2008年 11月 の投稿一覧

勝負脳の鍛え方|ニュースレターNO.203

早いものですね。もう11月も10日を過ぎました。さて、以前からお知らせしている11/29と12/20の「リ-コンディショニング講座」ですが、いずれもあと1-2名なら参加していただける状況です。

今回の講座では、リンパドレナージュはもちろんですが、モビリゼーションの新しいテクニックとメディカルストレッチングについて、現場で使える特殊テクニックをお教えする予定です。非常に効果的なテクニックですので、トレーナーの必殺テクニックとして習得されればよいと思います。

それから先月、ナップから「新スポーツ外傷・障害とリハビリテーション」という本が出ました。この本は、1996年に山海堂から出版され14、15刷が再版されていたのですが、昨年の12月に山海堂が倒産してしまいました。学校のテキストで使っていただいていた方が多くおられたようで、5月にもう出版されないのかという声をいただきました。

それで、ナップさんのほうから、改訂版という形で出版することになり、先月末に何とか出版することができました。読んでいただいた方からは、見やすくわかりやすいものになったとお褒めのことばをいただきました。興味のある方は、ぜひお買い求めください。

さて、今回は脳の話を話題に上げたいと思います。北島選手が北京オリンピックで優勝した際に、話題になったのが「勝負脳」ということばでした。そのことばをキーワードに捜してみると、林成之氏の「<勝負脳>の鍛え方(講談社現代新書2006)」という本が見つかりました。

脳神経外科医が書かれた本ですが、非常に読みやすくわかりやすく書かれています。このドクターは脳低温療法を開発した方です。このように書いていたら、先日の日曜日、テレビ朝日の「近未来ジキルハイド」という番組でも紹介されました。その番組には林成之氏も出演されていましたので、見られた方も多いと思います。

著書を読んでいくうちに、ますます「脳」というものに興味を持ちました。この著書以外にも「脳」に関するものを何冊か読んだところ、“筋肉が先か”“脳が先か”、非常に面白くなってきました。脳にたくさんの知識と経験による情報をインプットし、それらの情報のネットワークを蜜に広げていくことで、いろんなことができるようになるといいます。

また、私が常に学生たちに話している「思い続ければ必ず思いは遂げられる」ということも書かれていました。そして、目的を設定し、その目的を達成するために目標を設定するということも正にピリオダイゼーションに通じるものがあります。ここに紹介するのは、アスリートを指導する指導者にとって役立つほんの一部です。

本を読まれれば、指導者のみならずアスリート自身にも思い当たるところがたくさん出てきますし、自分がこれから何をどうして行かなければいけないかということもわかると思います。

『日本では昔から、勝負に勝つためには「心・技・体」が大切であるといわれてきました。私たち外科医の間でも、極限状態で運び込まれてきた救急患者を助ける場合、この言葉がよく使われました。

「技を鍛え、それを可能にする体を鍛え、集中力を高めて勝負に挑む」

これが心・技・体であり、おそらく多くのみなさんは、勝負においてはこれを会得することが大切なのだと考えているのではないでしょうか。

しかし、スポーツの世界では、この程度の考え方では国内レベルの大会には通用しても世界的なレベルの勝負には通用しない段階にきています。勝負に勝つためには、もちろん心・技・体の鍛錬は大切です。しかしその中身は、もっとはるかに科学的なものでなければならないのです。

たとえば、技を鍛えるためには猛練習が欠かせないとよくいわれます。しかし、優れた技を身につけるためには「忍」とか「辛抱」といった言葉を思い浮かべながらひたすら苦しい猛練習に耐えるだけでよしとするわけにはいきません。

たしかに前に述べたように運動知能は表現知能のひとつですから、これを高めるためには訓練の反復が必要です。しかし、その際はモジュレータ神経群の機能を高めて、記憶と心を連動させること、具体的には、常に気持ちを込めた練習を日常化し、意欲と集中力を高め、感動や楽しむ心を大切にすることが必要なのです。

コーチに怒鳴られながらやみくもに猛練習するだけではなぜ効果的な方法とはいえないかを説明しましょう。

若い選手を育てる方法として、「おまえはできない、だめだ」と叱りながら意欲を高め、その成果を引き出そうとする指導がよくおこなわれています。新しいことや正しいことを強制的な力をもって植えつけるという意味で、この指導法にもプラスの効果があることは私も否定しません。しかし反面、見逃してはならないマイナスの作用もあるのです。

