2011年 4月 の投稿一覧

直立姿勢を考える(1)|ニュースレターNO.262

今回は「スポーツトレーナー虎の巻-完全版2010」の魚住の考え方から紹介したいと思います。

身体のいろんな問題は、身体が自然体にないことが原因であると考えています。その自然体の定義に明確なものはありません。指導する側が一つの基準として、自分の自然体に対する定義を持つ必要があると思います。そこで、自然体の基本である直立姿勢について考えてみたいと思います。長くなりますので、2回に分けて直立姿勢の考え方について紹介したいと思います。

人間が四足動物から2本足で立てるように進化してからどれほどの年月が経過したのでしょうか。人類の誕生は地球の歴史では、1日24時間に直すと、誕生してわずか2分しか経過していないことになるそうです。我々のからだは、まさに進化の途中というより進化の始まりの段階かもしれません。

4本脚で体を支えて安定して歩きまわっていたものが、手を使うために2本足で立って歩くようになりました。そんな人間が元の4本足でどれほどのスピードで走れるのでしょうか。2008年に「四足走行100m世界最速記録」がギネスに登録されました。そのタイムは、18秒58です。

テレビでギネス記録に挑戦するという番組でのことでしたが、私も見ていました。猿のように両腕と両足を四つん這いの状態で交互に使い、素晴らしいスピードで100メートルを駆け抜けていきました。その人物は動物園で見た猿の動きに魅せられて、サルの動きをまねることにのめり込んでいった結果であるといいます。

2本足で立っていて、身体のどこかに不快感があれば4本足に戻ってもよいのではないでしょうか。例えば4本足動物に腰痛はないのですから、腰がいたければ這い這いしていれば自然に治るように思われます。5~6キロあるといわれる重たい頭を脊柱で支え、その土台である骨盤を左右の2本の脚で支えているという構造上から、上の頭の重りが正中からずれると、それを支える脊柱にたわみが生じます。

そのたわみをたわんだまま支えるために、特定の部分が緊張を強いられることになります。それが全体の歪みとなり、局所に不快や痛みをきたします。全体の歪みは、当然内臓系にも影響します。頑丈な筒の中に内臓が抑えられているのではなく、柔らかい組織が重なり合っているので、前後左右上下のどこかから、ゆがみのストレスを受けることが考えられます。

その結果、ストレスを受けた臓器の働きは低下します。外側を考えれば、脊柱ラインの歪みストレスは、脊髄周囲を流れる脳脊髄液の流れを抑制したり、脊髄神経の伝達を抑制したりすることが考えられます。

5~6キロある頭を支えている一番上にある椎骨は7個の頸椎で、第1頸椎の環椎と頭蓋骨の後頭骨とが環椎後頭関節で支えています。

この関節では、軽度の屈曲と伸展(約15度)、側屈(3~5度)、回旋(左右4~6度)ができますが、大きな動きはその下にある第2頸椎の軸椎と環椎で構成される環軸関節で行われます(屈曲・伸展は約10度、側屈はほぼ0度、回旋は左右47度)。頭が正中線に垂直状態になければ、この2つの関節に影響し、可動範囲が制限されるだけでなく、その下の第3~第7頸椎までの配列にも影響し、頸椎の正常なカーブが保てなくなります。

そうすれば、頸部周囲の筋の緊張が生じ、首こりや肩こりを生じることは想像できます。尐なくとも、頸椎の自然なカーブを維持して、頸椎をサポートする周囲の筋肉に緊張を生じさせないで、頭がきっちり第一頸椎の上に収まっていることが重要なのです。すなわち、環椎後頭関節と環軸関節の動きが十分な状態であるということです。

結局のところ、頭と体幹の正中を維持した自然体が保持できないことに原因があると考えられます。周りを見回してもきれいな立ち姿をしている人間を見つけることは難しいでしょう。

リラックスしたバランスのとれた立ち姿ができれば、上記のような異常は現れないはずです。日常生活の癖、職業上の癖、さまざまな癖というものが、自然な立ち姿・直立姿勢をゆがめる原因となるのでしょう。首、肩、腰、膝などの不快を解消するために、トレーニングをするという発想の前に、その根本原因であろうと考えられる崩れた立ち姿・直立姿勢を改善する必要があります。

