2006年 4月 の投稿一覧

四肢同調二柱走法|ニュースレターNO.142

平成スポーツトレーナー専門学校も授業を開始して3週間目に入りました。新入生には平成スポーツトレーナー専門学校のコンセプトと私の夢について話をしました。また、月曜日にはわが国の「スポーツトレーナー」の歴史について話をしました。

2回の話の中で、今年の新入生の心構えがこれまでの学生とぜんぜん違うことが感じられました。ここに夢を持ち、その夢の実現のために何をしていかなければいけないのか、いろいろ感じ取ってくれているようです。本当に、たくましい、楽しみな新入生たちです。

きっと本物のスポーツトレーナーが数多く旅立ってくれることでしょう。実践的な授業は、20名以下に分けてやっているので全員に眼が行き届く状況です。教員も、1年間を通して研修を続けてきたので、それを生かすよう努力してくれています。今後の平成スポーツトレーナー専門学校をどうか注目ください。

さて、今回のニュースレターでは、気になり続けているところを紹介し、皆さんの感想を御聴きしたいと思っています。それは、「ナンバ走法」、「ニ軸走法」を取り入れていると語っていた陸上短距離のコーチである高野進氏が今度は「四肢同調二柱走法」という新しいことばを用いだしたことです。

彼のこれまでの経過を見ていると、自分自身のスプリントに対するコンセプトというものが無く、世間で流行の言葉にかぶせてきている気がします。今回のことも、「ナンバ」「ニ軸」ということばが色あせてきたためと思われて仕方のないことだと思います。

ただ、ことばはともかく、そのコンセプトによって早く走れるようになれば何の問題もないと思うのですが、「四肢同調二柱走法」について書かれているところを読むだけでは、とても早く走れるようになるという氣はしません。そのドリルを見るとなおさらその間が強くなります。

スプリントに関して、速く走るということに関してどのように考えかたをもっているのか、その真意を知りたいものです。今年の3月号に陸上競技マガジンと月刊陸上競技に「四肢同調二柱走法」が紹介されました。それを紹介し、皆さんの感想を御聴きしたいと思います。

まず、陸上競技マガジン2006.03.に紹介されたのは、平成18年1月28・29日に日本エアロビクスセンター(千葉)で行われた「第2回JAAFコーチングクリニック」で高野進氏が指導した「短距離種目のコーチング」の実技で行われた習得ドリルです。

『四肢同調二柱走法は、「なんば走法」や「二軸走法」とも呼ばれているものである。高野氏は「なんば感覚」をイメージした走法を追求している。それは、身体を1つの柱としてとらえるのではなく、「竹馬」のように左右に2本の柱をつくるイメージで腕と脚とを同調させ、素早い左右の柱の切り替えと動作の先どりを目的とした走法である。また、振り下ろした脚の接地点に重心を乗せていくこと(乗り込み動作)も、ポイントとして挙げている。

この動作を習得するためのドリルを順を追って説明すると、以下の通りとなる。

 

1.柱をつくる

踵(かかと)を合わせて、つま先を180度に開きバレリーナのように立つ(白樺のポーズ)。次に手を後ろに回し、両方の手の甲を合わせて肘を後ろに引く(肩甲骨を合わせるような意識)。そしてそのままの姿勢で両手を静かに下ろし、180度開いたつま先をまっすぐに戻す。全身に無駄な力が入っていないことを確認し、立位姿勢を決める。

 

2.柱の移動

柱を前に傾けると自然に脚が前に出て重心の移動が始まるが、このままのタイミングだとすべての動作が遅れがちになってしまう。したがって、重心の前方への落とし込みを予測して動作の先どりを行う。つまり、柱の倒れ込みを意識して、前もって予備動作を入れておく(脚を先に前に運びつつ、柱の倒れ込みを待つ)。

予備動作としての脚の意識は膝におき、膝頭を二等辺三角形の頂点として前に引き出していくイメージで行うと、脚が後ろに流れにくくなる。足の接地はつま先からではなく、踵から乗り込む意識で行う。

 

3.二柱イメージとその移動

脊柱(せきちゅう)、肩甲骨、骨盤のポジションが決まったところで、二柱のイメージをつくる。まず、竹馬に乗っているイメージをつくる。次にそのまま90度身体をひねる(右利きの場合は左足と左肩を前に出し、右足と右肩を後ろに引く。ちょうどボクシングの構えのようになる)。その体勢から左脚と左腕を前に出し、すり足で左側の柱から重心を前に移動させる。その際、同時に右腕を後ろに引くようにする。続いて右腕と右脚を引き寄せ、2本の柱を移動させる。

