2004年 12月 の投稿一覧

15歳右腕に異例育成プラン|ニュースレターNO.109

2004年、最後のニュースレターです。通算109回目になります。毎年同じことばで締めくくりに入りますが、本当に早い1年でした。特に今年は、大学を辞め、平成スポーツトレーナー専門学校の校長に就任したことから、前を見つめる余裕もなく、足場固めに終われた8ヶ月でした。

おかげさまで何とか先の見とおしもたち、ようやく夢の実現に向け一歩を踏出せそうです。2005年から本当のスタートになります。ご期待ください。

さて、今回のニュースレターは、スポーツ新聞の記事からです。先週の12月17日(金)の日刊スポーツの記事に、「15歳右腕に異例育成プラン」という記事がありました。これは、阪神タイガースがドラフト史上最年尐投手を獲得したということで、どのように育てればよいか関係スタッフが協議したというものです。

その選手は、辻本賢人(平成元年1月6日生まれ)181センチ、75キロです。アメリカの高校にいたのですが、ドラフトにかかるということで休学して日本にきていました。小学生までは日本にいたのですが、中学からフメリカに行ったようです。まだ高校1年生ということです。

15歳とかいてありましたが、平成元年生まれですので16歳です。すでに140キロ以上のボールを投げるということで、タイガースもどのようにして育てたらよいのか困ったようです。その育成方法について関係スタッフが協議した結果を発表したということです。

新聞記事には、次のように書かれていました。

『ワンダーボーイに異例の育成プランが浮上した。猿木チーフトレーナー、伊藤3軍コーチらが鳴尾浜球場に終結。新人選手の育成に関する会議を開いた。

約2時間、熱のこもった議論を展開。そのメインテーマは15歳辻本の今後について、だった。出席した杉田トレーナーが結論を明らかにした。「成長が止まるまでは、ブルペンで投げさせないほうがいい」。春季キャンプはもちろん、シーズン中も投球練習を封印させる可能性が出てきた。

ドラフト史上最年尐右腕をどう育てるか。来年1月14日にスタッフ会議が行われるが、そのときまでに、トレーナー側の意見を統一しておかなければならなかった。入団発表前に実施された健康診断や体力測定などのデータをもとに分析。辻本はこの1年で身長が10㌢も伸び、まだまだ成長過程にある。

「ブルペンでは周りの目もあるし、余計に力が入ってしまう。線が細いし、故障すれば、取り返しのつかないことになる」と同トレーナー。キャッチボールや遠投はOKだが、投球は無期限禁止。辻本は走りこみ中心の体力強化に明け暮れることになる。』

『高校野球に取り組む同世代はこの時期、実践的でハードな練習を積んでいる。高校3年間の短いスパンで甲子園出場やプロを目指すためで、すでにプロ入りした辻本は環境が違う。エース井川の高卒1年目はシーズン終盤まで実践登板を封印し、ひたすら体力づくりに励んだ。入団前から腰痛に苦しんだ経緯はあるが、この成功例も背景にある。また星野SDも「最初はボールを持たずに、陸上部でいい」と推奨している。

スタッフ会議で岡田監督やコーチらの同意を得られれば、辻本本人にも納得いくように説明する。未来の大エース育成には、最初のステップが重要。地道トレーニングでプロジェクトの幕があける。』

以上の記事を読んで皆さんはどのような感想をもたれたでしょうか。まるで壊れやすい卵を扱うようなコメントです。信じられないというか、何を考えているのか理解できません。

タイガースだけでなく、どの球団に入団しても同じことになっていると思われます。来年17歳になり、高校2年生になるというだけで、投球練習はだめで、キャッチボールと遠投だけにするなんてことは、とても耐えられることではないと思います。

野球選手が、ピッチャーが投球練習をしないで走ってばかり、陸上選手でよいなんてことは選手をバカにしているのか、育成するということの意味がわかっていないのかどちらかでしょう。