バランスが崩れた緊張した肉体に力を出させるのではなく、まず緊張をとるために力を抜かせることが必要です。力を抜かせるために、ストレッチングすると
いう考え方ではなく、からだのパーツが尐しずれているので、適切な配列に戻すという考え方です。パーツの配列、すなわち骨の配列が適切でないから、そこに緊張が発生するのであり、骨の配列を適切なポジションに戻せば、自然にその周囲の筋や組織の緊張も緩和し、その弛みが全身に広がっていくはずです。

部分的な緊張や全体的な緊張をとるために、筋肉を伸ばしたり、組織をマッサージして緊張をとろうとしても、根本的な骨の配列が適切なポジションに戻っていなければ、立って重力負荷を受ければ、また緊張が再発し元通りになるというのは想像できます。うつ伏せや仰向けで緊張をとっても、最終的に、坐位・立位で骨の配列が適切なポジションに戻っていなければどうにもならないということです。

局所の不快は全体の崩れを導いているはずですので、常に全体を見て、全体を動かしながら自然体に戻していく必要があります。それが自然体の立位姿勢です。からだを緩みのポジションに置けば、病的に関節の拘縮がない限り、骨・関節は動くはずです。要は、どう動かして自然体に戻すのかということになるのです。

立位姿勢で大切なことは、2本足で立つことですが、両足の開き具合を考えてみる必要があります。通常は、安定するために、肩幅に開きましょうということが多いようです。しかし、肩幅というのは、骨盤を支える2本の脚は、台形状で骨盤を支えることになり、その上半身を支えるために両下肢の外側が強く緊張することが解ります。

逆に、両足を閉じた状態では、両下肢の内側が緊張します。いずれのポジションでも長く楽に立っていられません。理想的には、下肢の内側にも外側にもストレスがかからない緊張しない骨に垂直方向の、すなわち長軸方向のストレスがかかるポジションということになります。その条件にかなう足幅は、左右の骨盤を支える股関節の大腿骨と寛骨臼が関節結合している幅と考えられます。

実際には、両足の幅は10~15㌢ぐらいになると思われます。男性であれば、立ち小便をするときに、その足幅を容易に見つけることができます。足幅を変えて排尿すれば、一番楽に自然に排尿できる足幅が10~15㌢であることが解ります。閉じてしまうと、股が閉まって排尿できなくなります。快適な排尿のために、快適な足幅があるということです。

以下、次回に続きます。

マッサージ|ニュースレターNO.261

昨年から皮膚に興味があり、いろいろ文献を調べながら身体調整テクニックに応用できないか実践を繰り返してきました。皮膚には意識があるということが分かっており、色を識別したり音を聞き分けたりもするそうです。皮膚の細胞も筋肉の細胞も臓器の細胞もみんな一つの細胞から分裂したものであり、基本的に同じ性質・機能を持っていると考えられます。

皮膚の感覚器をどのように刺激すればよいのか、その刺激方法はいろいろあります。その代表的なものがマッサージです。マッサージについては、単に静脈や動脈の血液の流れを促進するということ以外に、なぜ血流が良くなるのかという根本的なところはわかっていなかったようです。

そんな折、傳田光洋著:賢い皮膚(ちくま新書2009)に出会いました。この本の中にマッサージに関しての記述があり、それを読んだときなおさら皮膚に興味がわいてきました。皮膚に対していろんなトライができると思いますので、興味のある方は、ぜひ原著をお読みください。ここではマッサージに関するところだけピックアップして紹介します。

『指による刺激を皮膚にほどこし、気持ちよさや健康を保つのがマッサージだとするとそれが現れたのは類人猿になってからでしょう。巧みに指が使えないとできることではありません。

皮膚への刺激が身体全体の生理や情動に影響するという研究報告は数多くなされています。人間では血液や唾液の中のストレスホルモン、コルチゾールの量を測定し、マッサージによってそれが低下するとリラックスしているとみなす、そういう研究が多い。しかし何が起きているかに関する詳しい研究はあまりありません。

