先日、知人から頼まれて実業団の女子長距離選手を見ることになりました。19歳で、数ヶ月前に右足首を捻挫し、それが治ったら左足が痛くなった。左足の親指と人差し指の間からすねの方に痺れのようなものを感じるということで、現在はウォーキングをしているということでした。
立った状態で脚を見ると、左脚がX脚気味に見え、脛骨が外にややO型で彎曲していました。次に長座させて、両脚を見ると、左の膝蓋骨が真っ直ぐ天井を向いておらず、内側に向いていました。さらに痺れが出るというつま先部分(親指と人差し指の間)を見ました。
痛みの原因について
このような症状は、一般的につま先の神経腫が考えられ、その原因は、中足骨等のアーチの低下で、親指と人差し指の間で体重を受けていることが考えられます。
つまり、異常体重です。この選手もその通りで、足の裏を見ると、親指と人差し指の間に化骨が形成されていました。右足首の捻挫で、かばっているうちに、左の足に体重をかけすぎたと思われますが、以前からその傾向にあったと思われます。
彼女は、中学から長距離をしているそうですが、これまで怪我の経験はありませんでした。脚の形とアライメントの不良から、これまでよく怪我をしなかったなあ、と思い、恐らく高校の練習は激しいものではなかったと思い、尋ねると、やはりそんなに熱心に練習する学校ではなかったようです。
彼女にとっては、ラッキーでした。もし、ハードにトレーニングをしていたら、すでに何度も膝やスネを故障していたと思われます。
対応の考え方
こんな場合どう対応すればよいでしょうか?
とりあえず、中足骨のアーチパッドを作りました。できれば日常、それを当てて、正常なアーチを確保することです。
次に、走りのイメージを想像する必要がありました。部屋の中なので、走らすことはできません。しかし、下肢や腰、背部など全身の筋肉のつき方や状態を触ったり、見ればランニングスタイルは想像できます。腰の左右の筋肉の緊張と盛り上がりが違ったことから、上体を捻って走ることが想像できます。
また、右足首をかばっていたために、左足に体重をかけて走っていたことから、左の中殿筋が緊張していると想像できます。したがって、左の膝蓋骨が内に向いている原因は、構造上のものか、筋肉のアンバランスのものかは、この時点で判断できないということになります。
上背部も右と左の緊張が異なることから、左右の腕振りが違うと想像できます。そして、左のつま先が外を向きすぎているために、プロネーションがあり、内側アーチが落ちた状態になっていました。母趾と中指の間で体重を支えていることから、親指というか、母趾球が浮いた状態で走っていると想像できます。
以上の問題点を解決するには、まず緊張しているところの筋の緊張を解除するところからスタートします。全身の筋の緊張が取れれば、骨格のアライメントも正常に戻されるはずです。
とりあえず、腰と左の中殿筋の緊張をとり、上背部の緊張も取りました。その後、立たせて、軽い屈伸というか、スクワット動作を繰り返しさせます。
両足を平行に開いて、膝蓋骨が真っ直ぐ、つま先方向に移動させることを筋肉に教育します。これは、膝のねじれを防ぐと共に、膝の故障を防ぐために、今後も毎日やるべきことです。
その後、その場でジャンプ・ストップをやらせました。軽く膝を曲げてから真上に飛び上がり、両足を同時にフラットについて着地する。これを繰り返します。足の3点支持の確認です。飛び上がるときに、母趾球に軽く意識をおきます。これで母趾球が浮くことを防ぐと共に、異常な中足骨への体重支持を改善することができます。このエクササイズも練習前と練習後にやるべきことです。
ここまでくれば、後は走りを治すだけです。ホームページ上で、文章での説明は難しいので、細かなことはいえませんが、ポイントは、左右対称の動きをさせること。左右同じように体重支持できるように、足の接地時間をできるだけ短い感覚にします。
言い換えれば、地面をしっかりけって走る事をさせないということです。ピッチを意識した走りということになります。テンポを速めていくことで、左右の足が同様に動くようになります。
後は、両方の足・脚が平行に動かすように筋肉、からだにインプットしていくことです。また、問題であった腕振りについても、ランニングリズムを左右対称の腕振りでリズムをとらせることと、前に持ってきた手はからだの正中線のところに、同じ高さに持ってこさせることです。
指導後の変化
以上のようなアドバイスと観察をしながら、ランニングをさせましたところ、無駄な動きが取れ、リラックスした滑らかなランニングスタイルになりました。脚も左右平行に動くようになり、痛みや痺れもまったくなくなりました。何ヶ月ぶりかで、気持ちの良い30分のランニングだったようです。
長く走りすぎると、悪い癖というか、動きが出てくる危険性があるので、短い時間に分けて、1日数回ずつ繰り返していくことです。この結果は、痛みや痺れが出ない動きで走ったためであり、以前は痛みや痺れが出る動きで走っていたと考えられます。
このあたりのことが、室内での痛みの治療だけで解決できない問題があり、動きを見る、修正することで問題解決する場合が多々あるという例ではないかと思います。
この選手も、いろんな治療には通っていたようですが、単なる痛みの治療では解決できなかったということですし、練習も毎日ウォーキングを繰り返すだけで、これも良くあることですが、走りに問題があれば、ウォーキングをしても意味はなく、正しい走りを覚える・筋肉を教育するために、走らなければならないということです。