2011年 5月 の投稿一覧

なぜ年をとると速く走れなくなるのか|ニュースレターNO.264

Sportsmedicine 2011 No.129に「歳をとると速く走れなくなる理由」と題した投稿記事が掲載されていました。著者は東京大学名誉教授の宮下充正先生でした。日ごろそれなりに練習していても加齢とともにパフォーマンスが低下して行きます。その原因は、単に加齢によるものなのか、それとも筋力が低下して行くからなのか、そんな疑問はだれしも持っていると思います。

加齢とともに、動作が遅くなってくるのは明らかで、動きが遅くなり始めるのは25歳からだと言われているようです。加齢にともなう記録の低下率は、スプリント走よりも長距離走でより明らかで、競泳でも同じ傾向がみられると言われています。宮下先生はドイツとイギリスの研究(歳をとったランナーはなぜこれまでより遅くゴールするのか)から、いくつかの研究をまとめ報告されていますので紹介したいと思います。

「走るなどの移動運動のスピードが増加すると、移動するときに受ける空気や水の抵抗と消費される生理学的エネルギーは、直線的ではなく曲線的に増加する。このことは、1930年代のKarpovichやOgasawaraなどの古い研究報告を参考にするまでもなく明らかである。

したがって、加齢にともなって、移動するスピードがどのように変化するのかは、パワーという次元で比較するのが適当であると述べ、Arampatzisたち(2011)は、100mスプリント走とスプリントサイクリングの単位体重当たりのパワーの40歳から65歳にかけての低下割合を図1のように示している。

中略

興味深いことに、機械的パワー発揮の生理学的効率は25%ぐらいであることから、サイクリングでの最大無酸素パワーの値を4倍すれば、走運動の生理学的パワーの値に近くなるとArampatzisたち(2011)は指摘している。そして、このように加齢にともなう移動運動での遅くなる傾向は、動作様式が異なるスポーツ種目で同じであることから、その背景に共通した理由があると思われると推測している。

そこで、スプリント走のスピードに焦点を当てて具体的に解説してみたい。走スピードは、ストライド頻度(1秒当たり何歩か)とストライド長(1ストライドの長さ)とを掛け合わせたものである。ストライド頻度もストライド長も走り始めてからの時間あるいは距離によって変わるが、Arampatzisたち(2011)は、マスターズ・スプリンターは若いときのストライド頻度を保持しているが、ストライド長が短くなってくるので、速く走れなくなると述べている。

このように、ストライド長が短くなってくると、着地期のブレーキ力と推進力が弱くなるし、それは筋肉の発揮する力が減少するためであろうと、Korhonenたち(2006)の研究結果を引用し説明している。

このストライド長が短くなる生理学的理由として、タイプⅡ筋線維の萎縮によって、マスターズ・スプリンターの最大筋力と筋力発揮スピードが低下、そして、弾性エネルギーの備蓄が減り、その弾性エネルギーを短縮性筋力発揮に生かせる量が少なくなるというCavagllaたち(2008)の報告を参考にしている。」

「最大努力での発揮筋力と筋収縮スピードとの関係は双曲線となり、筋力×筋収縮スピードで得られる筋発揮パワーは、ある一定の収縮スピードのとき最大となるという、Hillが提示した有名な図を引用して、Arampatizsたち(2011)は、筋線維タイプと筋萎縮の影響を図2のように説明している。

図2のAは、筋線維のタイプⅠ(破線)とタイプⅡ(実線)とを比べたものである。タイプⅡ線維はより速い筋収縮スピードで、タイプⅠ線維の3倍以上の最大筋力が発揮できることを示している。したがって、1970年代いろいろなスポーツ選手の太ももの筋線維タイプを比較したSaltinたちが報告したように、スプリント走選手のタイプⅡ線維数の割合は、長距離走選手に比べ明らかに多いのである。

図2のBは、Larson(1978)やLexellたち(1988)の報告から、加齢とともにタイプⅡ線維の25%が死滅する、あるいは、萎縮することによって、発揮できるパワーが減少することを示している。したがって、Sarcopenia(筋肉減弱症)が、加齢にともなう発揮パワー低下の大きな原因といえるとしている。」

