2004年 9月 の投稿一覧

免疫不全について|ニュースレターNO.103

6月にマトヴェーエフ氏に御会いした時、免疫不全に付いていろいろ話を伺いました。特に、オーバートレーニングに陥ることなく、選手を育成することが大事であり、そのために免疫不全について十分な理解が必要であると感じていたからです。その時に紹介された論文があります。

「スポーツの理論と実践」誌2003年1月号に掲載されたスズダリニツキーの「スポーツのストレス因子による免疫不全をどう理解すべきか-新しいアプローチ」という論文です。

免疫機能については、セリエの適応理論が有名ですが、その理論に誤りがあると指摘し、新たな理論構築を打ち出しものです。特にスポーツ選手に関しての研究であり、大いに役立つ情報であると思います。原文はロシア語であり、それを訳していただいたものを全文(原文はA4で5頁)紹介するわけには行きませんが、ポイントとなるところをいくつか紹介したいと思います。

『人間の免疫システムが、身体への負担に対して、どう適応するか、その全体的な傾向を解明すると、セリエはストレス反応として警告反応期、抵抗期、疲憊期という3つの段階があるとしたが、スズダリニツキーは、スポーツ選手の免疫の状態は身体への負担に応じて、一定の変化を示すことから、変化には少なくとも次の4つの段階があるという。

 

1.動員の段階

この段階の特徴は、免疫のいくつかの指標が、高まることである。このことは何よりも、生理学的なリザーヴ(予備力)が大々的に動因されたことを意味する。急性の呼吸器病の数は、最小レベルにまで下がり、全体として気分と活動能力は、いちじるしく向上する。

 

2.代償の段階

この段階は、負担の強度が増す時期に現れる。この段階が身体にもたらすおもな「効果」は、つぎのようなものである。免疫のある指標が高まる代償として、他の指標が低下する。その結果、ほとんどの免疫反応が低下していく傾向がでてくる。しかし、生理学的な防衛機能は、まだ、事実上同じ水準にある。これは、免疫メカニズムの予備力が、動員されているためである。そのために、発病率は、前の段階(動因の段階)に比べて、はっきりした差はない。

 

3.代償不全の段階

大きな負担が加えられる時期にみられる。つまり、負担がMAXの80~90%に達する時期である。この段階の基本的な特徴は、すべての免疫の指標が、急激に下がることである。とくに激しい変化を示すのは、局部的な免疫の指標である。免疫システムの予備力は、ほとんど消耗しかかっている。発病率はピークに達する。というわけで、身体は、免疫上の危機にある。なぜなら、二次的免疫不全が起きているからである

 

4.回復の段階

競技後の時期、すなわち、負担が激減するときに現れる。また、つぎのトレーニング・サイクルの初期にもみられる。免疫の状態は、徐々に最初の水準にもどる(あるいは、ほとんどもどる)。』

『上に述べたわれわれのコンセプト、そして、多年にわたりスポーツ選手の免疫不全を2500例以上分析してきたおかげで、ここで初めて以下の分類を呈示することができる。それは、スポーツのストレス因子による免疫不全をその発生のメカニズムと発生にかかる時間に基づいて分類したものである。

それによると、スポーツ活動にともなう免疫不全としては、少なくとも3タイプが存在する。

 

1.免疫不全の第1のタイプ

第1のタイプは、発生するときに、「吸着」のメカニズムと関係する。われわれは、このタイプをくわし
く調べたことがある。それは、つぎの現象を研究した際のことであった。すなわち、「免疫グロブリンと正常な抗体が、完全に消滅する現象」である。

過剰な負担によって、血液中に乳酸と尿素が大量に蓄積される。これらは、代謝で生じる中間的な物質である。その結果、酸性・アルカリ性のバランスが酸性の方向にぐっと傾く。そして、体温がいちじるしく上昇。―こうしたことが引き金になって、proteaseを含むいくつかの酵素が活性化する。

それらの酵素は、免疫グロブリン分子を破壊し、小さな断片にしてしまうことができる。そうなると、免疫グロブリンのレベルが下がる―というわけである。

また、pHの変化にともない、免疫活性ホルモン(複数種)が、よけい放出されるようになる。それらは、アルブミン、グロブリンと結びつきうる。だから、このプロセスにより免疫グロブリンのレベルがもっと低下する。