人間には自分を守りたいという自己保存の本能があります。しょっちゅう叱られていると、脳は苦しくなって、脳自身を守るために叱っている人の話を受け流すようになります。その状態が慢性化すると、だんだん人の話を真剣に聞かない脳ができあがっていきます。その結果、間違った考え方を持っても気づかない、少し違っていても気に留めない、訓練が長続きしない、習得がなかなか難しいといった困難から逃げてしまう脳、いわば逃避脳をつくりだす結果になってしまうのです。

本来、スポーツとは、ライバルと競い合うなかで「自分を高める機会を与えてくれたライバルを尊敬できる人間性を育む」「何事にも手を抜かない努力によって、能力を高めていく習慣を獲得する」、困難を乗り越えるとすばらしい勝利の幸福感を味わうことができるという体験によって「達成率を高める才能を育てる」などの教育を可能にします。

学校のクラブ活動ではそうした教育的効果が目的であり、試合に勝つことはそのための目標にすぎないはずなのに、勝つことを目的においてしまうと、成果主義の考え方が生まれ、やみくもに「できない」と叱ることになります。

みなさんも経験があると思います。先述のように日々叱られながら訓練を続けていると、人間は人の話を聞かないようになり、その結果、話を集中して聞く能力が衰え、頭も悪くなって覚える力や思い出す力が弱くなり、自分で創意工夫して解決していく力も養われなくなるのです。

さらに問題なのは、脳を守る自己保存の反応は、とくに子供において出やすいということです。叱ってばかりいる両親のもとで育った子供は、人の話をよく聞かないことで自分の脳を守っています。親は、よい子に育てようとして叱っているつもりが、じつは子供をだめにするように育てているという落とし穴にはまっているのです。

したがって指導者は、苦しい作業ではあっても、失敗した理由を一つ一つ丁寧に教え、その具体的な解決策を明らかにして訓練させることが大切なのです。』
『勝負脳を鍛えようというみなさんにまずお勧めしたいのが、サイコサイバネティックス理論について理解し、応用することです。何かおどろおどろしい響きにも聞こえるかもしれませんが、目的実現理論とも自動達成装置ともいわれ、人間が目的を達成するにはどうすればよいかを明快に説いた理論です。

1960年代にマックスウェル・マルツというアメリカの形成外科医が提唱したもので、マ〃ツはその後、心理学者として名声を博しました。彼がこの理論を思いついたきっかけは、自分のクリニックで顔を整形した女性のなかには、どれだけ美しくなっても満足しない人もいれば、たいして変わっていないのに別人のようにその後の人生を積極的に過ごす人もいることに気づいたからだといいます。

彼はそこから、人間が成功するか否かは現象の受け取り方次第であり、成功するイメージさえ持っていれば必ずそこにたどり着くことができる、という理論を考えだしたのです。

具体的なアドバイスとしては、できるだけ陽気にふるまう、他人に好意的にふるまう、そうありたいと思っている自分になったつもりで行動する、悲観的なことは考えない……といった習慣づけをすることが推奨されています。

本書では、みなさんに勝負脳を鍛えていただくために、この理論を私なりにアレンジして述べようと思います。モジュレータ機能とイメージ記憶という脳の特性を踏まえたうえでの応用展開です。オリジナルの理論とは少し内容が変わっている点をご了承ください。

人間の脳は非常に柔らかく機能するようにできており、あらゆる局面や状況変化に対して変幻自在に方向を変えるボールのような性格を持っています。そんな人間の脳がつくりだしているこの社会は、常に進歩する方向にあるので、現状を維持しているままでは、努力を怠っているわけではなくても結果的にとり残されていきます。

つまり、私たちは常に下り坂の方向を向いて立っていることになります。これはスポーツに限らず、あらゆる仕事においても共通で、「現状維持は衰退の始まり」といわれるゆえんです(図8)。

この下り坂にいる私たちが方向を変えて坂道を駆け上がり、目的を達成するためには、何を考え、何をしたらよいのか、脳の習性をもとにその答えを導き出そうというのが、サイコサイバネティックス理論なのです。