「地面からの反作用の大きさを決める重要な要素は、脚の伸展筋群が発揮する力であることはいうまでもないが、この筋群が発揮する力とパワーに対して、腱がかなり大きな影響をおよぼす。この腱の役割をArampatizsたち(2011)は、次の3つをあげている。

①エネルギーの備蓄とその再利用、②筋力発揮スピードと骨格への伝達、③筋力と筋パワー発揮能力、である。というのも、筋肉と腱は直列につながっているために、筋力・筋長・筋収縮スピード関係に影響するからであると述べている。そして、Medemliたち(2008)の研究結果を引用して、下肢の腱の硬さと下腿三頭筋の筋力は、加齢とともに30%近く低下する。

このため、推進力、ストライド長、そして、走るスピードが減少するとしている。同じように、大腿四頭筋の筋力と腱の硬さがともに低下するために、スプリント走の成績に影響をおよぼすと指摘している。このように、加齢にともなうスプリント走の成績(スピード)におよぼすのは、筋・腱というユニットであると結論している。」

「下肢の筋群の最大筋力の低下、筋力発揮スピードと伝達効率の低下、腱における弾性エネルギーの備蓄と再利用の減少、の3つが走る最高スピードの低下の要因である。もちろん、下肢にある下腿三頭筋とアキレス腱、大腿四頭筋と膝蓋腱などいくつかの筋・腱ユニットの影響の程度は、それぞれ異なる。

しかし、筋量の減少、筋収縮特性の退行が、走スピードの加齢にともなう低下の主要なカギとなっていることは確かである。他方、神経・筋系と筋・骨格系の可塑性は、合理的なトレーニング法によって適応できることが明らかにされていて、加齢にともなう走スピードの低下を抑える可能性があるといえる。

しかし、スプリント走能力を維持するトレーニングは、疲労からの回復や損傷した組織の修復に加齢とともに時間がかかるようになることから、競技会へ出場するマスターズ・ランナーたちにとっては頻度や継続時間が少なくなる。そして、結果的にトレーニングのいわゆる“オーバーロードの原則”の維持が次第にできなくなるのである。

このことが加齢にともなう走能力の低下をもたらすもっとも確かな理由であるし、トレーニングを無理して遂行すれば運動器に障害が生じ、競技会参加を断念せざるを得なくなってしまうだろう。」

直立姿勢を考える(2)|ニュースレターNO.263

直立姿勢で立つとき、両足は平行ではなく、解剖学的にはつま先が15~16度外転させることになりますが、左右の向きが対称で、一番楽に足の裏全体が床につく感じであればよいと思われます。また、膝蓋骨の向きをチェックし、内を向いたり、外を向きすぎたりしないで、正面を向くようにつま先の向きを調整してもよいでしょう。

この足幅では狭すぎるのではないかと思いますが、実際には一番楽に立て、一番安定する足幅なので、下肢の筋肉にストレスを感じることなく、楽に長時間立てる足幅になります。この足幅で目を閉じて、立って見ます。バランスがとれていれば、ふらつきませんが、身体のどこかに崩れがあれば、いろんな方向にふらつきがみられます。

そんなときは、バランスを取ろうとしないで自然に任せ、ふらつきが静まるまで待ちます。このふらつきは、からだがバランスを修正しようとして働く自然な反応であるので、軽くサポートをする程度でその人が動きたいままに任せることです。

これは非常に大事なことであり、バランスの崩れは、強制的に直そうとするのではなく、生体そのものの自然な修正能力を活用するように持っていかなければなりません。そういう意味からすると、バランストレーニングというものも考え直してみる必要があるかもしれません。

無理にバランスを崩させて、そのバランスを取らせようとしたり、バランスを崩した状態でエクササイズするという何とも強引なバランストレーニングの目的は何なのか、理解することが難しいと思います。大事なことは、「自然な・・」ということです。その「自然に」ということには、「生体本来の」、また「楽に」ということです。