・・・この免疫不全のタイプを、われわれは「急速なタイプ」と呼んでいる。

 

 

2.免疫不全の第2のタイプ

これは、「代償の段階」が長時間続くことによって生じる。すでに述べたとおり、この段階の基本的な特徴は、免疫の各々の指標が別々の方向に変化していくことにある。つまり、ある指標は高まり、別のそれは低下する。そうなることで、一定の免疫効果をもたらすということである。

具体的にいうと、血清中のタンパク質含有量は全体的に減る。これは、おもにアルブミンの「代償」である。グロブリンはいくらか増える。免疫グロブリンAは、G、Mと比べると増加する。

また、タンパク質代謝のありかたも変わり、異化作用するようになる。すべての免疫反応が低下傾向を示し、例外は血清および血清中の補体の殺菌力だけである。それらの殺菌力は、粘膜の殺菌力と同じく高まるのである。

・・・われわれは、つぎのようなケースを「潜在的な」免疫不全と呼ぶことを提案する。すなわち、「代償の段階」で、3つ以上の免疫の指標が低下する。そして、上に挙げたような変化が十分はっきりと現れる―こうした場合である。

 

3.免疫不全の第3のタイプ

これは、「遅い」タイプと名付けることができる。「代償の段階」で始まったネガティヴなプロセスがさらに進み、免疫システムの環が一つ、またはいくつか壊れることで終わる―こうした経過で、このタイプは発生する。

免疫における細胞のファクターを調べてみると、つぎのようなことが起きているのが分かる。つまり、好中球(中性好性白血球)の食菌作用が急激に低下しだしているのである。われわれが明らかにしたところでは、ゼロ・リンパ細胞と好中球のプールがなくなっていく。

そして、それらすべての細胞はソケット型細胞に変わってしまう。

・・・

以上、免疫不全の3つのタイプをみてみると、つぎの現象が何を意味するかが分かってくる。すなわち、筋肉にストレスが加わったとき、あるいは、心理的ストレスを受けたときに大量のソケット型細胞が発生する現象である。

これは、循環する免疫グロブリンが体液(血液と分泌物)から急激に消えたこと、そして、長期にわたり免疫をつかさどる細胞の機能が抑えられてしまったこと―こうした2つのメカニズムが作動した可能性を示唆する。どちらのメカニズムも、二次的免疫不全発生をうながすことになる。

さらにまた、ゼロ細胞のプールがなくなっていく、そして、それらすべての細胞がソケット型細胞に変わってしまう―この現象はどうか? これまた、免疫上の適応を損なう要因である。

というのは、この現象は以下のように考えることができるからである。つまり、その身体がストレスを受けるなかで、免疫システムにおける最後の予備力(細胞による)を使い果たした、ということである。

さらにつづけて身体に異常な作用が加わると、どうなるか―。その身体で最ももろい免疫の環なら、どんな環でも損傷する可能性がある(例えば、細胞なら、T、B細胞によるシステム、両者の相互関係、インターフェロンの状態など)。こうした段階になると、これはもう多くの研究者が免疫不全状態が始まったと考える。つまり、彼らはこの段階をもって免疫不全状態の最初のしるしとしている。

しかしながら、われわれの見解では、これはすでに末期状態である。すなわち、免疫の調整システムに起きた不均衡は、もういくところまでいっている。適応のための予備力は使い果たされ、システムにおける個々の要素の関係、および各システム間の関係は断絶してしまっている。

われわれの経験によれば、おもにスピード・パワー系の運動(脈拍が速い)からなる種目では、「急速な」免疫不全が最も一般的だと考えることができる。

一方、持久性の優越した種目(脈拍は、より適切な速度になる)では、「遅い」免疫不全が広くみられる。とはいうものの、はっきりそうだとは言い切れない。つまり、ある選手には特定の免疫不全が起きる―そういう明確な法則性があるわけではない。

トレーニング、試合のもろもろの条件によって、また、いくつもの外的条件、内的な生理学上の理由により、いく人かの選手たちには、3タイプの免疫不全すべてがみられたのである。』