人間が行動を起こして目的を達成するためには、次の三つの作業が必要となります。

①目的と目標を明確にする。
②目標達成の具体的な方法を明らかにして実行する。
③目的を達成するまで、その実行を中止しない。

こんな簡単なことならいわれなくてもわかっている、と思われるかもしれません。しかし私たちは日常、こんな簡単なことさえできない生き方をしているのです。

①目的と目標を明確にする

私たちはよく「頑張ります」といいますが、これでは何も変わりません。これから運動の何をマスターするために頑張るのか、仕事の何を達成しようと頑張るのかをはっきりさせなくてはならないのです。

とくに重要なのは、目的と目標をしっかり区別して考えることです。そうすることで、自分が最終的に望んでいる目的とは何なのか、そこに到達するために必要な目標とは何なのかが、より明確になってくるはずです。この目的と目標の区別が明確でないと、それらを達成するための具体策が的確なものにならない、ということが起きます。

たとえば、野球の一流選手になることが目的だとすると、一流になるためには何を鍛える必要があるかが目標になります。ピッチャーがバッターを三振に仕留めることが目的だとすると、バッターが少し前屈みで構えているのでアウトコースの低めにはバットがスムーズに出るだろうから、内角高めギリギリのストライクを狙うことが目標になります。

目的と目標を区別しないで三振をとろうとすると、自分の得意な豪速球で仕留めようとして力一杯ボールを投げることになります。結果は、圧倒的に前者のほうが成功率が高いのです。すぐれた勝負脳の持ち主は、決して目的=勝負の結果に執着しません。勝つためにどのようなゲームプランを立て、何を目標に戦いを進めていくかというプロセスに常に気持ちを集中させることが、結果として目的達成につながることをたくさんの勝利の経験からイメージ記憶しているのです。

②目標達成の具体的な方法を明らかにして実行する

次に、自分はここまで達成しているけれど、ここが不十分なために運動が上達しない、あるいは試合で力が発揮できないのだと認めることが大切です。これによって問題を解決する具体的な方法を私情抜きに厳しく追求できるのです。

自分の弱点を認めないまま、チームでは自分が一番うまい選手だと考えて練習しているようでは、上達も遅く並の選手にしかなれません。「前回負けたので今度はもっと練習して頑張るぞ!」というだけでも、負けた理由や自分が鍛えるべき内容が正しいか否かが不明なので、また負ける可能性があるのです。

負けた理由を分析し、何が自分に欠けていたかをあらゆる角度から検証し、批判を受け入れて、それを解決する具体策を立てることが目的達成の条件になります。次の試合までに時間がある場合は対戦相手も成長してくるので、より厳しい目標を掲げる必要もあるでしょう。できるだけ高いレベルのコーチや一流選手の視点から評価を受けると、上達も早くなるうえに、到達できるレベルも高くなってきます。

③目的を達成するまで、その実行を中止しない

②で述べたような目標や具体的な解決策が明らかになっても、多くの場合、それがすぐに達成できることは非常に少ないものです。なぜなら、選手がそれを達成できないのは本人の技術不足のほかに、達成するための環境が整えられていないためであることがしばしばだからです。具体的には、練習する場所がないとか指導者がいないといった、自分の努力だけでは解決できないたくさんの要因が考えられます。

人間は目的や目標が達成できないと、あれは難しいとか、これは無理だとか、いろいろな理由をつけて方向転換しようとします。これも、自分の脳を守る自己保存の本能に従った考え方なのです。練習場がないといった自分では解決できない事情があれば、なおさら強力な理由になるでしょう。

しかし、そうした理由から自分では賢い選択だと思って方向転換したとしても、最初にめざした目的からはずれたという事実は変わりません。目的は達成されず、そこには計画したことができなかったという現実だけが残ることになります。そして、一度これを体験して癖になってしまうと、何をやってもいつも目的が達成できない脳になってしまうという仕組みが人間の脳にはあるのです。