 

4.同調移動「ハードルまたぎ越しドリル1」

四肢を使ったランニングづくりの第1段階として、ハードルまたぎ越しドリルを行う。まず、ハードルに対面して斜め45度に立つ。続いて、両腕を水平に上げてそのまま上半身をねじるようにしながら、手先を進行方向に向ける。そのままの体勢で右側の柱からハードルをまたぎ越して、続いて左の柱を通す。このとき、視線は必ず進行方向を向くように意識する。

 

5.四肢同調移動「ハードルまたぎ越しドリル2」

続いて腕のアクションを利用しながら、勢いをつけて柱を通すドリルを行う。ボクシングのパンチングの構えから、ジャブを突き出すようにしながら最初にまたぎ越した脚を接地させ、乗り込むように柱をハードルの前に落としていく。この際「押し腕と引き腕」と「落とし脚と持ち上げ脚」との同調を心がける。

 

6.四肢同調移動「ハードルまたぎ越しドリル3」

続いて、ツーステップを入れながら上述したタイミングでハードルをまたぎ越す。歩行でのまたぎ越しはなめらかな線で行うイメージであるが、ツーステップで行う際は力を1点に集中し、一気に乗り込む。四肢の同調と2本の柱が崩れないように注意を払いながら行うようにする。

 

7.四肢同調移動「ハードルジャンプオーバードリル」

走る動作は歩行とは違い、「踏み切り」と「着地」がある。そこで、四肢と2本の柱を意識してハードルを跳び越える。最初は2m程度の間隔でハードルを並べるが、ハードル間が狭いと加速をつけて跳び越えることができないため、しっかりと踏み切って、接地の際に腰が後ろに残らないように注意する。踏切脚が片方に限定されるので、セットごとに交互に入れ替えるようにする。

徐々にハードルの間隔を広げていき、着地から踏み切りまでの動作が間延びしないように、「挟み込み」を意識したつなぎにしていく。

 

8.ドリルから連続動作としてのランニングにつなげる

ジャンプオーバードリルからそのままランニングに移行し、四肢を同調させたランニングイメージをつくっていく。』

後一つは、月刊陸上競技2006.03.で紹介された「四肢同調のトレーニング」の記事です。

『私は今「ラスポート」のランニングクラブで、小学生、中学生、マスターズを指導していますが、この取り組みの中で良かったと思うのは、自分の発想がずいぶん豊かになってきたことです。動きづくりでも、これまでにないざん新なものが見つかったり、走法もかなり底辺が広くなってきました。子供のための練習もありますが、意外にそれがトップアスリートに応用できたりするのです。練習のバリエーションがすごく増えました。

今年のテーマである「四肢を同調させて走る」ということ。子供たちにまず腕振りから指導したんですけど、ただ「腕を振りなさい」ではないなと思いました。考えたのが、振り子のような腕の振り方です。

柱(体幹)に腕をつけて、柱の移動に腕の振りをつなげるためのタイミングの取り方。それをうまくやるにはどうしたらいいか。柱の強化と腕の強化で、手押し車を取り入れるようになりました。柱も左右2本を意識させてやります。

この「四肢同調トレーニング」は、うまく行き始めていると思います。右脚と右手、左脚と左手をチューブでつなぐ補助具(4輪駆動チューブ)も業者と改良を重ね、完成に近づきました。

これまで「腕を振れ」と言われていても、極端に言ったら、前から後ろに振るのがいいのか、後ろから前に振るのがいいのか、またなぜ振るのか、わからない人が大勢いたはずです。「走りのバランスを取るため」とか「地面を押すキックカを増すため」という答えがあったでしょう。さらに、2003年のパリ世界選手権で末績が銅メダルを取ったあたりから「なんば」が注目され、「なんばのように腕を使う」という言い方もされました。

さらにその後、私は「腕振りそのものの概念を変えてみようかな」と思って、まずは腕回しから入り、動物の走りの「前あし」に着目しました。動物は前あしを使って走っています。それをヒントに腕振りのイメージが浮かび、まだ完成はしていませんが、やっと発想が落ち着いてきました。