『スポーツのストレス因子による免疫不全―これは、特殊な現象である。というのは、単に免疫システムに多数の損傷が起きているだけではない。神経・内分泌系の調節機能に異変が生じ、身体を形成する栄養物(ミネラル、ビタミン、微量元素など)も足りなくなる―こうした状態であるからである。

では、予防効果を上げるにはどうすればよいか―。とくに「代償」の段階では、免疫システム調整のために、つぎのような総合薬剤を投与するのが効果的である。すなわち、適応性向上薬(アダプトゲン)、複合ビタミン、微量元素、吸収性のすぐれたタンパク質、免疫を活性化させる代謝物質、等々である。

こうした種類の予防措置、および回復措置をわれわれは「外的」調節と呼んでいる。なぜなら、そこで用いられる薬剤は、免疫システムの「環」に直接作用するわけではないからである。

おもに「吸着」メカニズムによって「急速な」免疫不全が生じているケースでは、どういう措置をとるか。そういう場合は、複合エンチームの混ざった薬剤を与えることができる。例えば、vobenzimだ。ポリ・エンチーム剤は、他の多くの薬剤に比べると、「吸着」の度合いを下げることができる。

つまり、免疫グロブリンの血液本来の要素への吸着である。この吸着が起こってしまうと、その「代償」として受容器のつながりが悪くなる。また同時に、吸着してしまったものを分離するようにうながすこともある程度可能である。われわれは、特別に実験を行って以上のことを突きとめたのである。

免疫における細胞、その他の「環」で異常が起きている場合はどうか。「外的」調節の薬剤とともに、システムに直接作用する薬を使うことができる。すなわち、免疫をつかさどる細胞と、その連携プロセスに直接作用を及ぼす薬である。その意味で、「内的」調節の薬剤と呼ぶことができる(具体的な薬剤としては、tactivinum、ミエロニド、interleukins、neuropeptide、インターフェロンその他

だが、いちばん予防効果が上がるのは、われわれ自身が開発し特許権をとった薬である。これは、その人の血液でつくる薬剤である。薬学では、薬剤を2通りに分類する。人間の身体から製造したものと、それ以外の物質からつくったものである。後者はたいへんな種類にのぼり、しかも年々増えている。

前者の数は、きわめて少ない。というのは、この方法で薬を製造しようとすると、多くの場合、非常な困難にぶつかるからである。われわれのケースでは、そのコンセプトはつぎのようなものだった。つまり、「自分の物質」(P.V.ペトロフの用語)を、すなわち、自身の細胞や組織を処方することで、身体の内的可能性を最大限動員しよう、ということである。

ウィリースは、その著書「生化学における個人差」のなかで、こう書いている。身体内の物質は、個人ごとに違いがある。タンパク質、脂肪、酵素、糖、そして、それらの変化のしかた―。これらはみな、質・量ともに、個人ごとに異なる。著者によると、こうした事情があるため、薬学のこの方面は、最も有望なものの一つだという。

実際、われわれの薬(自分の血清から製造する薬剤)は、他者から提供された血液やγ(ガンマ)-グロブリンとは違って、「感作(かんさ)」を引きおこすことがない。

したがって、何度でも用いることができる。このことは、スポーツ選手にとってはきわめて大きな意味をもつ。なぜなら、現在では重要な試合が実質的に1年中行われるからである。もうひとつ大事なのは、薬の毒性によって副作用が起きることがない。当然、ドーピングの面でも、完全にクリーンである。

われわれが、その人自身の血清を「免疫促進剤」として利用することにしたのは、つぎのような事情による。理論と実験の両面から、以下のことが裏付けられたのである。つまり、低分子のタンパク質とペプチドは、免疫システムの機能をいちじるしく促進させる、ということである。』

ドーピングの問題は、単に興奮を高めたり、筋肉を増強しようとすることから発生したものではありません。競技レベルが上がり、年々ハイレベルなトレーニングを重ねる必要性が出てきたことから、免疫機能の障害を起こし、オーバートレーニングに陥込んだり、その状態から回復しようとする、またオーバートレーニングを予防するための手段でもあったわけです。

