前回紹介したDVDの反響もすごく、結局9月はDVDの作成に追われた日々を過ごすことになりました。しかし、多くのメンバーの方から特に私の講義や講座のDVDの希望をいただいたことは嬉しく思いました。何々私の考え方や話を聞く機会がない方にとっては、参考になるDVDだと思います。
勉強会についても多くの方から問い合わせをいただいたようです。11月か12月には、また講座をやりたいと思います。それについては、次回お知らせできると思います。
さて、今回のニュースレターでは、「膝の痛みをとる」ということについて紹介したいと思います。Sportsmedicine No.113 2009の特集で紹介されたものです。この記事を読んで、驚いたのは、私がこれまで膝の痛みについての原因と解決策で話をしていたものと同じことが書かれていたことです。
ドクターの目からも、このような見方をされている肩がおられたのかと安心もしました。膝の痛みは、膝の中の構造組織に異常がなければ、ほとんどが使い方に問題があると考えています。したがって、正しい構造配置に戻して適切な使い方を指導すれば問題は解決すると考えています。
そのためには、身体調整のテクニックが必要です。正常な状態と適切な動きを理解し、それと現状の違いが理解できれば、後はその違いをどのように解決するかということになります。ここに身体調整のテクニックが必要で、より高いレベルの技術が必要になるのです。
今回の内容は、施術家の方のみならずパーソナルトレーナーにとっても役立つ上方だと思いますので、詳細についてはぜひ上記の雑誌をご覧ください。
『―お皿をよく動かすのが基本
―『膝痛』は治療家向けの書ですが、一般の患者さん向けに書かれた『ひざ痛が消える痛点ストレッチ』(マキノ出版、2002)では、タイトルには「痛点ストレッチ」とありますが、本文では「局所ストレッチ」と記されています。
宗田:「痛点ストレッチ」はのちにつけた名称です。当初はそういう言い方ではなく、単に「局所ストレッチ」と言っていたのだと思います。
―今は痛点ストレッチ。
宗田:そうです。ただ、どれだけオリジナリティがあるのかと言えば、そうたいしたことではない。むしろ発想の転換と言ったほうがよいでしょう。
―痛点ストレッチはいつぐらいに、どのような経緯で考えられた?
宗田:忘れました(笑)。要するに、膝蓋骨周囲の痛みにどう対応するかが基本なのです。
―もともとは膝蓋骨から。
宗田:お皿の痛み、つまり膝の前方が痛いというのは、膝の痛みで一番多いものです。膝のお皿の周りの痛みをどうするのかということでいろいろと検討していたのですが、痛みをとるということを意識して取り組み始めたのは2000年くらいだと記憶しています。
―臨床上、患者さんの膝に触れていて出てきた発想、あるいは最初から理論的仮説を立てて確かめていった?
宗田:とにかくお皿をよく動かすというのが基本にあるわけです。動かしたときに、痛い方向と痛くない方向、痛い場所といろいろとあるわけです。そういうときに、痛いところは硬いと仮定すると、押して痛ければ、その分伸ばされているんだろうという考え方です。それでお皿の周囲の痛みは理屈がつくわけです。
実際に圧迫してストレッチしていくと、痛みに対しては非常に効果があるものですから、やはり痛むところに局所的な圧迫ストレッチを加えることはよいことだということになる。いろいろな痛みがありますが、そうして探っていくと、だいたいパターンは見えてくるということです。
―痛いところを探して。
宗田:痛いところを探して、痛い方向に押す場合もあるし、動かす場合もありますし、患者さんによって異なるところはありますが、基本は同じです。
―医師の発想としては、痛いところを痛いようにするというのは珍しい(笑)。
宗田:私も、以前は痛いところに局所麻酔注射をうち「痛み止め」という対応をしていたのです。今は痛いところを圧迫して逆に痛いようにする。しかし、それによって効果が得られています。その刺激によって痛みを感じる神経を一時的に麻痺させるようなことになるのではないかと思います。
それは注射など痛み止めの処置を行うよりも効果ある可能駐があります。お皿はとくに動かすことが大事なので、動かすということは注射ではできません。動かすということはストレッチングですよね。痛くても伸ばす、ストレッチングはやはり必要です。しかし、そうすると、そのときは痛みは生じます。しかし、そのあとは痛みや動きが楽になる。
―痛いといっても自分でやるのであれば。