そんなことであれば、野球選手ではなく、高校の陸上部の選手をスカウトすればよいということになります。野球選手が野球の練習をしないでどうして野球が上手くなるのでしょうか。もし、彼が投手ではなく、打者であればどうするのでしょうか。キャッチボールと捕球だけさせるのでしょうか。

問題は、中身ではないでしょうか。この1年間で身長が10㌢も伸びたので、成長途中であり、投球を制限するということですが、それならば走りこませるほうが余計に脚にストレスを受け、膝やスネを痛める危険性のほうが高いように思えるのですが、この点はどう考えているのでしょうね。

成長期の骨へのストレスを考えるなら、投げることも走ることも制限するということになるのが本来の考え方で、それなら納得もできないではありません。

しかし、高校生の年代では、日本の場合一番ハードに練習をしている、させられている時期だと思われます。そのことについては、技術が上手くなる反面、間違えばオーバーユーズを招いて故障することもありますが、一番野球も面白い時期でもあると思われます。

その時期にまるで野球をするなというような指導は、さびしすぎるとともに、モチベーションをどのように保てるのか、心配です。逆の立場であればどう思うでしょうか。

もっと人を育てる、育成するということの基本を理解しなければいけません。育成システムなるものがあれば、また理解できていれば、相手が何歳であろうと成長期であろうと困ることはありえないはずです。

心・技・体のいずれにどのような問題があるのか、それを分析すればおのずと今何をしなければならないのか、何をしてはいけないのか、どの程度ならOKで、どの程度ならNOということがわかっていないのでしょう。

簡単に言えば、ピリオダイゼーションです。このような考え方が理解できていないために、わけもわからない育成プランということが出てくるわけです。

このような現場では、高卒の選手であっても育てられないでしょう。プランはシステムの中から出てくるものであり、最初にシステムが出来上がっていなければ、そのプランは単なるプランであり、思いつきでしかありません。

選手を育てるということは、大変な分析が必要であり、今やるべきこと、次にやるべきこと、今やってはいけないこと、そしていつごろどんなことがやれて、いつ頃完成するかといった長期的なビジョンが必要です。そのためには、細かなトレーニング計画と練習計画が同時に必要になってきます。

野球選手に限らず、その選手やチームについて、最初にどれだけの分析ができるか、ということが重要です。そこから課題が見つかり、その課題を克服するまでにどれだけの期間が必要になるかということを考えることによって、1年先、3年先、5年先の予測ができることになります。

その予測・予定のもとに練習・トレーニング計画を立てて実践していきながら、その都度、予測とのズレを修正しながら、練習・トレーニング内容も変更していきます。

当然、練習・トレーニングだけでなく、心・技・体の全体を見つめながらバランスよくレベルアップしていかなければならないのです。ここに、コンディショニングの面白さと難しさがあるわけです。

辻本選手の今後を見守っていきたいと思います。それではよいお年をお迎えください。

細胞と運動のはなしから|ニュースレターNO.108

4月に平成スポーツトレーナー専門学校の校長に就任してからあっという間に12月になってしまいました。

この8ヶ月間、学校の土台づくりに追われ、ようやく来年からの準備ができかけたというところで入試に突入してしまいました。専門学校の入試は大学と異なり、いろいろ難しい事があるようです。将来をにらんで夢を持った方々にきてほしいと思いますが、まだまだ学校の存在が知られていないようで、しんまいの悩みは尽きません。

しかし、過大広告をするよりは地道にクチコミを期待したいと思っております。本当にスポーツトレーナーを目指すなら、本物のトレーナーを目指すなら、きてもらって満足してトレーナーとして独立できるように教育するのが私の努めです。そのためには我慢しながら進んでいくしかないでしょう。

あまり学生数が増えると、教育上、密に教えられない状況にもなるので、そのことも逆に心配しているところです。志ある方は、私のもとで違いを感じてみませんか、毎日が楽しくなるはずです。1年生の1/3が自主的に勉強会を開いてがんばっています。

そのときがいちばん勉強になっているかもしれません。勉強会は、月、水、金の3回、16時30分頃より2時間弱やっています。ぜひ一度、起こしください。学生たちの真剣さがわかると思います。