それがいつのまにか記録を出すための魔法のクスリに変わってしまったことが原因と思われます。身体の回復を目指したことが、逆に身体を廃人に追い込むことになってしまたことは悲しいことです。

しかし、これからはトレーニング方法だけでなく、競技レベルが上がるほど疲労回復についてもっと真剣に対策を考えていく必要があります。この方面での研究が今後期待されます。

アテネオリンピックが終わって|ニュースレターNO.102

アテネオリンピックもあっという間に終わってしまいました。途中金メダルを15個獲得し、東京オリンピックでの金メダル獲得数16個をどれだけ上回れるかと期待されたのですが、結局はハンマー投げの室伏選手の繰上げ金メダル1個だけで、東京オリンピックの金メダル数を上回ることができませんでした。

今回のオリンピックでもさまざまなことが起こったわけですが、特に中国の台頭が目に付きました。以前マトヴェーエフ氏の話で紹介したように、北京オリンピックで最高の成績を上げるために、選手の派遣も北京オリンピックに向けた若手中心で編成されていました。

海外から優秀なコーチを招き、指導者教育を行い、その上で選手育成を長期にわたって実施しはじめています。このような状況は、日本でも東洋で初めてのオリンピック開催となった1964年の東京オリンピックに向けてのわが国の準備と同じものです。

4年以上も前から、海外から指導者を招いて指導者教育を行い、海外合宿や科学的研究班を設けるなど正に科学的トレーニングの始まりでありました。その成果が、金メダル16個であったわけです。

そんな努力も東京オリンピックが終わると同時に、元の経験主義的な指導に逆戻りしていったように感じます。

さて、アテネオリンピックで期待された陸上陣は、個人では振るいませんでしたが、400mリレーと1600mリレーで両種目とも4位入賞を果たしました。これは素晴らしい結果であったと思います。特に、400mリレーでは末続選手は走れていませんでしたが、朝原選手のラストの追込みはすごかったと思います。世界の大会で日本選手が追込む姿はほとんど見た事がありません。予選を含め、朝原選手の快走に拍手を送りたいと思います。

一方、期待された末続選手は、どこか傷めたところがあったのか、心配ですが、体調はよくなかったように見受けられました。スタートはそれなりに出て行くのですが、ここから加速するというところでスピードに乗れませでした。100mのレースと400mリレーの走りを見て、どうも「オーバーリーチング」状態ではなかったかと感じました。

「オーバーリーチング」とは、「オーバートレーニング」の前の段階で、「オーバートレーニング」の状態になればまったく走れない状況になるのですが、走れるようで走れない・乗っていけないのが「オーバーリーチング」の状態です。7月、8月の練習内容がわかればよいのですが、怪我がなければそのような状態であったように感じました。

アスリートの究極の目的は、オリンピックです。そこで最高のパフォーマンスを発揮するためには、長期にわたる計画的な選手の育成が必要であることはわかっているのですが、なかなか上手く実施できないのが現状のようです。そこで役立つ文献を見つけました。

お持ちのかたはもう一度読み直してください。その文献は、「Sportsmedicine 2004 No.63」に掲載されている連載(「間」の考察から運動そのものへ)で、鳴門教育大学の綿引氏、コレスポの高橋氏、そして旧東独の運動生理学者ノイマン氏との対談です。

その冒頭に、「機能システム統合モデルについて」というテーマでの話があり、その一部を紹介したいと思います。

『綿引:まずは、機能システム統合モデルの図についてお聞きしたいのですが。(図は省略) このモデルについてどのように考えたらよいでしょうか。

ノイマン:これを発表したのはいつだったのか、忘れましたが、かなり以前のことです。

綿引:私は、すでに1970年代においてこのモデルが確立されたと聞いたことがありまが、だとすると、大変な驚きです。
ノイマン:時代を先取りしていました。今日においても、この問題に複合的に着手している者はいないでしょう。私は当時から、複合的な視点を持っていました。私は専門がバイオロジーで、その意味では複雑な機能を有する「生体」を扱うわけですから、当然のことです。

