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再び乳酸について|ニュースレターNO.093

前回のニュースレターで、私の旅立ちについてお知らせしましたところ、大変多くの方々から御連絡をいただきました。これからトレーナーを目指す方、ストレングス&コンディショニングの専門科を目指す方、また現在そのような御仕事をされている方々からのメールでした。

そのような道で希望に満ちた将来を考えておられる方々のお役に立ちたいと考えていますし、その道のナンバー1の学校を作り上げたいと思っています。また、同時に陸上のトップアスリートを育てたいと思いますし、個人競技の選手も育てたいと思います。

そんな人たちが集まるアカデミーが理想です。必ず2、3年後に本当の魚住の学校を作りあげたいと思います。いつでも御気軽にお越しください。もしかして、2、3年後には入学できない状況になっているかもしれません。本物を目指す人たちであふれ返っていれば嬉しいですね。

今後本格的に学校のホームページ(http://www.heisei-iryo.ac.jp/sp-tr/)もいらっていきますので、どんどんアクセスしてください。お待ちしております。

さて、今回はトレーニング科学Vol.15 No.3 2004に掲載された「乳酸をどう考えたらいいのか」(八田秀雄)という論文を紹介したいと思います。八田氏の乳酸についての話は、以前のニュースレターにも書いた事があります(2002.01.24.Vol.39)。

そのときの内容は、「乳酸を生かしたスポーツトレーニング」(講談社)の内容を一部まとめたものでしたが、今回の論文は非常にポイントをまとめられたものであり、現場で大いに役立つものだと思いますので、図表は掲載できませんが、ほぼ全文の形で紹介したいと思います。

1.LTから血中乳酸濃度が上がることを酸素供給では説明できない

乳酸を研究テーマにするきっかけは、LT(Lactate Threshold)測定である。運動強度に対してある強度、すなわちLTになると急に血中乳酸濃度が上昇する。この場合血中乳酸濃度の上昇=乳酸産生の上昇=酸素不足であるのならば、LTから酸素摂取量がもう上昇しない、あるいは上昇が鈍くなるはずである。

ところが運動強度に対して酸素摂取量はきれいに直線的に上昇する。酸素摂取量が強鹿に対してきれいに直線的に上がるのに、乳酸はあるところから急に増える。これでは「酸素が足りないから乳酸ができてエネルギーを補う」という考え方が明らかにおかしいことになる。ここで近年では乳酸が疲労物質ではないということは、少しずつ認識されてきたように思う。

しかし疲労の原因となると、やはり乳酸だけで説明されていることがあまりに多い。簡易な分析器ができて、血中乳酸濃度を測定する方が増えてきた。ただし多くの方はやはり疲労の程度を知るという目的での利用が主であろう。乳酸は疲労の目安となるのは事実だが、疲労を乳酸だけで説明するのは最早妥当ではなくなってきている。そうしたことで、乳酸の現在の見方をまとめたい。

 

2.血中乳酸濃度の上昇は糖分解の上昇

運動強度に酸秦摂取量が比例するのに、血中乳酸濃度は運動強度に比例せずLTから急に上がるのは、どう考えてみても酸素が足りなくなるからではない。では乳酸ができることをどう説明したらいいだろう。これまで、乳酸はグリコーゲンやグルコースからできるのだが、これらの分解過程でピルビン酸ができたときに、そのままミトコンドリアで完全に酸化されるか乳酸になるのか二者択一が追られる。

そして酸素がない場合にピルピン酸が酸化されないので乳酸になる、と誰もが信じてきた。しかしこの考え方は、糖の分解が精密にコントロールされていることを前提としている。ところが実際にはそうではなくて、糖の分解は急に多くなったり少なくなったりするのである。

急に多くなるのは運動を開始したり、スパートしたときなど急に運動強度を上げたとき、またLTより上の高い強度になったときである。一方ミトコンドリアで酸素を使ってどれだけエネルギーを作るべきかは、運動強度と酸素摂取量がきれいに比例することからわかるように、精密にコントロールされている。

そこで糟分解が高まっても、ミトコンドリアの反応量はそうした変化をしないので、高まった糖分解の過剰分は乳酸になるのである。このように乳酸の産生は糖分解の高進で考えるべきである。

 

3.糖分解によって血中乳酸濃度が変化する具体例

糖分解が血中乳酸濃度を決めている例を挙げる。血中乳酸濃度はグリコーゲンが多いか少ないかの影響を受ける。筋グリコーゲンが枯渇している状況では、そうでないときと同じ運動をしていても、乳酸の産生が減り血中乳酸濃度が低くなる。また血中乳酸濃度はアドレナリン濃度と関係が深い。