私たちは、古くから体験的にこのことを知っているので「初心忘るべからず」という言葉を大切にしているのだと私は思っています。

迷ったときは初心に帰れです。最初の目的を常に忘れず努力していると、遅かれ早かれ力は必ずついてきます。誰でも初めは実力がないので自分にはできそうもない気がするものですが、ここに紹介した①目的と目標を明確にする、②目標達成の具体的な方法を明らかにして実行する、③目的を達成するまで、その実行を中止しないという三つを守ることができれば、人間は必ず目的を達成する習性を持っているのです。

そのことさえ理解していれば、非常に困難と思われたことでも、時間はかかるかもしれませんが必ず達成できます。私がほかのスタッフとともに、社会復帰どころか救命さえとても無理だと思われたたくさんの患者さんを、後遺症も残さずに社会復帰させることができたのも、このことを知っていたからです。

だから、やみくもな「頑張れ」とか「頑張ります」はだめなのです。大きな目的と正確な目標をはっきりと掲げ、目先の損得にとらわれず、初心を大切に達成の努力を持続することが成功につながることを脳は示しています。

心技体と思考|ニュースレターNO.204

このニュースレターも通産204回目となりました。200年6月が最初だったので丸8年が経過したということです。一つ一つの積み重ねで今回を迎えられることになったのですね。11月と12月のリ-コンディショニング講座も無事開催できることになりました 
尐しでも現場で使えるテクニックを習得していただく機会がもてることに感謝したいと思います。それで、この時期に動けない方もおられるということで、来年度の開催を希望される方も多いとお聞きしました。そこで、1月、2月、3月と開催することにいたしました。今回受講できなかった方は、このときを御利用ください。身体調整法を習得されるだけでなく、いろんなことに気づかれることと思います。

さて、今回は前回のニュースレターで紹介した林成之氏のもう一冊の著書「思考の解体新書(産経新聞出版2008)」を紹介したいと思います。

この著書は最も新しいもので、内容も細かなものになっています。脳の話しは難しいものなのですが、この本を読みすすめていくと、いまさらながら指導のあり方というものが見えてきます。脳にいろんな情報を提供すること、その情報は目から、耳から、体験から得ることになります。

それらからの情報を脳に残るようにする必要があります。残らなければ使えないことになり、応用が利かないことになります。情報を記憶として残すためにはどうしたらよいかということです。残すことが指導であるということです。いろんな情報が脳の中で結びついて巨大なネットワークが構築できれば、素晴らしいパフォーマンスを発揮することができるということです。

指導者として何が問題になるのかというと、選手に考えさせることが必要だということです。指導者の言いなりに、指示通りに従ってやっているだけでは上手くならないということです。すなわち、理解ができていないということです。理解できればできるということではなく、なぜできないのか、なぜ上手くできるのか、それを理解するということです。

試合の結果についても、なぜだめだったのか、なぜよかったのか、それを理解していくということです。日々の練習についても同様です。それらの理解が情報となり、新しいネットワークを形成し、ある日突然できるようになるということのようです。脳について難しい本は読めませんが、この本は読んでいていろんなことに気づくことができる本であると思います。興味のある方は、ぜひ一度読んでみてください。

『我々の脳は、どのような条件になったら脳の中で心技体が一体になって機能する考えが生まれてくるのでしょうか? 目にするものや耳にした情報はA10神経群に運ばれ、これは面白いとか、嬉しいとか、危険だといった情報のレッテルが貼られ、頭の前にある前頭葉の前頭前野に届けられます。

その情報が報酬神経群を介して線条体-視床-A10神経群-辺縁系連帯機能によって構成されるダイナミック・センターコアへ再度フィードバックして、考えやその記憶が可能になることは先に述べたとおりです。その考えの情報は視床を介して運動を行うために機能する大脳皮質、小脳の神経細胞、知覚空間知能中枢に伝えられ、考えに従った運動が行える様になっています。

心技体の達人の運動能力を発揮するためには、この神経群を如何に最高レベルで機能させるかが求められます。そのためには、自分からやる気を起こし、自分から興味を持って、自分に対する報酬を期待しながら考えをめぐらす重要性についても説明してきました。