さて、今回はSportsmedicine 2004 No.66に掲載された跡見順子(東京大学大学院)女史への取材記事で「細胞レベルで考える脂肪-運動の意味するもの」があり、その中で脂肪細胞の話とともに重要な示唆をいただけたところがありますので、抜粋して紹介したいと思います。

『・・・ なぜ脂肪細胞のサイズが大きくなると分泌する物質が変化するのか。

その研究をしたいと考え、脂肪細胞をつくるところまではシステムをつくりました。脂肪細胞をばらばらにして、コラーゲンのゲルの中に細胞を入れる。ところが、脂肪細胞は長時間培養できる系がないのです。脂肪は比重が軽いので水の中では浮いてきて、2日くらいで死んでしまう。

わたしたちのからだの中では脂肪細胞でさえも周りにくっついて生きています。そういう環境を無視して、ばらばらにして、そこにカテコールアミンやインスリンを入れて実験している人が多い。そうでなければ、特定の株細胞を分化誘導して脂肪細胞にする。ところが、完全な球体にならない。脂肪滴を中に含む段階で一応分解と考えて実験は行われているのですが、それは本当の脂肪細胞ではないだろうと思っています。

しかし、採取した脂肪細胞をばらばらにしても丸い形を維持できれば、それは脂肪細胞でい続けるだろうということで、三次元の環境で培養してみたこともあります。それはわたしの研究室の院生が博士論文にしましたが、コラーゲン濃度を低くしたゲルをつくった。

皮膚をつくるときは、線維芽細胞をコラーゲンのゲルの中に入れると、線維芽細胞がコラーゲンを引っ張ったりして皮膚という組織を自分でつくるのです。それと似たような系で脂肪細胞を入れて、非常に薄い濃度、線維芽細胞をつくるときよりもっと薄い濃度にしてやると、脂肪細胞が周りのコラーゲンとやりとりして、最終的に脂肪組織ができます。

また、前述通り脂肪細胞には基底膜があり、細胞骨格があるだろう、それなら動くだろうと考え、それを動画に撮るため、コラーゲンゲルの薄い層をつくり、そこに脂肪細胞を入れて、タイムラグスピデオで撮ったら、ぐるぐる動いていたのです。

その動くというのは細胞骨格とモータータンパク質、あるいは細胞骨格だけかもしれないけれど、そういうシステムがあるから動く。

動いているというのは、実験で分解した組織の中の脂肪細胞は単独では動けないけれど、外部から押したり、もんだりすると、システムとしては動くようになっているわけだから、そのシステムに対して外部から働きかけられるだろうと考えています。

だから、エステでマッサージによって脂肪を取るというのも全くウソではなく、そういうことはある程度起こっていると考えられるのです。ただ、それでやせたというのは言いすぎで、マッサージなどの外的刺激で脂肪が血中に出て、それがどこかで使われない限り、また取り込まれる。

それは同じところかもしれないし、別のところかもしれないけれど、取り込まれる。その取り込みのときに、その部位を押さえつけていると、そこには取り込まれにくいのではないか。これはストーリーとしてはあり得るわけです。

いったん血中に出た脂肪が再び取り込まれるときに、これについてはかなり以前に論文が出されていて、同じ体脂肪量の人が2人いて、1人は定期的に運動をしている、もう1人は運動をしていないとすると、糖の代謝が異なります。運動している人は、糖が入ってきてもすぐに取り込める。

そういう活性が高いのです。それもなぜなのか、気になっていました。そういう話ともつながってきます。同じように脂肪を持っていても、身体内を循環していればよい。循環しているということは細胞が生きているということですから。循環しているということで、ある細胞が出したり、取り込んだりしていると考えられるのです。

細胞の形やサイズは大事で、脂肪細胞については直径が約100ミクロンが通常で、それが200ミクロンくらいになると悪さをし始めるということだったと思います。

・・・・

細胞としてDNAは同じなわけですから、システムなので、ちょうどよい大きさというものがあるはずなのです。筋肉のようにトレーニングによって肥大するとよいというものではない。筋肉は肥大しても異常にならず、発揮できる筋力が高まるというようにプラス効果がたまたま得られたと考えるほうがよいと思います。』

