野球選手が理解しておきたいウォーミングアップについて

野球、サッカー、陸上、ラクロス、ラグビーなど、さまざまなスポーツ選手からウォーミングアップについての質問を受けてきましたが、学生が行っているウォーミングアップは伝統的なものがほとんどで、どのような目的があるのかを理解していないことがほとんどです。

ただ身体を温める、ストレッチするという程度にしか理解されていないのが現状で、ウォーミングアップを理解し行うことでその後に行うプレーは変わってきます。

今日は野球をイメージして現場で行っていることも踏まえてウォーミングアップについて細かくお伝えしていきたいと思います。

こちらも参考にしていただければと思います。

[clink url=”http://izuru-style.co.jp/warming-up”]

[clink url=”http://izuru-style.co.jp/warming-up-stretch”]

 

ウォーミングアップとは?

すべてのスポーツに共通することからお伝えしていきたいと思いますが、そもそもウォーミングアップ【warming-up】とはどのような意味があるのでしょうか?

こちらについては、ウォーミングアップの目的とメニュー作成時に柔軟な発想で考える必要がある理由 でお伝えしていますので、まずこちらを参考にしていただければと思います。

要約すると、ウォーミングアップの目的は身体を温め、筋温を上げ、反応を早くし、身体を動かしやすくすることです。そのために、心拍数を上げる必要があります。ここから実践的なことも踏まえて細かくお伝えしていきたいと思います。

 

まず5W1Hを整理する

現場でウォーミングアップを行うときに考えることがあります。それは5W1Hです。

  • WHO(誰が)
  • WHEN(いつ)
  • WHERE(どこで)
  • WHY(なぜ)
  • WHAT(何を)
  • HOW TO(どのように)

ということを考える必要があります。これは対象者、季節、気温、環境、目的によってウォーミングアップの内容は変わり、さまざまな条件の中で目的に合うメニューを作成していきます。

そのため今日お伝えする内容もあくまでひとつの例としてお伝えしていますので、絶対ではないということを頭のどこかに置いといていただければと思います。

それぞれひとつひとつを見ていきたいと思います。

WHO(誰が)

誰がというのは、対象者のことです。

  • 小学生
  • 中学生
  • 高校生
  • 大学生
  • 高齢者
  • リハビリ中の選手

その対象者によっても行うメニューは異なります。

例えば小学生の場合、ウォーミングアップに時間を割きすぎると体力的な問題で、練習に入る前に疲労してしまい練習に身が入らないということも起こってしまいますし、中・高生の場合時間的な制限が出てくる可能性がありますので、ウォーミングアップの中にトレーニングを組み込むこともあります。

このように対象者によってメニューが変わるため、WHO(誰が)をしっかりと整理する必要があります。

WHEN(いつ)

WHEN(いつ)というのは、

  • 季節
  • 時間帯(早朝、日中)
  • 年齢
  • タイミング(練習前、試合前)

などを考える必要があります。季節によって気温が異なり、今のような冬の時期は気温が低いため外でウォーミングアップをすると身体を冷やしやすくなり、服装や環境を考える必要が出てきます。

また、練習前なのか試合前なのかによって目的が異なるためメニューも変わります。先ほどと少しかぶりますが、年齢的なこともここに入り、年齢によっても当然メニューを変えることになります。

WHERE(どこで)

ウォーミングアップをする環境がどのようなところがあるのかということですが、グランドなのか、芝生なのか、砂利道なのか、また広さはどのくらいあるのか、大きな場所は確保できるのか、畳一畳分しかないのか、暖房や冷房があるのか、室内なのか野外なのか、こういう条件によって身体を冷やさないようにします。

逆に夏場は日光を日ながらウォーミングアップを行うことで体力を消耗してしまうため日陰で行い、できるだけ体力を消耗してしまわないようにする必要があります。

このように環境要因を考える必要があります。

WHY(なぜ)

目的によってメニューは変わりますが、練習前に行う場合、時間的なことからウォーミングアップの中にさまざまなトレーニングを組み込みます。

実際に野球選手へ指導しているウォーミングアップメニューの中には、

  • バランストレーニング
  • アジリティトレーニング
  • クイックネストレーニング

などが組み込まれています。

試合前については無駄なエネルギーを消費し疲労しないようにするため、各種のトレーニングを取り除いたり、目的によってメニューを変化させます。

野球選手の場合、バッティングのみを行って練習を終える場合、ウォーミングアップはバットを振らせ、キャッチボールだけの場合、ボールを投げながらウォーミングアップをさせ、必ずこうするという形ではなく、必要に応じてメニューを変化させます。