綿引:人間が持っている非常に複雑な機能や構造といったものを統合的にみるための、ある種の科学的な方法論というのが、私にはなかなかイメージできないのですが。

ノイマン:私はとにかく細部に立ち入る研究・実験を行いました。ということは、「理論」というよりも「事実」、つまり「実証」なのです。この図は、それらをまとめて単純化して表しています。

綿引:しかし、まとめるということ自体が大変では。科学的な思考というか思想に裏づけられていなければならない。

ノイマン:確かにそうです。当時は「とにかくトレーニングさえやればよくなる」と考えられていました。しかし、トレーニングは単に疲労要因というだけで事足りるのではない。この超回復モデルにしても非現実そのものであり、全く機能しないのです。

高橋:非現実的で、全く機能しない? それは大変な言明ですね。どう理解したらよいのですか。

ノイマン:選手たちがトレーニングをすると、まず疲れます。そしてコーチは、疲労した生体にさらに負荷をかけます。そうすると、体内では生体が自らを守ろうとします。この守ると言うのは、適応化という形での反応です。それ自体が自動調節を行います。

このことから、コーチにとって指導上の結論は、メリハリのある負荷増加と負荷軽減のリズムをしっかり行うということです。3週間なり、あるいは3日間負荷を徐々に上げていきます。

3日間の場合、グリコーゲンが完全に回復していないため、休息を与えなければなりません。私たちは動物実験を行って、その結果からヒトに適用可能なモデルを提示していったのです。つまり、このモデルを説明すると、最初の適応化のために、4ないし6週間のトレーニングをします。そうして一定のレベルに達します。

ただし、この6週間の中でも、4ないし5日に1日は負荷軽減日が設けられていなければなりません。

高橋:このモデルでは6週間となっているのですが、なぜですか?

ノイマン:それは、何もないゼロのレベルから始めるわけではないからです。ベッドから起きてすぐにトレーニングを始めるわけでもなく、さらに、各選手のトレーニング状態が異なっていますから、4週間でも十分な選手もいるのです。

それぞれのレベルがそもそも違う、つまり、生体が他者より早く機能するとか、例えば、プロテイン合成速度と関連します。トレーニングを通して、筋内のアミノ酸交換が起きるのです。ちょっと話が複雑になってきましたが、要するに、幅があるということです。バイオロジーでは、全く個別的に取り組むことが必要なのです。

一例として、11日間の適応化があり、8日目を過ぎると心拍数が徐々に下がり始めます。つまり、最初の約1週間は運動の初期制御が起こります。すなわち、運動が負荷に合わせて変換する。その後、エネルギー貯蔵庫が拡大していく。そして、3週間後に短い休息を入れる。

そうすると、末梢筋群とともに中枢も最適化していきます。そして約1ヵ月後、免疫システムやホルモンシステム、心肺システムなどの相互調和ができあがるのです。

高橋:そういうことをシステム統合として表しているのですね。

ノイマン:そうです。私はまず、持久性負荷を基本にしていますから、器械体操や新体操などのような運動学習のトレーニングが基調である場合は、当然、違ってきます。種目によって違ってくるのです。ただし、本質的にはこうなるでしょう。器械体操選手の場合は、筋感覚などのレセプターを介するコオーディネーションのプロセスに働きかけることに、より多くの時間を費やすことになる。

とりあえず、この超回復のモデルは正しくないことは確かです。ゴミ箱入りです。つまり、これでうまくことが進むわけがない。これが正しいなら1カ月後にトップアスリートが誕生することになります。

私たちは分析目的も兼ねて、応用トレーニング研究所のエルゴメーターセンターでトライアスロンナショナルチームの診断を5年間にわたって行いました。

その結果、最大酸素摂取量は1年当たり2%増大することが確かめられ、また、有酸素と無酸素の境界に位置するラクタート2における走速度のパフォーマンスは1年にわずか1.7%の向上であることが判明しました。

これは20名の選手を対象に行った診断によるものです。つまり、安定的な適応化というのは、われわれが意図するように早く達することはないということです。それが、現在、深刻な問題として、持久系種目の世界トップ選手は28~30歳くらいであるということ。

