2005年 7月 の投稿一覧

コンプレックストレーニングについて|ニュースレターNO.124

5月からつき2回のペースで3ヶ月間、計6回開催した第1回のコンディショニング講座とリコンディショニング講座も無事に終わりました。コンディショニング講座は、平成スポーツトレーナー専門学校の教員の研修の形になりましたが、リコンディショニング講座は10名の受講者で行ないました。

受講者の方々には十分な成果があったようで、満足していただけたようです。感想を読んでいただければ、どのような内容であったか想像できると思います(????)。第2回は、当初9月スタートを考えておりましたが、準備期間が短くなるので10月スタートで12月終了になります。

詳しくは、平成スポーツトレーナー専門学校のHP、または上記の別科紹介アドレスにアクセスしてください。連続3ヶ月が難しいという声をよく耳にしますので、いろいろ受講スタイルを検討しております。

さて、今回はコンプレックストレーニングについて紹介したいと思います。パワートレーニングの一手段として活用されているようですが、果たして効果はどれほどのものがあるのか、疑問視されているところもありますが、プライオメトリックスも同様に考えられるところがあります。

コンプレックストレーニングとプライオメトリックスは、何れも旧ソ連のヴェルホシャンスキーが考案したといわれています。この件についてマトヴェーエフ氏に伺った事があります。いずれも昔からあるもので、ヴェルホシャンスキーが考案したものなどではないとおっしゃっていました。その効果についても、一時的な効果はあるが継続的な蓄積効果を導くものではないということでした。

すなわち、現状の筋力に対して、その筋力をある動作においてスピード筋力に移行させるだけのものであり、コンプレックストレーニングとプライオメトリックスを主練習や主トレーニングとして用いても効果は期待できないということでした。

パワーという概念は、ロシアにはなく、スピードと筋力の関係でスピード筋力という考え方になります。したがって、ベースは筋力とスピードをそれぞれ高めることにあり、それぞれが高められたところでスピード動作・パワフルな動作に移行するということです。したがって、そのようなトレーニングをどの段階でどの程度用いるかというところが問題になってきます。

今回はNSCA Journal Volume 26、 Number 6に掲載されていた「Complex Training Revisited:A Review of its Current Status as a Viable Training Approach:コンプレックストレニング:実用可能なトレーニング法としての現状についてのレビュー」から抜粋して紹介します。

この論文はNSCAJapanが発刊している「ストレングス&コンディショニングMay、2005」に全訳文が掲載されています。すでに読まれた方もいると思いますが、もう一度読んでみますと、絶対的なトレーニングではなく上記の考え方が見えてくると思います。そしてどのように考え、どのように活用すればよいのかヒントが見つかるはずです。

『パワーとは、単位時間当たりの仕事から求められ、特にスピードやアジリティ、爆発的な動作を必要とする競技パフォーマンスを成功させる基盤と捉えることができる。その結果、パワーを最大限まで向上させる理想的なトレーニングテクニックと、そのパワーを競技パフォーマンスにつなげていくことは、多くの研究者やコンディショニングコーチから熱い注目を集めている。

パワーを向上させるために用いられてきた基本トレーニングは今まで3種類あり、それらは、高負荷(1RMの80~90%)での従来通りのウェイトトレーニング、自体重の加速と減速を組み合わせたプライオメトリックエクササイズ、1RMの30~50%の負荷で可能な限り速く動かすダイナミック・ウエイトトレーニングである。

またコンビネーショントレーニングも、異なった多くの方法で用いられてきた。そこには高負荷と低負荷を交互に行うような方法なども挙げられるが、1回の同じトレーニングセッション中や期分けしたトレーニング計画の一部としては用いられていない。

最近になり、多くの研究者や現場の指導者が、Verkhoshanskyらが提唱したコンプレックストレーニング・テクニックを用いることが支持されてきている。

この用語は、トレーニングとは尐し異なるアプローチを表すために用いられてきたが、コンプレックストレーニングは一般に、1~5RMの高負荷を用いたレジスタンストレーニングに続けて、バイオメカニクス的に類似したプライオメトリックエクササイズを行うというものである。