『・・・この頃、本当の応用のための運動のやり方について考え直したほうがいいと思うことが2つあります。1つは実験のためのモデルと実際の応用は別に考えたほうがよいということ。動物は自分のからだは自分で動かすわけだからどうしても脳を考えなくてはいけない。

そしてバランスの問題。自分の視覚、認職、認知を考えたうえで、自分のからだをどう操るか。そのためにどう筋肉をつけていったり、あるいはバランス能力をつけていったりするか、もう一度初めからやり直したほうがいいのではないかと考えています。

もう1つは、ホメオスタシス(homeostasis恒常性:ホメオは同一の、スタシスは状態の意味。アメリカの生理学者キャノンW. B. Cannon1871~1945の命名。

生物体の体内諸器官が、外部環境<気温・湿度など>の変化や主体的条件の変化<姿勢・運動など>に応じて、統一的・合目的的に体内環境<体温・血流量・血液成分など>を、ある一定範囲に保っている状態、および機能。哺乳類では、自律神経と内分泌腺が主体となって行われる。

その後、精神内部のバランスについてもいうようになった。・・広辞苑から)ではないけれど、大きくなることが必ずしもよいことではないということ。最大値を追求することは、アスリートが最大酸素摂取量を高めるときのように一部にはあってもよい。しかし、最大値を得る過程で間違うと壊れてしまうことがあります。

だから、基本はホメオスタシスというか、大きさにしても長さにしてもこの辺が最も適切だろうというところがあるはずなのです。

だからウォーキングもよい運動ですが、ウォーキングだけではなく、太極拳をやったり、走ったり、筋力を鍛えたり、いろいろしたほうがよいということになります。

手や足は知覚神経が多くて、それは鍼灸の世界とつながってくると思うし、動く必要がある部分が関節をつくっているのだから関節はやわらかく維持することが当然だとまず思う。

そしてそれを支えるためには筋力がちゃんとあるというのが多分基本だと思うので、そのためにはウォーキングだけではなく、別の要素を含んだ運動も行ったほうがよいと思います。私自身はジョッグもすればダッシュもし、太極拳もやってみて、異なる要素が入っていれば加える、その他の運動もやってみてからだの別の機能の開発や維持に有効なら取り入れてゆく。

それは人間は機能的にも生物的な創りとしても本当にいろいろな要素を持っているのだから、週に1~2度は様々な刺激を入れることが必要だと思うからです。そして、やってみて、すべての知識を総動員して背景となる科学的合理性を追求してゆくことがとても大事だと思うのです。』

大事な示唆は後半のところです。身体を、また一部の機能だけを大きくしすぎることへの警告のように受け取れました。このことは、私が常々思うことと同じで、筋力にしてもパワーにしても、筋を強く、太く、大きくしたいという前に、現状をしっかり把握しなければいけないという事です。

何を把握しなければいけないのかというと、効率のよい理にかなった身体の使い方ができているのかどうかということです。実際には力もスピードも持ち備えているのに、それを発揮する方法、すなわち動作の手順というか身体の動かし方や集中するタイミングができていないのではないかということです。その動作が、動作手順がきっちりできているが、力やパワーが弱ければ筋トレやパワートレーニングに打ち込むべきだと思います。

その手順を間違って筋トレやパワートレーニングに打ち込んでしまうと、「身体が大きくなったけれど、単純に筋力は高まったけれどパフォーマンスは変わらない」ということになってしまうのです。

最近の相撲取りを見ていてそのことを実感します。それは大関に勢いよく上がったのに、その後は身体が大きくなりすぎで、スピードがなくなり、パワフルでないドタバタ相撲になってしまっていることです。大きすぎず、小さすぎずという中間的な体型が理想かもしれませんね。やはりスピードという要素(スピード感)が感じられなくなったときに気づくべきだと思います。