腕はくるくる「回す」のではなく、やっぱり「振る」イメージです。末績もそのイメージを推し進めているところです。

「走る」「食べる」「集う」の3本柱

末績らトップアスリートを頂点に、7歳から70歳までの年齢幅の人が同じグラウンドで練習ができる機会も珍しいと思いますが、その根幹となるのが「走る」「食べる」「集う」の3本柱です。

「走る」は文字通り、我々が追究していること。赤ちゃんが四つ足でハイハイを始め、やっと立ち上がって二足歩行を開始。さらに走るという行為に移ります。私は「走る」ということを「より速く、より美しく、より知的に」と考えています。

なぜ知的かというと、動物が走るのは「逃げる」「追いかける」という目的があります。人間はそういった目的以外に、自分の中できちんとその目的を持って走ります。走るという行為は単純ですが、知的な行為なんです。人類の英知を動員して、9秒台を目指したりしているわけです。動物は走ることに関してそうは考えません。

ですから、走ることはワイルドであり、知的である。そこに、私はアートとして美しさも求めたい。ゴールにたどり着くタイムだけが「走る」ではないのです。

「食べる」は生きていくための基本的な欲求であるし、身体は食べたものから作られます。食べる物が変われば、身体や脳に及ぼす影響も変わってきます。

食べることは生きていくうえで欠かせない行為で、こだわりもありますが、ないがしろにしている部分もあります。それは、いかに食べるか。走るという知的かつ原始的な運動と、食べるということ。栄養学的なところで結びついて考えられていますが、別々に捉えられていることが多い。

そこに「集う」ということが加わると、合宿で皆で食事をするような場面が頭に描かれ、私はすごく豊かな陸上競技活動ができるのではないか、と思えるのです。何を食べるかより、何を、どのように食べるかが大事なんです。』

スポーツオノマトペ|ニュースレターNO.141

4月に入り、平成スポーツトレーナー専門学校も入学式が終わり授業も始まりました。今年の入学生は希望に満ちた顔つきで集まってくれました。先日、所信表明演説のような話をしましたが、全員がしっかり前を向いて話を聞いていました。非常に頼もしく、本物のスポーツトレーナーに育てなければという思いを強く持ったしだいです。

教育内容も含め、教員一人ずつの指導レベルを上げなければとても本物のスポーツトレーナーを育てることはできません。そのためにも、教員側にもプレッシャーを与えております。お金を頂いて物事を教えるわけですから、そこには結果が問われることは当然です。本物のスポーツトレーナーを育てるためには本物の指導者が必要なのです。

いい加減なごまかしは必要ありません。物事の本質を教えられなければならないのです。私も含め、心して教育に当たりたいと考えております。

昨年の一年間、いろんな方々に平成スポーツトレーナー専門学校を尋ねていただきましたが、本年もより多くの方々にお越しいただきたいと思います。教職員大歓迎いたします。御気軽にお越しください。お待ちしております。

さて、今回のニュースレターでは、「スポーツオノマトペ」について取り上げました。私も知らなかったことばですが、スポーツの指導に際して自然に使っている擬音語・擬態語・擬声語の総称であるということです。動作のタイミングや動きを理解させるために欠かせない「ことばがけ」です。私も自分の独特のものを使っているようで、私の指導現場を見られた方からよく言われます。

「先生の説明は、非常にシンプルで分かりやすい」と。「ことばがけ」はシンプルで、後は繰り返すこと。そうすると次の「ことばがけ」が自然発生的に出てきます。私は常にその環境にしたがっているように思います。難しい「ことばがけ」は、動作やタイミングを取る上でマイナスに働いてしまうことが多いようです。「ことばがけ」でパフォーマンスがどのように変化するかということは、理解できるようでなかなか理解できないようです。

私の指導においても、「すぐにできるようになりますよ」といっても、実際にその指導現場を見られなければ突然の変化が起こるなんて信用できないはずです。その指導現場を見られれば、なぜ突然変化するのかそのわけがわかります。そこに適切な「ことばがけ」があるからです。それが私の指導技術であると思います。

今回の「スポーツオノマトペ」については、コーチング・クリニック2006年4月号で紹介された藤野良孝、井上康生「オノマトペを活用しよう」が参考になります。御自分の環境に照らし合わせて読んでみてください。

『巨人軍名誉終身監督の長嶋茂雄氏は、監督時代に「グッ」「スーッ」「ガーン」などと、オノマトペ(擬音語、擬態語、擬声語の総称)を豊富に用いて技術指導を行っていました。もしも、本当に長嶋監督のひと言(1音韻)で具体的な内容が伝えられるのだとしたら、指導用語として非常に有益であり、とても素晴らしいことです。