例を挙げると、5RMの負荷でフロントスクワットを5回行い、そのすぐ後に続けて垂直跳び、もしくはデプスジャンプを6~8回行う。プライオメトリックスとストレングストレーニング・エクササイズの組み合わせは、しばしばコンプレックスペアと呼ばれる。

そして、この組み合わされたエクササイズは、通常何セットかを繰り返して行われる。爆発的パワーを向上させる方法として流行し、支持されているにもかかわらず、この方法に関する科学的根拠はまだ不足している。』

『コンプレックストレーニングの基礎となっている前提は、最大収縮かそれに近い収縮の後に筋の爆発的な能力が高まるということだろう。この現象は、活動後増強(PAP:postactivation potentiation)と呼ばれる。

この状態の筋は、短期間における短時間のパフォーマンス能力を向上する効果があると考えられ、長期にわたりトレーニングプログラムの一環として繰り返し行うと、他のトレーニング方法に比べて長期的適応の状態がさらによくなることが期待できる。

最大筋収縮またはそれに近い刺激後に筋が増強されることを説明するには、2つの理論またはメカニズムが提唱されている。1つ目の理論では、事前の刺激により運動ニューロンプールの興奮性が高まるとしており、その証拠として電位反射反応の向上を挙げている。

神経の活性化は、動員される運動単位の増加、運動単位の同期性の向上、前シナプス抑制、または中枢から運動ニューロンヘの入力増大などにより高まる可能性がある。もう1つのメカニズムとして、ミオシン軽鎖(MLC:myosin light chain)のリン酸化が、筋への刺激による活動後増強をつかさどると考えられる。

筋刺激によりMLCキナーゼを活性化する筋形質のカルシウムイオンが増加する。MLCキナーゼはアクチン-ミオシン複合体で利用可能なATPを増加させる。つまり、アクチン-ミオシンのクロスブリッジの数を増加させる。MLCのリン酸化は、筋小胞体から放出されるカルシウムイオンにアクチン-ミオシンの相互作用がより敏感になるようにも働く。

しかし、TubmanらはMLCのリン酸化と反復刺激後増強効果について検討し、それだけが活動後増強に寄与するメカニズムではないと結論づけた。活動後増強とは、現在の時点ではまだ解明されていない神経と筋でのメカニズムが、相互に作用する結果であるかもしれない。』

『・・・ 実際に行われた研究のほとんどが、予備負荷の刺激として最大収縮またはそれに近いものを用いて行われていて、それは等尺性収縮または動的筋力発揮の形態であった。目的がすぐ後に行うパフォーマンスに作用することであるなら、等尺性筋収縮は選手がウォームアップ中に実行可能であるという点で、動的なものよりも都合がよい。

GullichとSchmidtbleicherは、筋が最大努力またはそれに近い場合、そのすぐ後に行うパフォーマンス、特に爆発的活動や力学的パワーが向上し、おそらく長期的な適応も起こるであろうと提唱した初期の研究者である。

彼らは、被検者に前負荷として片側のレッグプレスとベンチプレスの体勢で、3~5回の随意等尺性最大収縮を行わせた。5秒間の随意等尺性最大収縮の後、被検者は可能な限り速く、誘導されたバーベルを30秒間のインターバルをおいてそれぞれ5回挙上するか、動力計のフォースプラットフォーム上で8回の垂直跳びを行った。

結論は、上肢と下肢の爆発的な力を向上させるためには数回の随意等尺性最大収縮を用いれば十分で、パフォーマンスやトレーニングを高めるために利用可能であるということだった。この研究が、コンプレックストレーニングの概念を支持する論文に引用された予備研究の1つであることを注記しておくべきである。・・・・