ここでは、さらに、何が凄い能力を発揮するかについてトリガーに関する話題に焦点を当ててお話しすることにします。

実は、前頭前野の情報をダイナミック・センターコアに持ち込む報酬系神経群は、ダイナミック・センターコア内で線条体の腹側淡蒼球・淡蒼球内節、さらに黒質網様部、視床を介して運動系や知覚系や自律神経系などあらゆる脳の重要部位と連絡をつくっているのです。しかも、これらの神経群は、幾つかの神経ホルモンの影響を受けて機能するので、人間の性格、行動パターン、環境や状況などによって、この報酬神経群の機能が変わる側面を持っているのです。

この神経に関する研究は、学習機能として注目され、これまで数多くの動物実験による研究が行われてきました。動物の学習は報酬によって成り立つことから動物も人間も共通して、報酬を獲得する際に機能する報酬系神経群と言われるようになりました。

つまり、我々の考えは報酬をトリガーにして生まれていると言い換えることができます。なんだか猿が餌の報酬をもらって芸をする話とよく似ていると思われた方もいるのではないでしょうか。確かに、報酬系神経群と言われるのは、この神経の破壊実験でも、外傷による脳損傷でも動物と人間が共通して、報酬に対応する行動や考えがうまく学習できなくなることが明らかにされているからです。

・・・略・・・

人間においても、一つの作業を成し遂げると賞金をもらえるようにすると、競ってその作業を達成しようとします。他から与えられる報酬を目指してラットや猿が餌を手にするのと同様に頑張ります。しかし、人間の報酬系神経群はプールで泳いだラットと同じように、生きたい・知りたい・子孫を守りたいという本能や心とも関連して、自分に対する報酬を期待することによって考えを引き出す機能を果たしている側面も見えて来ました。

従って、自分に対する報酬の考え、つまり、お金や地位が得られるだけではなく、自分が嬉しい、楽しい、幸せな思いが出来るという報酬のみならず、人間性を高めたい、考える能力を高めたい、あるいは、スポーツが上達したい、同種既存の本能でもある仲間や家族のためにという考えも、自分に対する報酬に含むことができ、その気持ちを高めて行くと、ダイナミック・センターコアにおける思考のうねりが増々大きくなり、ものすごい脳力を生み出すトリガーになるのです。

当然、その考えが強いほどその目的を達成する確立が高くなるのです。

「頭が良くなればいいなー」と考えるのではなく、期限を決めて、必ず「考える能力を高める」というように強く自分に対する報酬が得られる条件を決めて前向きに対応すれば、人間の考える仕組みをより活性化するのです。

ここで、前向きにという考えを強調したのは、実は、他にも理由があるのです。それは、この報酬神経群は主にドーパミンやバゾプレシンという神経内分泌ホルモンによって神経機能を果たしていることが確認されています。ドーパミン神経伝達物質は人間の性格にも影響し、前向き思考の明るい性格を築くので、自分の性格から前向きになるよう心がけると報酬系神経群をより機能的に使えます。

事実、ドーパミンが脳内で欠乏すると自分に対する報酬意識が低下し、やる気や意欲も低下し顔の表情も消えて来ます。それと同時にダイナミック・センターコアの機能も低下するため考える力も弱くなり、考えと運動機能のマッチングも悪くなり、運動能力のセンスも悪くなります。

「気合だ」「やるぞ!」と言うのもまさしく、心技体の運動を導き出すトリガーになるのです。しかし、気合だ! 頑張るぞ! だけでは実力以上の力や誰にも負けない心技体の運動能力を発揮することは出来ません。気合と集中力だけでは最大の運動能力は発揮出来ないのです。』

『以前に、目的を達成する成功の理論、サイコ・サイバネテック理論を紹介したことがあります。目的とそれを達成するための目標を区別し、目標を達成するために必要な具体的な方法をすべて明確にし、それを、達成するまでどんなことがあっても最後まで忘れないで実行するという、わずか三つのことを確実に行うと人間は必ず目的を達成することが出来るというシンプルで核心を突いた理論です。

ここで重要な点は、この中に、失敗の可能性を出来るだけ持ち込まないことが目的達成のポイントとなります。

具体的には、「金メダルを取るために頑張る」という意見をよく耳にしますが、金メダルを取れない場合があるという失敗の可能性があるので、「金メダルを取る」は目的にし、そこから考えを切り離して、目的を達成するために、何を訓練し、相手の得意技を超えるためにはどんな技や技術を身につけ、人に感動を与えるようなプレーをどのようにするかなどといった成功のイメージをつくり、目標に向かって集中力を高めることが大切です。