動物ではサルの毛づくろいについて、いくつか興味深い研究があります。毛づくろいすると脳内「快感」物質であるβ-エンドルフィンが増える。この物質の代わりになる薬物がモルヒネです。一匹だけサルを鑑に入れておきます。飼育係が棒で撫でてやると、サルはもっともっととせがむようになります。そんなときサルにモルヒネを注射すると満足して棒の毛づくろいを求めなくなる[Keverne EB.1989]。サルにとって毛づくろいは文字どおり麻薬のようなものなのです。

さて人間について考えてみましょう。

マッサージの仕組みはよくわかっていませんでした。皮膚を押したりこすったりすると、温度が上がり、あるいは血管やリンパ管が刺激されて、その循環が良くなる、その結果肌がきれいになったり、しわが伸びたりする、さらには気分も良くなる、ストレスも軽くなる、そんな漠然としたイメージでした。

医学、というより医科学ではあいまいなことを議論するのを避ける傾向があります。マッサージが身体や気分に作用することを否定する人はあまりいないでしょう。しかし医科学の世界でマッサージの治療効果について詳しく語られることは尐ないのです。これはその仕組み、なぜ効果があるのかを細胞レベルの科学で議論できないことが原因でした。

筆者の若い同僚、池山和幸博士は、表皮が一酸化窒素(NO)合成することを発見しました。一酸化窒素というと有害なガスのように思えますが、実は身体のあちこちで作られ、重要な役割を果たしています。特に血液循環への作用が知られている。心筋梗塞の人がニトログリセリンを持ち歩きますが、これはニトログリセリンがNOを発生し、収縮していた血管を広げる作用があるからです。

NOが血管に作用すると血管の細胞に生化学的変化を起こし、血管を広げます。この生化学的作用を持続させる薬がバイアグラです。

血管を広げる物質NOが表皮から出る。それならばマッサージすると、つまり皮膚に圧力を与えると表皮からNOが出て、血管やリンパ管を広げる。これがマッサージの仕組みではないか。そう考えた池山博士は培養した皮膚に圧力をかけてみました。培養皮膚には神経や血管はありません。これまではNOはもっぱら血管細胞自身から出ると考えられてきました。しかし培養皮膚からもNOが出てきました。これは表皮から出てきたNOであると考えました。

NOは酵素によって作られます。NOを作る酵素には三種類あります。神経系にあるもの(nNOS)、血管にあるもの(eNOS)、傷があるとき生まれるもの(iNOS)です。調べてみると健康な表皮にあるのはnNOSです。健康な皮膚ではiNOSはないでしょう。さてマッサージされて働くのはnNOSでしょうか、eNOSでしょうか。

遺伝子操作でnNOSが無い培養皮膚、eNOSが無い皮膚を作ります。そこに圧力をかけてみました。するとどちらの場合も普通の皮膚に比べてNOの量は半分になりました。このことからマッサージ、つまり皮膚に圧力をかけたとき表皮と血管が半分ずつNOを作り、これが血管やリンパ管を広げてその流れをスムーズにすることがわかりました。

マッサージの効果は血液、リンパ液の流れを良くするだけではありません。様々なマッサージの施術を受ける人が期待するのは、ストレスを軽くしリラックスする。身体や心の疲れをとることだと思います。これはどういう仕組みなのでしょうか。

従来の考え方は、皮膚への刺激が脳に伝わり、脳が放出するストレス誘導ホルモンを減らす、あるいは脳の中で「安心」や「快適」な気分をもたらす物質の合成を促進する、というものです。この考え方は否定できないと思います。しかし最近の研究は別のシステムもありうることを示しています。

よくストレスホルモン、と呼ばれる物質があります。腎臓の上にある副腎という臓器で作られるコルチゾールというホルモンです。精神的なストレスがかかると脳は副腎にコルチゾールの合成を作るよう命ずるホルモン(副腎皮質刺激ホルモン)を放出します。その結果合成されたコルチゾールが血液中に増え、様々なストレス性の応答を起こします。