監督が言うオノマトペを選手はどの程度理解していたのだろうか? もし理解できたのならそれはなぜなのか?と思ったことが、オノマトペを研究するきっかけとなりました。

スポーツオノマトペとは、体育・スポーツ領域で使用されるオノマトペのことです。スポーツオノマトペの特徴は、一般的にいわれるオノマトペにはない、「身体に作用する」効果をもつところです。

例えば、アテネ・オリンピックの陸上競技ハンマー投金メダリストの室伏広治選手は、投てきリリースの際に「ンッ・ガーッ」と発声することによって、爆発的な筋力を発揮しています。格闘家の魔裟斗選手はパンチやキックを出すときに「シュッ!」と声を出しています。

また、卓球の福原愛選手は調子がのったときに「サーッ」と叫びますが、あの「サーッ」という雄叫びもモチベーションに作用しながら、結果的にスポーツパフォーマンスにも作用するので、これもスポーツオノマトペに該当します。

一般的な例では、お年寄りがイスに座るときに言う「ドッコイショ」も、スポーツオノマトペの一種です。

「ドッ・コイ・ショ」のリズム(ワン・ツー・スリー)が、座る動作をスムーズにしているのです。このように、身体があるから生成されるオノマトペが「スポーツオノマトペ」です。』

『一般にオノマトペは、赤ちゃん用語・稚拙表現であるという先入観をもたれています。スポーツの世界でもそのような傾向があり、オノマトペに対して指導者は「説明が下手な指導者」「ボキャブラリーの少ない指導者が使用する言語」「低指導能力者が使用する」などという多くの偏見をもっています。

また、調査した指導者の7割は、オノマトペを使用して指導してはいないといっています(オノマトペを指導の際によく使っており、わかりやすくてよいと述べているのは、調査した指導者の3割のみ)。

そうはいいながら、使用実態を調べた(オノマトペを使わないという指導者の指導を受けている運動選手に聞いた)ところ、指導者の多くは非常によくオノマトペを使用していることがわかりました。つまり、意識しないままに指導者はオノマトペを使用しているということです。

また、選手のほうも、オノマトペは効果的な言語として積極的に使用したり、解釈したりしていました。その証拠として、アンケート調査から収集されたオノマトペは4、602語にも上り、かつ1語1語、具体的な意味(各競技ごとの動作内容)が明確に記述されていました。』

『スポーオノマトペは「複雑なことをよりわかりやすく、わかりやすいことをより具体的に、具体化したことを楽しくする」という効果を本質的にもっています。例えば、野球で「サッと来たボールをドンと打つ」=素早いボールの芯をとらえて打つ、バレーボールの「ドカンと打つ」=強烈なアタックを放つ、というようにです。

指導者はこういう表現を適切な言語を用いて伝えることが仕事ですが、微妙な動作や筋の動きを表現することは難しく、適切な言語がなかなか思い浮かばなかったり、思い浮かんで使っても受け手に伝わらなかったりすることがあります。そのときに言葉で表現できないで終わらせるのではなく、豊富なオノマトペを用います。

そうすることによって、表現しにくい動作や微妙なニュアンスを、受け手に簡単にわかりやすく伝えることができます。

現在開発しているスポーツオノマトペ辞典は、そういった用語を多数(主要269語)集めたデジタル辞典であり、音と動作が対応して、音を聞いて詳細な内容を知ることができます。指導に最適なオノマトペ音声を探す、指導の際に作り出したオノマトペの内容を確認することによって、指導に役立てることができます。選手に辞典で内容を参照させることによって、深くその動作を記憶させることができると考えられます。』

『動きとともにオノマトペを発声するシーンをビデオで撮影して調べると、“スーッ”と言えば、スーッという音と同時に身体が移動しています。言葉と動きとには対応関係があり、音を聞くとそれに対応した動きができるのです。

こうした研究を重ねていくと、ある法則性に則ってスポーツオノマトペが発声されていることがわかりました。例えば“グ”という手を握るオノマトペを、“グッ”にする(促音をつける)と、素早く握る感覚を表現できます。また、“グーッ”にする(長音をつける)と、徐々に力を出す感覚を表現することができます。