ノーミスで演技するという考え方も、失敗の因子が大きいので、成功の集中力をつくることは難しくなります。

ここで、人間の思考と運動能力がどのように関係しているかの関係を見ながら、最高の力を発揮する集中力とはどのような形でつくられてくるか順をおって解説することにしましょう。

(1) 集中力はダイナミック・センターコアの中でもA10神経群の視床下部を中心に、体の機能を最大限に発揮する運動機能とも関連しながら発生する様になっています。このシステムを動かすのは、前頭前野から線条体に向かう自分に対する報酬神経群なので、自分を高めたい、土壇場で最高の力を発揮したい、演技に誰よりも集中している自分を見て感動してもらいたいなどと、自分に対する報酬を考えることによって集中力を高めることが出来ます。

自分に対する報酬神経群の機能から集中力が生まれるので、人から集中力を高めろと言われてやっているようでは、集中力は低いレベルにとどまります。自分から達成の集中力を必ず身につけると考えることが非常に大切なのです。

(2) 達成の集中力を身につけたいと自分で強く考えると、線条体と手足を動かす際の細かな運動を調整する錐体外路系が機能し、意識しなくても微妙な運動機能が連動する、いわゆる心と運動が一体になった心技体の運動ルートがつくられて来ます。

このとき、重要な点は、うまくゆきそうもない、勝てそうもない、といった否定的な考えが尐しでも出ると心技体の運動ルートは出来なくなります。勝つか負けるかではなくて、どのような勝ち方をするかとか、どのように成功させるかといった常に成功のイメージで集中力を高めることが大切なポイントとなります。

負けて元々と考えて思い切りやったらうまくいったというのは、かろうじて心技体の運動ルートを脳の中につくれたからなのです。勝負脳の考え方から言えば『負けて元々』は、決して良い考え方とは言えません。

(3) 面白いことに、この心技体の運動神経ルートをつくるのにいくつか促進系の神経機能があります。一つは、線条体を構成する尾状核は意味不明語を処理しているので、呪文とはいかなくても、体操の具志堅選手が精神統一として行っていた意味不明語、あるいは、野球の桑田選手がボールを投げる前に口の中でつぶやいていた言葉などが、意のままに手足を動かす心技体の運動神経ルートをつくるのに効果的と言えるでしょう。

もう一つは、試合に負けて悔し涙を出す選手は、おおかた「ここぞ」というときに力を発揮して勝負に強い選手になることはよく知られています。その理由は、人間の危機的意識を強く感じる扁桃核が働くためで、我々は、せっぱ詰るとやっと力を発揮する。あるいは、弱い動物でも追い込まれると死にものぐるいで実力以上の力を発揮して向かってくることも可能になるのです。

負けて人以上に悔しい思いをすることは、決して恥ずかしいことではなくて、誰もが持ちたいと願っている「達成する集中力」を発揮するために非常に大切なことなのです。

(4) 我々は、気合いが入ってくると、脈が早くなり、顔も赤くなってきます。これは、人間の集中力を生み出す場所がA10神経群の中でも、自律神経機能と密接に関係している視床下部の機能が高まるからです。運動能力を最大限に発揮するためには、心臓や呼吸器の機能を高め、全身の循環血液量を増やすために脈を早め、同時に、手足の筋肉も強く働かす必要があります。

その働きを行っているのが交感神経によって放出されるカテコールアミンという神経ホルモンです。しかし、この神経ホルモンが必要以上に出ると手足の筋肉が収縮して体が固くなってしまい、運動もうまく出来なくなります。これが、緊張状態のとき体の中で起きている現象です。

負けたらどうしよう、負けたくない、勝ちたいといった考えは、全て自分を守りたいという自己保存の仕組みが脳で働くために発生します。これまで紹介してきた様に、脳卒中の病気でも、あるいは、人間の考えでも、自己保存の過剰反応が起きると、自分かあるいは他人が傷つくという生命の掟が発生します。