WHAT(何を)

目的を整理し、環境や対象者が明確になれば次は具体的に何をするのかということを考えていきます。

ランニングをするのか、バイクをこぐのか、その場でジャンプするのか、方法はひとつではありません。いくつもある方法の中で、選択していきます。

  • スタティックストレッチング
  • ダイナミックストレッチ
  • バリスティックストレッチ
  • ペアストレッチング

などストレッチの方法もさまざまありますが、ウォーミングアップでは何をするのかはすべて目的次第です。

HOW TO(どのように)

ここまで決めたことを実際にやるとなるとどのように行うのかという具体的な方法を知る必要があります。

よく見られるのが腕の回し方で、この回し方一つで動かしやすくするのか、動きに引っ掛かりが生まれスムーズではない動きを作ってしまうのか、そういった違いが生まれます。

またやはり環境に合わせて方法を取捨選択する必要があり、全体を通してみても柔軟な発想を持ち、固定的な考えにならないように工夫することも必要になります。

 

具体的に行う野球選手のウォーミングアップについて

現場で野球選手に指導するウォーミングアップは、

  • ランニング
  • 体操
  • アジリティドリル
  • バランストレーニング
  • クイックネストレーニング
  • ダッシュ

という手順で行っています。選手に指導する一例ですが、大学や社会人になると基礎体力はある程度向上していますので、ウォーミングアップの中にトレーニングを組み込まず、身体を緩める、動きやすい状態にするということをベースに行っていきます。

ランニングについて

まず体温を上げるために心拍数を上げていきますが、心拍数を上げる目安は120拍/分です。これは客観的に見るとハアハアドキドキし、汗ばむぐらいの強度がちょうどこの120拍/分に当たります。

心拍数は心臓を上下することで上がりますので、上下させる運動であれば何度もいいわけですが、上記でお伝えした条件を踏まえて選択をしていきます。

グランドを3周などと言われますが、なんとなく3周というのではなくひとつの目安は心拍数であり、この120拍まで上がるようにグランドなどを走らせたりします。

そのため「グランドを3周」と指示したりする場合、その理由があるはずです。適当では当然いけません。逆にこれが多すぎても疲労してしまうため考えものです。

体操(ダイナミックストレッチ)

一般的にはこのタイミングでストレッチングと言われる、筋肉を10秒伸ばし続けるようなことをすることが多いと思いますが、知っておきたいことが、そういった静的ストレッチングは大きな力を必要とする前やエキセントリックな筋活動を要する前には省きます。

基本的にはウォーミングアップの中に組み込むことはありません。

現在さまざまな研究から30秒以上静的なストレッチングを行った場合、筋力発揮が低下する可能性が高いというデータが多くあり、またストレッチを行っても筋力発揮が向上する可能性はないということがわかっています。

そのため現場では動かしながら筋肉を緩める動的なストレッチ、体操を行っています。

手順としては、上から下へ動かしていきます。

  • 肩(肩甲骨)
  • 脊柱
  • 骨盤
  • 股関節
  • 膝・足首

などの手順で緩め、動かしやすい身体にしていきます。

この体操で意識することは、常に楽に動かす、リラックスして動かすということです。また関節の自然な動きを理解し、スムーズに動くということも理解できるように指導しています。

体操の目的は筋肉を緩めることですが、一番の問題は”一生懸命”にすることです。体操はある意味で適当さが必要です。これはチャランポランにしなさいということではなく、一生懸命すると無駄に緊張させてしまい動きが硬くなってしまい、筋肉も緩みません。

ある程度の適当さを求めて行うことで引き出したい反応である筋肉を緩める反応が出ます。体操もひとつひとつの動きを理解して行うことで、これまでとは全く違った身体になることが実感できると思います。

アジリティドリル

ポジションにもよりますが、大きく分けると守備のときの動きは3つに分けることができます。

  • サイドステップ
  • キャリオカ
  • 背走

これらはひとつひとつが独立した形だけではなく複合的になり、2つや3つの動きが1つのプレーで同時に行われることがあります。

例えば内野手の後方に上がるフライを追いかけるときは、背走、キャリオカなどの動きになったり、ランナーの動きもサイドステップなどの動きがあり、この動きをアジリティドリルの中で行います。

このアジリティドリルでも体操と同じですが、すべての動きをリラックスして行います。ここでのポイントは重心を運ぶということです。脚をどうこう動かそうという意識は持たず、重心を運ぶように身体を動かすと無駄な力が入らず、脚はリラックスします。