アドレナリンは糖分解を高めることから、アドレナリンが多く出ると血中乳酸濃度が高くなる。LTからアドレナリンも多く出る。フルクトース(果糖)を多く摂取すると、運動をしていないのに血中乳酸濃度が上昇する。

これは果糖は解糖系の途中に入ってきて代謝されるので、果糖を多量に摂取すると解糖系の流れが盛んになり、グリコーゲン分解が高まったのと同様の状況になる。そうすると安静でも血中乳酸濃度が上がる。

また標高の高い所に行けば酸素供給は少なくなるが、高い場所に行けば行くほど血中乳酸濃度が高くなるのでは必ずしもない。高所では平地より糖分解に抑制がかかるのである。さらに乳酸パラドックスと呼ばれるように、高所馴化すると高所に行った直後に比べて血中乳酸濃度が下がってくる。

このように酸素供結の変化ではなく、糖分解の変化で血中乳酸濃度が変化する。酸素供給の変化と血中乳酸濃度の変化とが一致する状況もあるが、それは酸素供給の変化するような状況では、糖分解が変化していると解釈すべきことである。

 

4.乳酸は酸化されて利用されている

乳酸は老廃物ではなく、ピルピン酸に戻って酸化されるエネルギー源である。乳酸は糖が分解されて完全に利用される途中でできるものであるから、乳酸が酸化されて利用されることは、すなわち糖が完全に利用されることと同義である。乳酸は速筋線維で作られて、遅筋線維や心筋で酸化されるという図式ができる。つまり速筋線維のグリコーゲンを利用するのに、乳酸の形で遅筋線維や心筋への場所の移動がある、ということである。

さらに90年代半ばからは、筋線維からの乳酸の放出と取り込みに対してトランスポーター(MCT=Monocarboxylate Transporter)が関与することが明らかになってきた。MCTには何種類かあり、速筋線維にはMCT4が多く、遅筋線維や心筋にはMCT1が多い。

このことから乳酸の放出にはMCT4が関与し、取り込みにはMCT1が関与するということが示唆されている。持久的トレーニングではMCT1が増えるので、乳酸の酸化利用が高まることになる。

 

5.疲労を乳酸に結びつけすぎる

今でも血中乳酸濃度を、疲労の尺度としてみている方が多いと思う。しかし疲労=乳酸とみるのは不適当である。まず乳酸といっても、酸である乳酸(lactic acid)と塩である乳酸(lactate)を混同してはならない。乳酸ができる最初は酸の状態である。

ところが多くの場合体内ですぐにナトリウムやカリウムがついて塩になっているのである。塩であるということは、いわば中和されているということで、疲労に関係なく、有効なエネルギー源である。スポーツドリンクや病院で点滴に使われる輸液には、乳酸カルシウムや乳酸ナトリウムが多く入っている。

スポーツドリンクや点滴用の輸液が疲労を起こさないのは明らかである。持久的運動前に乳酸を飲めば、筋グリコーゲン消費を抑えられて有利になる。一方いくら乳酸が塩にすぐなるといっても、多量に乳酸ができる時には、それが追いつかないので筋内を酸性化させることになる、これが疲労の1つの原因になりうることは確かである。

ただし400m走のような非常に敵しい運動の場合でなければ、大きなpHの低下は起きてはいない。

 

6.乳酸よりもリン酸

これまで酸性になると、筋収縮が妨げられるとされてきた。といっても体内が酸性にならないようにする仕組みがさまざまあるので、せいぜいpHが6.5程度に下がるくらいである。ここで摘出筋で疲労に至るまで収縮させると、確かにpHも低下する。

ところがその後休息すると、張力はpHが元に戻るよりもかなり早く回復する。つまり、まだ筋内が醗性化しているのに、張力は元に戻る状況になる。この他、筋内の酸性化が筋収縮にはあまり悪影響はないという報告も出てきている。

酸である乳酸が疲労の原因ということが疑われてきているのである。そこで別の疲労の原因を探していくと、その有力候補としては、クレアチンリン酸の枯渇と無機リン酸やADPの蓄積が上げられている。

強度の高い運動をしていると、ATPの再合成のためにクレアチンリン酸が使われてなくなっていき、無機リン酸が増える。この無機リン酸がカルシウムとくっついてしまい、筋収縮に必要なカルシウムの働きが阻害されることで、筋収縮がうまくいかなくなる、という考え方が出てきて注目されている。

またADPやAMPも同様にカルシウムの働きを阻害するようである。ここで持久的トレーニングをすると多くの場合乳酸が前より出なくなり、また出てもより利用されるようになるので、前よりも血中乳酸濃度が低くなる。