もう尐し新しい研究では、筋が最大努力を行う最適な時間の長さを明らかにするために、随意等尺性最大収縮を異なる時間行った場合の効果について調査している。3秒間の等尺性の膝関節伸展を3回繰り返すことは、5秒間を3回繰り返すより効果的であることがわかったが、ある種のストレッチ-ショートニングサイクル反応を伴う動作に対してのみ有効であった。

しかし、随意等尺性最大収縮を異なる時間(2.5~10秒間)行った他の研究では、直後のパフォーマンスに関してどれも向上が認められなかった。現時点では、直後に行う爆発的動作に対する随意等尺性最大収縮の有効性と最適な時間については、明確に確立されていないと言える。

前負荷として等尺性動作を用いた研究の結果が暖昧なのは、予備負荷刺激と、その後の爆発的動作での筋の活動形態の違いが部分的に影響している可能性がある。

多くの研究が前負荷のエクササイズとして動的筋活動を用いており、爆発的動作をする前に3~5RMの負荷を用いている。Youngらは、5RMの負荷でハーフスクワットを1セット行ったあと、5回の垂直跳びの平均がl㎝向上したことを示した。3RMのハーフスクワットも筋力発揮に改善をもたらしたが、それは被検者が高ストレングス群と低ストレングス群に分けられた後だけであった。

しかし、5RMの負荷を用いた他の研究では、続けて行った爆発的なパフォーマンスに向上効果は認められなかった。

初期の研究者は、最大またはそれに近い前負荷の重要性を強調していたが、いくつかの研究では、それより軽めの負荷を用いて増強の証拠を示している。ホリゾンタルジャンプのパフォーマンスに対する5種類のウォームアップ方法の効果が様々な前負荷を用いて調査された。

有意に向上したのは、4RMの75~85%の負荷でパワースナッチを4回行うウォームアップ方法の後だけであった。より最近では、6RMの65%の負荷で6回行った後、特別にデザインされたプライオメトリック器具で50kgの負荷をかけてベンチプレス・スローを計測したときに、パワー出力が4.5%増加した。

また、パフォーマンス前に、1RMの20、40、60、80、90%の負荷でハーフスクワットをそれぞれ2回×5セット行う方法では、垂直跳びの記録に2.39%の増加がみられた。しかし、この形の研究では、どの負荷が増強反応をもたらしたのか、そして、低負荷と高負荷の組み合わせが結果に影響したのかどうかも明らかにはできない。

増強反応を引き出すのには最大努力またはそれに近い状態が必要なのではなく、異なる負荷の組み合わせが最適な刺激をつくり出していることも考えられる。しかし、現時点では、前負荷の大きさと爆発的パフォーマンスの関係をさらに明確に示す必要がある。

活動後増強に伴う問題のひとつは、予備負荷の刺激が激しいために筋が疲労し、可能性のある増強効果を隠してしまうことである。増強と疲労が同時に存在し得ることははっきりとしている。ゆえに、筋が疲労から部分的に回復しているが、まだ増強も続いているときを見極めることが重要である。

予備負荷の刺激とそれに続く活動を行うまでの時間間隔は、研究により異なっている(15秒~18.5分)。翻訳された論文から解釈をするのは難しいが、GullichとSchmidtbleicherは、3~5分間、つまり随意等尺性最大収縮を3回行った20秒後に増強効果が現れたことを示した。

その後に行われたほとんどの研究では、前負荷とパフォーマンスの計測の間には3~4分間の休息時間が採用されており、GuilichとSchmidtbleicherの結果に基づいているのは明らかであった。ただ1つの研究だけ、前負荷と爆発的活動の間にある休息時間の長さが直接的に調整されていた。

ここでは、ストレングストレーニング(5RMスクワット)後、プライオメトリックスを行う最適な時間があるかどうかを調べるために、1、2、3、4分間の休息時間が用いられたが、どの休息時間の後にも、パフォーマンスの有意な向上はみられなかった。