たとえば炎症を起こす反応はストレスがかかると抑えられます。そのため炎症を一時的に抑えるとき、「副腎皮質ホルモン」が投与されます。アトピー性皮膚炎のとき処方される塗り薬にも、それに似た物質が入っていることがあります。

ところが、どうやら表皮もコルチゾールを合成できるらしい。さらに表皮にはコルチゾール合成の引き金になる副腎皮質ホルモンを感じるシステムもありそうです。表皮が傷つくとコルチゾールの合成が表皮で始まるという報告もあり、ストレスを感じストレス性の変化を身体に起こすのには表皮も一役買っていそうです。そうなるとストレスを避けるための表皮のケアということも想定できそうです。

それだけではありません。脳の中で快感や興奮など様々な気分の変化を誘導する物質の多くを表皮は合成することができそうです。前述のβ-エンドルフィン、セロトニン、ドーパミンといった物質です。これらの物質が表皮で造られ血液に放出されても、脳には入らないと考えられています。それなら一体何のために表皮で合成されているのでしょうか。おそらくは未知の使命のために表皮はこれらの物質を造っているのでしょう。

あるいはオキシトシンという物質があります。この物質は母乳の分泌を促進したり、子宮を収縮させるホルモンとして古くから知られていました。赤ちゃんがお母さんの乳首に吸い付くと、その刺激がお母さんの脳、具体的には脳下垂体に届き、そこでオキシトシンが合成、放出されて乳腺に至るとお乳が分泌されるのです。

ところが今世紀になってこのオキシトシンには様々な役割があることがわかってきました。動物を使った実験では、オキシトシンは社会性を担う物質であることが指摘されています[Ferguson JN. 2000]。ネズミでもある社会秩序の中で生きています。それが乱れると種としての生存が危うくなる。たとえば遺伝子操作でオキシトシンが造れないネズミは子育てしなくなります。

他者との関係を維持するためにオキシトシンは重要なのです。オキシトシンを注射すると不安が軽くなる、といった心への作用です。ここまでなら、まあ血液の中を流れるホルモンとしての役割だから驚かない。びっくりしたのはオキシトシンを鼻の孔に噴霧したら他人を信頼するようになったという報告です。これは一流雑誌として有名なNatureに掲載された論文です。

タンパク質やその小型分子であるペプチドの存在を確認するのが抗体による染色です。この技術に長けた傳田澄美子博士がヒト皮膚を染めてみたところ、なんと表皮にオキシトシン抗体への陽性反応が認められました。脳で造られ心に作用する物質が表皮にあるのでしょうか。

確認のためオキシトシンを造る遺伝子が表皮細胞ケラチノサイトにあるかどうか確認したところ、オキシトシンの元になる遺伝子が見つかりました。表皮はオキシトシンを造り、刺激を受けるとそれを放出しているのかも知れません。表皮から放出されたオキシトシンも心に作用するのか、それを確認することは難しい。

皮膚を刺激した場合、神経系も刺激されますから、その情報を元に脳でもオキシトシンが合成され放出される可能性があります。これら二つの起源を持つオキシトシンは物質としては同じものです。化学的な区別は不可能なので、今、言えることは、マッサージなどによる血中オキシトシンの上昇には、脳も表皮も寄与している可能性がある、ということに留まります。

しかしコルチゾール、オキシトシン、あるいは様々な心に影響を及ぼす物質の多くが表皮でも合成されているということは、皮膚、とりわけ表皮と心とのつながりの可能性を改めて認識させます。

普通、人間は簡単に他人を傷つけられない。特に自分の子供を虐待するなど、筆者には生理的に不可能です。ところが時折信じがたい事件が報道されることがあります。多くの場合、加害者の育ち方の異常などが話題になります。しかし恵まれない環境で育っても尊敬されている人も多くいます。むしろ目に見えない、しかし科学的に記述できる何かのコミュニケーション機能の欠陥が、常識では考えられない犯罪の裏にあるのかも知れません。

マッサージ、あるいは皮膚への刺激による身体や心の健康の改善法の研究には、単なる医療技術の改良にとどまらず、様々な我々の問題への解決法を示唆するものが含まれているかも知れません。』