ところが疲労困憊は筋中や血中乳酸濃度がより低いところで起こるようになる場合が多い。このことも乳酸以外で疲労困憊を考えた方がよいことを示している、疲労困憊時に乳酸はトレーニング後で少なくなっても、クレアチンリン酸が枯渇し無機リン酸やADPやAMPが増えているという点は、トレーニングしても変わらない。

このことも無機リン酸やADPやAMPが、乳酸以上に疲労に関係する可能性を示している。まだ明らかでない点は多いが、乳酸が疲労の主原因というのはかなり疑わしくなってきたのである。

 

7.疲労の主原因でないのに血中乳酸濃度を測定する意味

乳酸が疲労の主原因でないとなると、血中乳酸濃度を測定しても無意味ではないか、という質問を受けることがある。しかし運動時の糖代謝の指標として、乳酸を測定することは意義がある。つまり乳酸が多くできたということは、それだけ糖が使われているということである。

糖が使われるということは、糖の分解が高まっているということであり、脂肪の利用ではエネルギー供給が追いつかないということで、運動時の身体としてはよりシビアな状況になっているということである。

糖代謝の指標として他に測定しやすい血中グルコース濃度は、長時間運動でないと運動による変化はあまり起こさない。疲労に関係が深いと述べたADPやAMPや無機リン酸は、筋内で濃度が変化し、運動時に濃度が上昇や低下しても、運動を終われば数10秒で大きく濃度が変化する。

そこでこれらを測定するには、その筋内濃度を運動中や運動直後に測定する必要があるが、それは容易ではない。一方乳酸はリン酸の変化などに比べれば産生後の代謝が遅く、また血液に出てくる。したがって運動数10秒後の血中乳酸渡度を測ることで、筋中乳酸濃度を推定できる。

そこで血中乳酸濃度は、測定しやすい糖代謝の指標として用いるには非常に有効である。したがって、血中乳酸濃度測定の意義はある。そしてそのことから間接的に疲労の目安に利用することもできる。ただし繰り返すがあくまでそれは目安であって、乳酸が疲労を起こす主原因では必ずしもない。

これまで疲労の原因や筋肉が収縮できなくなる原因として考えられてきた乳酸ですが、それは老廃物ではなく再び筋収縮のエネルギーとして使われているということがわかっています。乳酸がたまって動けないということや、激しい運動の翌日に起こる筋肉痛についても乳酸の原因にしてきました。

筋肉痛と乳酸は無関係であることもすでに常識化されているわけですが、生理学の分野においてもまだまだ疑わしい情報もあるようです。ピンポイントの理解は、非常に多くの誤解を生むことは承知されているのですが、ある情報に深く入り込むことが多いと思います。

人の考え方・理論は否定するものではなく、「そのような考え方もあるのだ」と言うように考えられれば、一つの情報や考え方に惑わされることはありません。1本づつの木を見ながら常に森全体を見渡すことが大事なことです。

旅立ち|ニュースレターNO.092

11年間努めた大学を3月末日をもって退職いたしました。11年間片道2時間40分を通った金属疲労が出たようで、健康上の理由でやむなく退職となりました。そんな折、旧知の専門学校の理事長より、ぜひうちの校長で好きなようにやってくださいとのありがたいお声を掛けていただきました。

その専門学校は、昨年開校したところで、問題も多いのですが、これからどのような方向にも進める状況でした。自宅からも1時間ほどで通えることもあり、まさに自分の夢の実現に向かって旅立てるタイミングとなりました。そして、2004年4月1日、私は旅立ちました。

私の夢は、トレーニング、トレーナーといった職域で一般の人からプロのスポーツ選手まで、どのレベル、どの対象者に対しても、パフォーマンスの向上から健康増進、リハビリテーションにいたるまで指導できるプロフェッショナルな人材を育てることです。

また、計画的なトレーニングによって優秀な陸上選手を育てることです。もちろんその選手の最終目標はオリンピックの出場です。私自身、大学時代に陸上競技の指導からスタートし、就職してからはリハビリテーションを専門にやるようになり、大学の教員になってからは間接的にアスリートを育てるようになりました。

選手の育成において、技術指導のあり方、コンディショニングを向上させるトレーニングの指導、怪我をした時のリハビリテーションが重要であることは承知のことですが、わが国においてはこの3つの要素が上手く構成されていないことが世界で活躍できる選手が育たない原因になっていると思います。