20歳くらいで世界ジュニアを制覇した後、トップパフォーマンスを目指すトレーニングを最低3~5年実施しなければ、世界トップクラスに仲間入りすることができない。

しかも仲間入りしただけであって、そこから事実上のトップを目指すのです。これは、1年当たりの基礎的な適応化が非常にゆっくりとしか進んでいかないことに起因するのです。

綿引:ただし、現実にはこういうモデルが、まだ日本でも世界的にも支配的ですが。

ノイマン:そうです。これは旧ソ連が70年代半ばに発表したものですが、グリコーゲンのみを対象にして
いる、言わば、グリコーゲン用の超回復を単純化して表したにすぎないのです。

負荷をかけるとグリコーゲンが減少する、それで休息すると、あるいは炭水化物を摂取すると、グリコーゲンが増え元のレベルを超えるということにすぎない。

当時、このことを他の生体機能すべてに当てはまるであろうとした経験的モデルです。スポーツパフォーマンスは、グリコーゲンの要因だけで成り立つものではないのです。誰が考えても当たり前のことです。むしろ、パフォーマンスには、この中枢神経システムが大きな割合を占めている

まず、トレーニングするという意志がなければならないし、筋運動のプログラミングなどもしなければならない。

綿引:革命的ですね。

ノイマン:マイネル氏とその他の人々の間違いは、バイオロジーを一切理解しなかったことにあります。つまり、生体がトレーニングするという根本的な視点がない。その一方で現実をみれば、タレントもいなければ、それにふさわしい社会環境も整っていない。

良好なトレーニング条件もない中で、そのタレントを10年とか15年かけて指導できなければ、トップにはなれないのです。と言うわけで、このような超回復モデルのように、一面的な結論から導かれたモデルとか方法論などが氾濫しているのです。まあ、物事を組織化していくためのヒントと言う意味では役立つでしょう。

ただし注意しておきますが、マイネル氏の考え方を非難しているのではないということです。彼の推し進めた研究活動と世界的なその業績は大きく、歴史的な必然性なのです。

しかし、今日の時代変化においては、学際的な知識が求められています。その1つとして、バイオロジーの知識も必要なのです。生体反応について、例えば、マラソンをして免疫システムが過剰に負荷を強いられると、特に感染力の弱い選手などは、咳き込んだり、風邪をひきやすくなる。

こうなるとトレーニングなど不可能です。つまり、生体内にある自己防衛力への負担が過剰になっているのです。極度なストレスによる負担が免疫力を弱めるので、負荷を与える際には、この免疫システムを考慮し、代謝の状態をカタボリズムではなくアナボリズムが優勢になるようにしなければならない。

そうした理由により、現在まで多くの選手がアナボリカというドーピング剤を服用しているのです。つまり、カタボリズムから脱することができないときにこうした犯罪行為に手を染めるのです。

今ではそのチェック技術も進化しており、少なくはなってきているものの、このことが、以前はそのような行為に走る理由だったのです。すなわち、裏を返せば、回復という大切なポイントをきちんと守っていないからです。トレーニングにおける回復は、負荷と同様、あるいはそれ以上に大切なポイントなのです。

高橋:休息はそんなに大事なんですね。

ノイマン:そう、休息、すなわち回復は非常に重要です。

高橋:つまり、両者間の統合、または一体性ということですね。

ノイマン:通常、負荷増加と負荷軽減の関係は3対1のリズムで構成されます。3日間の負荷の翌日は30~50%程度の負荷に軽減して、体に休養を与えるのです。このリズムを週間単位でも構成する。つまり、3週間の間、負荷を徐々に上げていき、4週間目は徐々に下げていく。そのため、高地トレーニングなどは通常は3週間で十分です。4週間目は低地に戻るわけですから。

綿引:この休養日の負荷は詳しく言うと、どんな内容ですか。

ノイマン:最低でも30%軽減すること。つまり、負荷は実施されるが、ストレスが起きないような内容であることです。私は特にトライアスロンに携わっていますが、その日は、せいぜい1時間程度の水泳をやって終了し、その後の時間はフリーです。当初は選手自身も理解できなかったのですが、その後、定着しています。』

選手育成だけでなく、日頃のトレーニング計画にも大いに役立つ情報です。ほかにも役立つ情報が続きます。興味のある方はぜひ一読ください。