この論文の著者は、コンプレックストレーニングはジャンプパフォーマンス向上には有効ではなく、レジスタンスエクササイズ直後に行うなら、実際には低下すると結論づけた。彼らは、パフォーマンスを向上させるためには、4分以上の回復時間が必要かもしれないと示唆した。

コンプレックスペアのエクササイズの間に取る最適な休息時間は、パフォーマンスを最適化するためには最も重要な要因であると考えられるが、現時点では明確にはされていない。実践する人によっても異なるので、現場では個々に合わせて検討し、実践する必要がある。

個人のトレーニング状態が爆発的なパフォーマンスに対する激しい予備負荷の増強効果をどれだけ利用できるかに影響を与えることが示されている。予備負荷にハーフスクワットを用いた後のジャンプの向上と、5RMスクワットのストレングスの間に密接な相互関係があることが示され、ストレングスレベルの高い人は増強効果を効果的に利用できるだろうという結論が導き出された。

3RMのハーフスクワット後には、パフォーマンスの初期向上は全くみられなかったが、被検者をストレングスの高低で分類した後は、筋力発揮について全体的な改善がみられた。パワー競技の参加者と同様に競技者としてトレーニングされた被検者は、趣味程度にトレーニングしている人や体育学部の学生の群よりも活動後増強を効果的に利用することができることも示された。

しかし、他の著者は、5RMのスクワットの刺激では、被検者をストレングスレベルの高低で分けてもエルゴジェニック(仕事量増加)な効果はみられないと結論づけている。現時点では、ストレングスと活動後増強を利用できる能力との関係は薄いと考えざるを得ない。

それは、示された研究が過去を振り返った後ろ向き研究であり、介在変数としてストレングストレーニングを用いていないからである。どちらの研究もストレングスの最適なレベルを明らかにすることができなかった。

さらに、増強の要因としてストレングスを示唆した研究では、体重の推進力が関係する垂直跳びのようなパフォーマンスの計測においても、相対値ではなく絶対値を用いていた。相対値と絶対値の両方をストレングスの計測で用いることは、ストレングスと増強されたパフォーマンスの関係をより明確にするために、有益であるように思える。

コンプレックストレーニング法の概念を調べているほとんどの研究では、予備負荷の運動を1セットで行っている。長期的な神経筋適応を目的としたとき、コンプレックストレーニングで活動後増強を適応させるには、一般的にコンプレックスペアを複数セット行っている。

コンプレックスペアを3セット行った後のパフォーマンスに、活動後増強の原理を適応させる効果については、2つの研究でしか調査が行われていない。

1つの研究では、ハーフスクワットの体勢で7秒間の随意等尺性最大収縮を行い、その後にカウンタームーブメント・ジャンプを5回行ったときのフォースプラットフォームに記録されたパワー出力を計測した。これはカウンタームーブメント・ジャンプに対する、連続して3セット行った随意等尺性最大収縮の効果を調べることにより、コンプレックストレーニング法の組み立てを再現しようとしたものである。

どのセットでも増強効果は示されず、実際のところ、1回は最初と最後のセットで記録が減尐していた。3RMの負荷の効果は、4回のカウンタームーブメント・ジャンプを連続して3セット行い、その記録を平均して検証した。初期の解析では、パフォーマンスやどのセットの力学的計測値にも有意な向上はみられなかった。

被検者はその後、推定1RM値の中間値に基づいて、高ストレングス群と低ストレングス群に分けられた。ストレングスの高い被検者のほうが、前負荷に行った3RMのハーフスクワットの後において力の向上(3セットの平均値)がみられた。現時点では、複数セットを行うことにより増強効果が得られ、それを維持する能力は明確になっておらず、さらなる調査が必要であるようだ。