中学、高校、大学で優秀な成績を収めた選手が20代後半まで順調に成長し、世界のトップで長く活躍できるというような現状はほとんど見られません。

その最大の原因は、長期的な育成プランがなく、怪我をした時に元通り回復しきれないからです。いろんな知識や情報は溢れるほどありますが、どれもそれを生かしきれていません。実験や研究で得られた成果が、現場の指導にフィードバックされていないのです。

研究と現場のつながりがほとんどないのが現状です。いくら素晴らしい研究をしても、結局は研究だけで終わってしまうということです。研究のための研究が余りにも多すぎるような気がします。

そこに現場の経験がどうもマッチしないようです。現場の指導者は、もっと研究の成果を冷静に判断し、それを応用するアイデアがなければ、研究成果は生かされません。スポーツの実際の現場は、研究室の実験と全く違う状況です。したがって、実験室で得られたデータをそのまま現場に100%生かすことは考えられないので、そこに応用が必要です。

また実験で得られたデータを現場で生かす際に、どれだけ長く続けられるかということも問題です。日本人は、即席の、即効性のあるものをいつも期待するように思います。私もよく質問されることですが、「何をすれば強くなれますか」と言われるように、すぐに結果を求めます。

成長期には、それこそ何をしてもレベルアップするでしょう。やればやるほどレベルアップも期待できると思います。それが今の中学や高校生に対する指導の現状であると思われます。

結果的に、そのことが競技生活のピークを迎えさせてしまったり、バーンアウトさせたりしているのです。選手を育てるための要素はたくさんあり、どれか1つだけ優れていても世界のトップには立てません。時間をかけて、年数をかけて1つずつ積み重ねていくことが必要なのです。

1つのピラミッドを建てることと同じで、基礎がしっかりしていないと、後になって傾いたり倒れたりしてしまいます。このように考えれば理解できるのですが、実際には目の前の結果だけにしか気が回らなくなっています

選手が育っていく中で、必ずどこかで怪我や障害の問題が起こります。その時に、しっかりしたリハビリテーションがなされれば良いのですが、それが十分でないために、競技人生を怪我と戦ってしまうことになったりします。これが我が国のスポーツ界の現状です。

リハビリテーションにしても、患部を治す、元通りにする事にしか目がいかないと、回復に数ヶ月かかれば、患部が治っても身体機能はレベルダウンした状態になってしまっています。傷ついたのは、患部であり、一部分であり、身体のほとんどの部分は正常なのです。

むしろ、数ヶ月のリハビリテーションの間に、コンディショニングは怪我をする前よりレベルアップして現場に復帰できるはずです。ここには、やはり創造力や応用力が必要になってきます。その期待にこたえられるプロを育てたいのです。

何よりも重要なことはトレーニング理論なのですが、そのトレーニング理論を追及する分野が我が国にはありません。不思議なことに、体育学会の中にトレーニング理論を研究する分野がありません。

これでは、研究成果を現場に活用できないはずです。きちっとしたトレーニング理論が確立されていないことが問題です。それが確立されていれば、現場での指導も誤ることはないのですが、どうもその分野に関心がないのか、十分理解されていないようです。

選手を育てるにしても、リハビリテーションを指導するにしても、基礎知識や新しい情報を応用できる柔軟な思考力を持てる人材を育成する必要があります。

そのような人は、アスリートに関わらず一般の子どもから老人まで、また障害者からプロのアスリートにいたるまで、その目的に則した適切な指導ができるはずです。そのために、私を理解してくれる若くて意欲のある、そして柔軟な頭を持つスタッフを集め、いっしょにそんな人材の育成と、世界のトップで活躍できる選手を育成することが私の夢です。

そんな基地を私の学校、「平成スポーツトレーナー専門学校(HCST)」に創りたいのです。(http://www.heisei-iryo.ac.jp/sp-tr/)

今年2年目で、ほとんど知られていない学校ですが、

私が育てます 本当のプロを!
私が鍛えます 本当のプロに!
私が育てます トップアスリートに!

をスローガンとして、トレーナー、ストレングス&コンディショニングのプロになりたい人たちが目標とするアカデミーの存在にしたいと思っています。また、特に陸上選手の育成ということにも力を注ぎたいと思います。このことは本当に私の長年の夢でした。

この道に大いなる希望をお持ちの方がおられましたら、ぜひ私のもとで力をつけてください。そして皆さんの夢をかなえるサポートができれば、本当の意味で私の夢がかないます。

夏には、トレーニングルームもトレーナールームも完成します。カリキュラムもそれにあわせて実践的なものにしていきます。私のプランの実現は、来年度の4月スタートになります。今年は、その準備の年でもあり、夢の実現のために何が必要か、一つ一つ課題を解決していくことになりそうです。いつでも気楽にお尋ねください。お待ちしております。