この場合、生体防御系の視床下部・下垂体・副腎系が過剰に働くことになるのでカテコールアミンが過剰に放出され、脈が速くなり、筋肉も収縮して硬くなって思う様に運動が出来なくなります。この状態をコントロールする方法は二つあります。その一つは、自信、もう一つは、副交感神経を活性させることです。自信の話はこの章の最後に詳しく紹介することにして、ここでは、成功する集中力の話題に絞ることにします。

緊張状態でカテコールアミンが過剰放出されない様にバランスをとっているのが、副交感神経です。本来は、交感神経・副交感神経は意のままにコントロール出来ない神経ですが、一つだけ自分の意志によって変える方法があるのです。それは、呼吸法です。息を吸う時は交感袖経、息を吐く時は副交感神経によって支配されています。

緊張したら深呼吸をすると体験的に知っていますが、正しく的を射た方法ではありません。正確には、息を大きく吸って手足を延ばしながら出来るだけ長く息を吐くと副交感神経の機能を強く働かせることが出来るようになります。普段から、このような呼吸とストレッチ運動を組み合わせた訓練を行っていると緊薦状態の中でも集中すると運動能力を充分発揮出来るようになります。

その一つの方法として空手の型をする時の呼吸法を身につけておくと、達成の集中力を高めることが出来ます。

(5) どんなスポーツであれ集中力は非常に大切です。・・・略・・・勝敗を分ける一瞬の集中力を発揮する場合、そこには、空間認知知能を発揮して無駄のない運動能力を発揮するための目線や体の姿勢など、幾つかの共通したものがあります。皆さんも、これらの競技において成果を上げる選手はどんな目線と姿勢で勝負しているか思い起こしてください。

その答えは、水平な目線と体の正中に支点をおいた運動バランス姿勢です。・・・略・・・このように、目線を水平に保つことは意外と難しく、フィギアースケートの三回転半ジャンプを行う一流選手でさえも目線が水平でない姿勢から飛び上がると失敗しています。

何故、目線がわずかに傾くと最大の力を発揮出来ないかは、腰の傾き、その腰につながる足が十分機能させられないことと、脳細胞の左右統一・一貫性を基盤に働く空間認知知能を十分機能させることが出来ないからです。このために体のバランスのみならず目的とする自分の体や相手との間合いを正確に判断するのに一呼吸遅れるからです。

従って、普段歩く時から目線と腰を水平するように心がけ、左足がどうしてもうまく平行にバランスよく利かせない場合はトラックを走る陸上トレーニングは逆方向周りの走行訓練を薦めます。・・・略・・・

(6) 集中力を高めイメージ記憶を駆使して目的を達成するスポーツが沢山あります。成功のイメージ記憶をつくるためには、空間認知知能を正確に機能させる必要があります。そのためには、目的物を左右の目線の中央、あるいは、体の中央においてイメージをつくる必要があります。

大リーガーのピッチャーでコントロールが優れていると言われている選手は、ほとんど、ホームベースの方に向かって正対し、イメージをつくってから投球に入っています。利き目の目線に合わせて片方の目線で対象物を見ている、例えばゴルフのパッティングを行う選手がいますが、この場合は、脳の空間認知知能を発揮する神経細胞の統一・一貫性から微妙に外れるので実物と違った認識のイメージで見ている可能性があるのです。

そればかりか、その観察に従って動かす手や腕の動きも微妙に外れた動きになるので急にパットがはいらなくなったりします。・・・略・・・ところが、これを体の正中線から外れたところで行えば行うほど空間認知知能の神経細胞がこだわる統一・一貫性の機能からはずれるので五円玉はイメージどおりに動かなくなります。黒板の字を前の横から斜めに見ると、その字をほとんど記憶することが出来ないのも同じ理由からです。

(7) 正確なイメージ記憶を持って達成の集中力を身につけるためには、体の正中、目線の中央で対象物を観察し正確にメイージするメリットは、実は、これだけではないのです。それは、運動には手足を最も強い力で、最も疲れないで、正確に動かす運動のライフラインが存在します。

その運動を可能にするためにライフラインを力学的に固定する支点が生まれます。その支点は競技の内容によって異なりますが、この支点をイメージ出来るか否かは実力以上の力やスーパープレーを導きだす重要な達成の集中力の源となります。・・・略・・・』