被検者が予備負荷の激しいエクササイズにより得られる増強効果を利用できるようになるためにはコンプレックストレーニング法を繰り返し経験する必要があるようだ。

しかし、8回のカウンタームーブメント・ジャンプとホリゾンタルジャンプを行う前に、5RMのハーフスクワットの前負荷を行うトレーニングセッションを、尐なくても48時間の間隔をあけて3回経験した被検者は、どのパフォーマンスの計測値においても尐しの向上もみせなかった。実際の現場で活動後増強の効果を得るためには、コンプレックストレーニング法をこれよりも多く経験しないといけないかもしれない。』

再び呼吸について|ニュースレターNO.123

前回のニュースレターのスペシャルで、うれしかったことについて書きましたが、多くの方々からぜひ一度平成スポーツトレーナー専門学校に伺いたいというメールをいただきました。私を始め、教員もお待ちしておりますので、どうぞ気楽にお出かけください。実際に現場を見ていただくことが何より私が目指す学校を御理解いただけるように思います。

そして、いろんな質問を御持ちいただいて、ディスカッションできればうれしく思います。

さて今回は、呼吸のことについて書きたいと思います。以前、一度文献を紹介した事がありますが(No.112)、今回はまた違った視点から見てみたいと思います。なぜ、呼吸について取り上げたかといいますと、モスクワに行ったとき、通訳の佐藤さんとの話の中で出てきたからです。

佐藤さんは、ロシアの器械体操の取材をした事があり、そのときに各動作の中で息を吐くタイミングがあるというような話からです。どこで息を止めるのか、吐くのかといったことはパフォーマンスに大きく影響することは感覚的にわかっているのですが、そのときの話では、コーチが細かく息を吐くタイミングや力の入れるタイミングを教えるというような話でした。

それで、帰国してから具体的なことがかかれたものがないか調べたのですが、競技動作との関係について書かれたものはなく、呼吸に関する概念的なものが見つかっただけでした。しかし、それを読んでみると、そこから実際のパフォーマンスへの応用が利かせられるように思いました。

力を入れるときに、息をとめるのか、吐くのか、どちらがベストであるのか難しいところです。また、あるところには、特に腹式呼吸の効果として、息を吸うこと(吸気)によって下肢のリンパと血液を吸い上げ、息を吐くこと(呼気)によってそのリンパと血液を押し上げ、鎖骨下から静脈に戻す作用があるとも書かれていました。

力の出し入れのタイミングだけでなく、単純な呼吸そのものにも大きな作用があるということから、もう一度呼吸というものを見直してみると面白いと思います。詳細については、下記の2つのホームページを参照してください。

1.http://homepage2.nifty.com/ToDo/cate1/suuiki1.htm
2.http://www.enjoy.ne.jp/~okamoto.y/hitowa_rinpanoumio.html

『呼吸に関わる筋肉である呼吸筋は、実は不思議な筋肉なのである。筋肉には中枢神経に支配されて意識的に動かせる随意筋と、自律神経の支配下にあって自分の意思でコントロールすることのできない不随意筋とがある。歩行における足の動きや物をつかんだりする手の動きは、もちろん随意筋によって行われている。一方、内臓などは睡眠中にも動き続けていなければならないため、不随意筋によってコンスタントに働いている。

ところが呼吸筋は、手足と同様の随意筋である横紋筋でできているのだ。だから意識的に深呼吸をしたり、ため息をついたりすることも可能になるわけである。だが、もしも呼吸筋が単純な随意筋として中枢神経の支配を受けるだけのものだとしたら、我々は睡眠中に呼吸することを忘れてしまう。

大変なことになる。 そこで呼吸筋は他の横紋筋と異なり、不随意筋と同様に自律神経の支配を受けることで睡眠中にもコンスタントな呼吸を行うことができるようになっているのだ。つまり呼吸筋は、無意識に呼吸を続けることもでき、一方で意識的に止めることもできる、筋肉の中でも特異な存在といえるものなのである。

先に、息を止めることで筋収縮により大きな瞬発力が生まれると記した。そのことについて、少し考えてみよう。 一般的に、随意筋には生理的限界と心理的限界がある。心理的限界とは精一杯努力して発揮した最大筋力のことだ。