宗田:自分でできるように指導するというのが大切ですし、まさに基本です。それを行うことによって、ご本人にとってはコンディショニングの大事な要素になります。
―自分で我慢できないほどやる人はいないでしょうからね。
宗田:それもありますが、人にやられるより自分でやったほうが痛くないのです。それは押すという痛みを起こすことと感じるというのは同時にわかるからです。するとあまりつらく感じないのです。人に押されると、痛いということだけを感じるのです。
―自分の感覚がわからない他人に行ってもらうのは不安もある。
宗田:患者さんには「痛みが我慢できる範囲でやりなさい」、「痛くないといけません」と言っています。
―そこがポイントですね。
宗田:下手にやっていても、やらないよりはいいです。
―『痛点ストレッチ』の中に基本のストレッチで膝の表側、裏側を伸ばすというのがありましたけれども、足首の場合は反らす(背屈)というのが膝の表側のストレッチとされていて、よくわからなかったのですが。
宗田:あれはわかりやすく言うと、大腿四頭筋のセッティングです(後述)。自分の力でお皿にくっついている筋肉や腱を引っ張るのです。
―それをやりやすくするために足首を背屈する。
宗田:大腿四頭筋の力が入りやすくするために足首を背屈する。人によっては底屈したほうがやりやすいという方もいますけれども、一般的には背屈するほうが大腿四頭筋に力を入れやすい。それでもできない場合は、いろいろなやり方があります。自分で拳を膝の下に入れてそれを押すようにするという方法もあります。
あるいは、踵の下に枕をおいて、下肢全体を持ち上げ、力を抜くと膝裏が伸ばされます。そこでさらに膝をそらすように膝裏を下に押し付けるという方法もあります。大腿四頭筋とハムストリングスを同時に収縮させてしまうような人はこの方法がよいでしょう。実際に診ていると、こうした力を入れることに関して非常に不器用な人もいます。
―患者さんで多いのはやはり変形性膝関節症(膝OA)の人?
宗田:それは対象によって違います。レントゲンでみてOAかどうかは別として、痛みがあるというのは潜在的な負担はかかっているわけです。ただあまりお年寄りで自ら努力して治そうとする気のない人には痛点ストレッチはお勧めしていません。お年寄りと言ってもさまざまですが、一般的には自分で努力してよくしようというお年寄りは年をとればとるほど少なくなります。
ですからあまり痛い思いをさせて、それがつらくなるようではいけないので、適当なところでやめていただくことになります。一方、スポーツをやっている人は自分でなんとかしようという思いが強いですから、その場合は、痛点ストレッチは効果的です。
ただ根本的な病態そのものが治っているわけではありませんから、痛みが軽減されたからといって、やりすぎるという危険はあるわけです。思うように動きたいために痛点ストレッチを行うわけですが、その人にとって関節だけの視点で言えば、動くことは程度にもよりますが、必ずよいことだとは言えないわけです。
基本的にスポーツというのは、からだにいいからやっているわけではなくて、やりたいからやっているわけです。スポーツをしている人にはその辺を自覚して行っていただく必要があるでしょう。」
「アイシングのやりすぎに注意
―その段階でも、多くの人はまだあまり動かさないほうがよいだろうと考える。
宗田:ちょっと動かすと熱っぽくなるので冷やすのです。スポーツ関係ではRICEのアイシングについてはよく言われていますが、どうもやりすぎではないかと思うところがあります。アイシングはやりすぎると組織は硬くなるばかりです。気持ちはいいのですが、治癒、復帰という点では、あまり長い期間実施すると、その後の回復に時間がかかることになります。
印象的には抵抗力、組織の治癒力も落ちる傾向がみられます。やはりアイシングは長くて48時間。そのあと動いたあとに熱っぽくなることはありますが、その際15分くらいアイシングを行うのはいいかもしれませんが、それは治療というより、気持ちがいいからというくらいのつもりの位置づけでいいと思います。
どうも位置づけとしてRICEは重要視されすぎていると思います。急性期には必要ですが、あまりにも実施されすぎているように思います。
―簡単ではある。
宗田:簡単で、気持ちがいいから。それはいいのですが、治癒する方向にはあまりいかない。
―どちらかというと受身的な発想。
宗田:受身的です。
―48時間がすぎたら多少熱感があっても動かしたほうがいい。その際、何か注意したほうがいい点は?