ウォーミングアップで共通することですが、一生懸命に行い、硬い動きになってしまえば硬い動きをインプットしてしまうため、ウォーミングアップ後に行う競技の動きが硬くなってしまう可能性があります。

動きやすい身体をつくることが目的ですので、その目的に合うようにできるだけリラックスし、スムーズな動きになるように身体を動かしていきます。

バランストレーニング

このバランストレーニングというのはよく、”不安定なところでバランスがとれるようにする”ことでバランス能力が向上するといわれており、ドームのようなものに乗って何かをしたりするということが行われています。

トレーニングの原則に特異性という原則があり、行った体勢、力の入れ方など、トレーニングを行った形の効果が得らえるという原則があります。言い方を変えると、上半身を鍛えても下半身が鍛えらえることはないということです。

野球選手が必要なバランスとはどのようなものでしょうか?足元が不安定な状態で何かをする能力が必要でしょうか。

野球選手が必要なバランスとは、安定した地面で片脚で立つことができたり、軸足に体重を乗せたときにバランス良く立てる、そういったバランス能力が必要となります。

そうであれば、特異性ということを考えればバランストレーニングは平地で行うことで目的に合います。

そのために行うことは、

  • ジャンプストップ
  • シングルジャンプストップ

などで、ジャンプをしてフラットに着地できるようにその場から少しずつ前に進みながらこのバランストレーニングを行います。

クイックネストレーニング

クイックネスというのは、日本語で俊敏性と言い、速さを求めるトレーニングです。何の速さかと言うと、筋肉の収縮速度で、クイックネストレーニングの目的は筋肉の収縮速度の維持をするために行います。

そのために行うのがラダートレーニングです。

一般的にはラダートレーニングは”敏捷性”のトレーニングとして行われていますが、敏捷性は正確性+速さという式となり、ラダートレーニングは速さのみをもとめるものであるため、敏捷性ではありません。

具体的には、敏捷性(アジリティ)と俊敏性(クイックネス)トレーニングの違いをラダートレーニングから考えてみる でこれらのことをまとめていますので、参考にしていただければと思います。

メニューとしては、ラダーを使用しても、30cm感覚でラインを引いてもいいですし、それをひとつの目安として使います。

例えば・・・

  • 両足ステップ

ラダー

1つの枠に1歩ずつステップする

ラダー

というように、種目については10種目ぐらい用意し野球という競技をイメージした動きを取り入れ行っていきます。

あくまでも目的は筋肉を速く収縮させること、収縮速度を維持させることですので、あまりフォームにこだわりすぎる速く動かすことだけを意識してトレーニングを行っていきます。

ダッシュ

ダッシュについては、約30の距離をとり、ポーン、ポーン、ポーンとサイドステップをしてその流れでダッシュに入っていくような感覚でまずは行います。

ここで注意することは、サイドステップから正面を向いて走り出す時に地面をグッと押したり、力んでしまわないようにすることです。先ほどもお伝えしましたが、ウォーミングアップの全体を通して重要なことは楽に動くこと、リラックスして動くことです。

この動きが後に行うプレーでリラックスしてスムーズな動作ができるようになります。そのために、ダッシュでもサイドステップから走り出すときの切り替えしの動作が力んでしまわないようにスムーズに動作が切り替えられるように行います。

  • 6歩サイドステップ→ダッシュ
  • 3歩サイドステップ→ダッシュ
  • リード→ダッシュ

というようにステップを踏み、最後は盗塁のイメージで静止状態からスタートを切るようなダッシュを行っていきます。

このような一連の流れでウォーミングアップを行い、動きやすい身体を作っていきます。10分ぐらいで軽くランニングをして、ストレッチをして・・・という感覚でウォーミングアップを行っていた方がこのメニューをすると、ウォーミングアップの効果をより感じれると思います。

また身体の動かしやすさ、反応違いなどが感じられ、ウォーミングアップをきちんと行う重要性について理解できると思います。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。冒頭でもお伝えしたように、ウォーミングアップも目的次第でメニューは大きく変わり、固定的なメニューはありません。

ただ、今お伝えしたかったのはウォーミングアップをなぜ行うのか、具体的にどのようなことをすればいいのかイメージがつきづらい方も向けてお伝えしていますので、そういう方に少しでも参考になればうれしく思います。

なんとなくグランド3周ということではなく、ひとつひとつに理由があり、体操の動きとっても動かし方がひとつひとつにあります。それを理解し、実践することでウォーミングアップで得たい本来の効果を実感することができます。

今日の内容が少しでも参考になればうれしく思います。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*