これに対して生理的最大筋力とは筋肉本来の弾性限界いっぱいまでの能力のことだ。 ヒトは通常、生理的限界のおよそ4分の3程度の心理的限界しかもてないといわれる。それは、過大な力が働くことによって筋裂断などが起きないようにするための身体的抑制機能なのだろう。

ところが息を止めることによって、この心理的限界が破られる。息を止めたときに脳の神経系が興奮して活発化することで筋肉は自律神経系の影響を受けるようになる。 自律神経とは本来、意思とは無関係に生体機能をつかさどる神経である。

この自律神経に影響を与えるような高揚感が働くことで、意思による心理的限界の最大筋力を超えて、無意識的な生理的限界に近づくことになるのだ。このことは、いわゆる「火事場の馬鹿力」を思い起こしてもらうと分かりやすいかもしれない。

呼吸筋の随意的な動きによって息を止めることにより、意識的に動かす随意筋のひとつである骨格筋に無意識的な作用を生じさせる結果をもたらし、結果、思わぬパワーを筋肉に与えることになる。こうした筋肉の相関から見ていくと、呼吸とはなんとも不思議な身体の働きであることかと思わされる。』

『呼吸という言葉は、タイミングという意味にも用いられる。相撲の立会いで呼吸が合わなければ仕切りなおしになるが、これは両者が立つタイミングが合っていないからだ。しかしこの場合の呼吸=タイミングという使い方は、一般に「呼吸が合わない」などと使われるような象徴的意味合いではなく、ほんとうに吐く息と吸う息の呼吸が合っていない状態をさしている。

相撲の立会いでは、息を吐いて次に吸う瞬間が一致したときが立会いの成立であるといわれる。この呼吸の変わり目で一瞬息が止められることもある。その効果は先に示したとおりだ。息を止めることによって立会いの瞬発力を高めようとするのだ。 また柔道においても技を仕掛けようとする直前は、すべて息を吐く状態で行われるという。息を吐き出しながら、技を掛ける瞬間に息を止めて最大パワーを引き出す。

そして技を仕掛けた後の動作の中では思い切り息を吸うものなのだという。このように見てくると瞬発力型のスポーツにおいて、吐く息がいかに重要な役割を果たしているかがよくわかってくる。 吐く息の重要さという点では太極拳においても同様であるが、格闘技というより健身術としての側面が強い現在の太極拳では、呼吸の意味が多少異なる。

格闘技が瞬発的な力を発揮する間合いにおいて吐く息の重要性を用いているのに対し、太極拳では、吐く息の重要性はむしろリラックスさせることに求められるといえる。 ・・・

その呼吸法の基本は腹式呼吸である。腹式呼吸法とは、横隔膜を十分に押し上げ、臍下丹田(せいかたんでん)に意識を集中しながら行う呼吸法のことで、これによって、吐く息と吸う息のリズムを整え、深い呼吸で呼吸数を通常の3分の1程度にまで減らす呼吸法が健身術には重要なものだとされている。

大きな呼吸は酸素摂取量を効率的に増大させ、より多く体内に取り入れることができる結果となる。 ところで、呼吸は肺の中における酸素と炭酸ガスの交換はもちろんだが、一方、身体の末梢部において毛細血管の中でもこの交換が行われる。このとき血液中に酸素や炭酸ガスが溶け込みまた放出される力は拡散と呼ばれる。

ところが血液中への拡散力において炭酸ガスは酸素の15倍という強さをもっている。 とすれば、息を吐くことによって、血液中への吸収や放出にすぐれている炭酸ガスの排出を行うことの方が呼吸機能を効率的に働かせる結果をもたらすことになる。

このあたりが吐く息の方が吸う息よりも重要だというひとつの根拠である。こうした呼吸の機能をさらに高めるのが、健身術の腹式呼吸でありこの呼吸法からリラクゼーションが生まれてくるのだ。』