特殊音韻別に整理すると、それぞれ次のような効果を動作に及ぼすことがわかっています。

①長音(-):動作時間や力の伝導を長めにする
②促音(ッ):動作全体の速度を促進する、動作の速度のメリハリをつける
③擬音(ン):動作のリズムやタイミングを計る
④濁音(”):動作の強さ、爆発力、求心力を強調する
⑤半濁音(゜):動作の素早い切り替え、俊敏さを強調する

また、“グッグッ”と音韻を繰り返すと、より力を表現することができます。選手の動作に合わせてリトミーク(音節数)やメトリーク(音節の長短)を選択して作り出し、声をかけると、選手は動作のコツをより具体的に理解することができます。』

『音の高さ(抑揚)も動作内容に関係しており、ダイナミックな動作(筋のストレスが高い)になるほど声が高い傾向にあり、スタティックな動き(筋のストレスが低い)になればなるほど声が低い傾向にあることが明らかになっています。

指導でスポーツオノマトペを使用するときには、ダイナミックな動作では昇調(↑)に、スタティックな動作では降調(↓)に、声のイントネーションを変えるように意識することをお勧めします。

平調(→)では、通常の言葉の説明と変わりません。また、力強い動作になると声の強さが大きくなります。音の抑揚や大きさを調整することによって、動作の強勢を相手に具体的に伝えることができるのです。

理想は、自身が歌手になる意識で用いることです。高い声は出せないと思っている人もいるかもしれませんが、人間には音痴はいないというのは音声学の常識であり、ボイストレーニングをすれば必ず高い声を出すことができます。イメージが喚起されれば、女性でもアルト(176Hz)くらいの声を出せます。

井上の場合には、普段も一般男性(100Hz程度)より少し高め(130Hz)の声ですが、一番ダイナミックな動作では、ソプラノ(264Hz)を超える声(300Hz以上)が出ています。』

『動作の技術やコツを、オノマトペに凝縮させて獲得してゆく天才型のアスリートも多いと聞きます。陸上競技200mの末績慎吾選手は、スタートダッシュでは「ダラ~」という感覚を意識して走っているそうです。室伏広治選手をはじめ、投てき選手は動作の一連の流れを「タンッ・タ・タン」というように音に変換して、自分の動作リズムを固めたり、理想の動作リズムを作り出したりしているようです。

スポーツオノマトペは説明的な言語と異なり、身体にリズムを覚えさせることができます(身体感覚を記憶させる)。アスリートは言葉にできないような微妙な動作を模索し続けるものですが、それを発見して身体知として記憶する際に、オノマトペを利用することも使用方法の1つでしょう。また、技術の変化とともにオノマトペも新陳代謝するものです。技術の高まりに合わせて自分に必要なオノマトペを作り、それに自分の動きの型をはめ込んでいけばよいと思います。』

『スポーツオノマトペには、個人的なオノマトペと集団的なオノマトペとがあります。これを混同しないで使うことが大切です。

①個人的なオノマトペ:選手の動作に深く関与するため、すべての人にその内容が該当するわけではありません。例えば、野球のスイング技術に関して“グッ”よりも“グーッ”のほうが、腰をひねるタイミングがぴったり合うという選手もいます。また、同じ音韻でも生成される過程(動作)が異なるため、競技による特徴があります。そのため、同じ“サッ”でも、競技特性や選手1人1人の動作を見極めて用いる必要があります。

②集団的なオノマトペ:運動指導や表現において、集団で使っているシグナルもあります。対象が集団の情報であり、個人に向けた情報ではありません。』

『スポーツオノマトペは実に奥が深く、私にとっては「開け!ごま」のような魔法の言葉です。ジュニアから高齢者まで、わかりやすく楽しく利用でき、また脳にもやさしい言語のような気がします。それは、スポーツオノマトペが、右脳(アナログ脳:イメージ記憶・直感やひらめき等)寄りの処理だからではないでしょうか。

通常の言語は左脳(デジタル脳:論理的計算・思考等)寄りで処理されます。身体運動は右脳寄りで処理されるので、言語では説明された動きはストレートに身体運動としては理解されないのです。スポーツオノマトペは音であり、さらに身体の動きから生成されているので、おのずと処理は右脳になります。だからこそ、「サーッ」とか「スーッ」とかという語が、イメージのなかでつながって、動きと一致してくるのです。

そのようなことから、1を聞いたら10がわかる言葉であり、スポーツ指導において非常に効果があると思います。』