宗田:最初は冷やすことも大事ですが、圧迫も大事です。圧迫が意外にうまく行われていないように思います。冷やすだけではなくて、最初はうまく圧迫することが大事です。あとはON・OFFをしっかりして、休ませるときと、痛くても練習するときとそれを意識してやるということが大事です。痛点ストレッチも1回3分以上はしないようにと患者さんには言っています。
一生懸命な人は長くやるとよくなると思っていて、それは危険かどうかはわかりませんが、それ以上の時間行ってもあまり効果的ではないし、かえって痛くなるようなこともあるのではないかと思います。
―痛点ストレッチは、硬くなっている局所を押すことによって、その部分の血行をよくしてやわらかくする。
宗田:痛みの物質がどうなるか、実験をしたい部分もあるのですが、実験を一生懸命にやって証明してもそう大きな意味もないだろうと考えています。それよりは治療法としてみなさんに実際に行ってもらったほうがいい。
―もう10年近くやっていらっしゃって、やはり臨床的には効果ははっきりしている。
宗田:こう言うのもなんですが、効果は抜群だと感じてきました。私の治療のプラスαです。痛みがある場合、だいたいこの人はここまでよくなるだろうと予測はできます。それができないのはご本人の努力が足りない場合が多いですね。ただ、先ほど述べたように、痛点ストレッチも基本的には痛みの軽減には効果的ですが、病態そのものを治しているわけではない。
しかし、悪循環のコントロールという考え方もあるのです。痛みという点では「ごまかし」の要素も少なくない。関節の軟骨がなくなってしまっても、痛みもなく、平気で動いている人もそう珍しくはありません。ですから軟骨がダメになって老化したらもうダメということは言えないし、痛みの感じ方もそれぞれだということです。」
「膝の前方の痛み:お皿(膝蓋骨)の周囲と膝蓋腱
まずお皿を動かします。膝を伸ばした状態で、お皿を外から内へ、上から下、下から上(真下から、右下から、左下からの3方向で)、内から外へ、両方の親指を「ハ」の字にして親指の腹で強めに押します(写真1)。感覚的に痛いと思っているところと、実際に自分で押して痛いところとが違うということはよくあります。
押してみてどこが痛いか正確に探ることが最初です。5秒程度押します。痛みがあるとき、それは効果的なストレッチになっています。自分で行えば、我慢できる範囲の痛みで行うということでしょうが、痛いからよいということではなく、痛くても力を抜いてストレッチを繰り返すことが大切です。
次に膝蓋腱。先ほど「下から上」に押した3点(お皿の下中央、その右と左)を、それぞれ1秒ほど押したら、1cmほど下にずらして同様に押します。膝蓋腱の下は膝蓋下脂肪体といって、ここが硬くなりやすい。
痛いところは、入念に押します。そこの痛みが和らぐまで押しますが、お皿を動かすように、強めに押すのがポイントです。1~3分も押すと、痛みが楽になるはずです。それ以上長く押す必要はありません。痛いから押す。どのくらいの強さかは、押す本人が耐えられるギリギリの範囲。押しているうちに痛みはその場でとれてきます。
膝の後方の痛み:腓腹筋の疲労
膝の痛みは膝の後方、つまり裏側にも生じます。この部分の痛みの多くは、腓腹筋外側頭の疲労によって起こります。
腓腹筋は、足関節の動きに関与する重要な筋ですが、膝を屈曲させるはたらきもあります。下腿の後ろ側にあり、踵骨からアキレス腱を介して膝の裏側についています。その腓腹筋の外側が腓腹筋外側頭です。ここが疲労する原因は、多くは膝伸展機構の力の低下です。それを補うために膝の後ろにある腓腹筋外側頭に負担がかかると考えられます。
もちろん、膝の裏側の内側が痛むこともあります。一般的には、床に座って、痛いほうの下肢を前に伸ばし、さらに力一杯伸ばしたとき、外側・内側のいずれが痛いかで確認できます。
痛点ストレッチは、外側の場合は膝を伸展させて、内側の場合は屈曲させて、同じように親指で押していきます。原則(参考表4参照)は同様です。膝の裏側が痛いというのは、膝の前方(膝伸展機構)に障害があることが多く、お皿のストレッチ、また後述する基本のストレッチも併せて行ってください。」