのようにすれば改善できるのか?
- 実際に指導してどのように変化したか?
- 選手自身はどのように感じたか?
そういったことを改めてひとつひとつ整理し、伝えることで選手にとって有意義な時間になり、僕がいなかってもできるようになります。
理解できると選手だけでもできるようになり、それが本当の指導だということを痛感しています。
今回の指導が選手の中で何かを掴むきっかけになればうれしく思います。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。