足幅が決まれば、すなわち垂直方向のストレスに楽に耐えられる2本の脚が決まればということになりますが、2本の足で支える骨盤が問題になります。

ここでポイントになる個所は、骨盤を支える左右の股関節、骨盤が脊柱を支える仙腸関節です。まず、左右の股関節のはまりが同じようになっていければなりません。

とくに、大腿骨のはまり具合は、股関節の可動性を見ればわかります。むしろ、左右での可動性の差がみられることの方が多く、左右どちらかに重心が偏っていることが想像できます。左右の股関節に均等に体重がかからなければ、脊柱を垂直に保持することは難しくなります。

骨盤では、この左右の股関節と仙腸関節を同時に見なければなりません。重心の偏りが左右の仙腸関節の噛み合わせのずれか、左右の股関節のはまり具合のずれか。仙腸関節と股関節に問題がなければ、脊柱を支える土台はしっかりしたものであり、後の問題は、頭部の問題だけとなります。

なぜ、脊柱に問題はないのでしょうか。土台が崩れないしっかりしたものであれば、後は、一番重い頭が正中線上にあるかどうかであり、正中線上に乗っておれば、脊柱にたわみが生じるはずがないからです。問題は頭の位置と傾きです。頭が傾いていれば、正中線上に重りが乗っていないことは分かりますが、一番大きな問題は、下顎骨です。

下顎骨のポジションは非常に重要であり、脊柱にたわみをもたらせる最大の要因と考えられています。歯科医の世界では、常識になっているのですが、歯の噛み合わせが悪いと、肩コリや腰痛を引き起こすといわれています。それはなぜでしょうか。

下顎骨は、本来頭蓋骨にバランス良くぶら下がっています。しかし、虫歯などがあれば、虫歯を避けて物を咬むようになるので下顎骨がずれていきます。いわゆる歯の噛み合わせが悪くなるということです。

本来は、正中線でバランスがとれるようにぶら下がっているのですが、ぶら下がった重りが左右にずれれば、当然頭もその方向に少しずれます。そのわずかなずれが、頸椎のたわみとなり、そのたわみのストレスが胸椎、腰椎も及びます。下顎のゆがみが全身に影響することを理解しなければいけません。そういう意味からして、左右対称的な顔になっているかということが問題にもなります。

自然体の直立姿勢を足元からみてきましたが、最も問題になるのが頭部、顔面のパーツの配置といえます。頭の位置がずれれば、下顎骨の位置がずれれば、首を支える筋肉にも影響するので、頭を支えるために首の筋肉が緊張するしかありません。首が固くなって、首の筋肉を揉んでほぐそうとしても仕方ありません。

頭のポジションを中間位に戻し、顎のポジションを適切な位置に戻せば、自然に首の緊張も取れることになります。首の緊張、特に頭が後方に傾いている人はいませんが、前方に傾いていくので後頭下筋群がそれを防ぐために固くなり、脊柱起立筋にも緊張がおよび、脊柱周囲に違和感が現れることは理解できるはずです。

足元については、足の幅について考え方を述べましたが、大切なことは、2本の足の裏で体重を支えることです。そうすれば両足の中間、脊柱の真下に重心が降りてくることになります。常に重心を両足の中間に置くことができれば、からだのひずみは生じることもありません。

例えば、前にかがむとき、おしりを後方に引かなければ、重心が前に傾き、バランスを崩してしまいます。それが、常に重心を両足の中間に保持してからだを動かしていれば、問題は起こりません。立っているときも、そこに重心が落ちることで前後左右にふらつきもなくなり、楽に自然に立ち続けることができます。

両足の裏で立ち、股関節、仙腸関節が適切なポジションにあれば、膝はどうなるでしょうか。当然膝の関節は、大腿骨と脛骨が適切なポジションとなり、膝の不快の問題も解決するように思われます。特に、年配の女性に多くみられる股関節や膝関節の不快の問題は、このような考え方で解消するのではないでしょうか。

「直すことで治る」という考え方です。

人間のからだは不思議そのものです。いろんな刺激に対していろんな反応をします。からだの不快は、正に不快をもたらす刺激が、不快の原因なのです。刺激にもいろいろありますが、姿勢の崩れも不快の刺激になります。崩れた姿勢をいかに元の自然体に戻すか、いかに自然な立ち姿に戻すか、その手段は無限なのかもしれません。目的は一つしかありません。自然体に戻すことです。