2000年 10月 の投稿一覧

シドニーパラリンピック|ニュースレターNO.009

シドニーオリンピックが終わって一息ついたころ、先週から身体障害者のオリンピックであるパラリンピックが始まりました。私は大学を出てから、身体障害者スポーツセンターに20年間勤務していたことから、バルセロナパラリンピックに卓球の監督として参加したことがあります。

しかし、今日ほど、パラリンピックが大々的に取り上げられたことはありませんでした。それも新聞のスポーツ欄に大きく取り上げられることなどなかったはずです。

このように大きく報道で取り上げられるようになったのも、長野で冬季パラリンピックがあり、人々に大きな感動を与えたからだと思います。毎日、新聞に載るパラリンピックの結果は、先の健常者のオリンピックと異なり、日本選手が大活躍しています。

 

パラリンピックについて

健常者では勝てないが、障害者のスポーツレベルは非常に高いということです。また、先日の新聞にマスターズ陸上で95歳の男性が槍投げで世界記録を出したと載っていました。記録は13メートル台であったと思います。日本のマスターズの選手も陸上や水泳で沢山の世界記録を出して活躍しています。

それなのに一般の選手だけが世界に追いつけないでいると言う不思議な現象が日本では見られます。

何が違うのでしょうか。努力の差でしょうか。みんな必死で練習をしていると思うのですが、障害者の場合、基本的にはきっちり仕事をしながら、練習をしている人たちがほとんどです。練習をするだけで給料をもらうというようなセミプロのような選手はほとんどいません。

一般のオリンピック選手達のように恵まれた環境ではけっしてありません。障害に負けない、障害に打ち勝つ努力を苦しいリハビリテーションの段階でやってきているのです。それがリハビリテーションの延長の中で、競技に出会うわけです。

そうするとスポーツができる・出来たことの喜びがあり、あとひとつ、もう一段、もっと、もっと、さらに、さらに・・・・と、挑戦し続けるようになるのでしょう。そこには耐える苦しみより、やれた・やれると言う喜びと自信のほうが大きいわけです。

 

自信が生まれる理由

そしてできる・やれると言う自信が生まれたときに、国内の大会や世界の大会があり、それに参加できた感動から、最終的に健常者の競技者と同じようにオリンピックが目標になるのです。ここまで経過すると、揺るぎのない自信とオリンピックチャンピオンになるんだという強い目標が生まれるのです。

ハンディを克服してきた強い精神力が、本番で100%以上の力を出し切ることができるのです。この点が一般のオリンピック選手達と異なるところです。物怖じしない、強い精神力を兼ね備えた選手がハンディキャップをもった選手には多いように感じます。

そして、明るさも持っています。ハンディキャップを負ったときの暗さは、死を考えることにつながりかねないのですが、競技会に参加できるようになった段階ではそんなことはすっかり消えてなくなっています。私自身、障害者の国内・国外の国際大会やオリンピックを実際に見てきたわけですが、そこには人間の限りない能力を感じずにいられません。人間は自分達が想像もつかないことができる能力をみんなが持っているのです。

全盲の人が100mを真っ直ぐ走ったり、フルマラソンを2時間台で走ったり、また走り幅跳や三段跳をすると言うことだけでもすごいことなのです。私も20年間そんな障害者の世界でスポーツの指導をしてきたわけですが、健常者ももっと素直に努力を重ねる必要があると感じています。

すぐに効く薬のような練習やトレーニングなんてあるはずがありません。そんな薬があるのなら、みんなが同じように強くなるはずです。チャンピオンへの道は、一段ずつ階段を上っていくようではありますが、実際には登山道のように登っては少し下り、また登っては少し下ることを繰り返しながら徐々に頂上へと登っていくものです。けっして直線的には登れないのです。急げば急ぐほど、落下したり・滑り落ちる危険性を含んでいるのです。

我々指導者は、ときには選手の道先案内人になったり、ときには選手の後ろからライトで道を照らしてやるといったことをしてやらなくてはいけません。

しかし、それよりも大事なことは、どのルートを登ればよいか、その選手にあったルートの選択と、登頂までのプランニングをすることです。そのためには、選手の能力や現状、将来性など、あらゆるデータを把握しなければいけません。本当に細かなプランニングが必要だと言うことです。このことは、トレーニングに関わらず、リハビリテーションについてもいえることです。「教科書通り」なんてことは、ありえません。

パラリンピックを見ていて、「地道な努力、コツコツと、ひとつひとつ」と言う言葉が頭に浮かびます。努力することの大切さ、積み重ねることの大切さを再確認した思いです。

シドニーオリンピック観戦記-その2|ニュースレターNO.008

オリンピックが終わって10日以上たちました。時間の経過は早いものです。今も印象に残っていると言うか、残像として残っているのは、シンクロと新体操です。シンクロの演技、迫力には圧倒されました。何度見ても感動します。あれだけ8人の選手の動きをそろえることは、しかも水中であることを考えれば素晴らしいとしか言いようがありません。まさに世界一の演技であったと思います。

井村コーチの指導力を称えるほかないでしょう。選手の努力もそうですが、指導者にパーフェクトの演技を追及する執念が感じられました。長く銅メダルレベルから抜け出せないデータ日本のシンクロから抜け出し、世界チャンピオンを目指し続けさせたモチベーションが素晴らしいのでしょう。

あのような演技が出来たのも、1日8時間以上の練習に絶えられる、また躍動感をもたらせる体力の養成を平行して行ったことにあるのだと思います。井村コーチは、シンクロを単に水中で演技するものではなく、競技としてとらえ、選手には競技者としての身体づくりの必要性を訴えておられました。

そのことは選手たちの身体を見ればわかります。肉体を作り上げた体型・体力になっていました。これも素晴らしいことです。いかなる競技も、そのベースは体力づくりにあるのです。

世界チャンピオンに届く差は、ごく僅かなものです。それはどこにあるのでしょうか。

私は、これも後少し、縦に伸びた体型が出来上がればと考えています。8人がほぼ同じ体型になることが理想ですが、日本で、シンクロで、同じ体型、体力、能力のものを8名集めることは非常に難しいと考えられます。それに、1つ気になったのは、肌が黒く見える選手が一人いたことです。

如何にシンクロされた動きに見せるかということになれば、何とか考えられなかったのかなとも思ったりします。それほど金と銀の差は見た目の僅差ではなかったでしょうか。

 

新体操について

体型の素晴らしさからすると、新体操の団体競技でした。これまで世界のトップレベルに入れずにいたのは、何よりも日本人的体型の選手が多かったことです。技の前に、演技をする前に、見た目が大きく採点に影響する競技です。それが、今回のオリンピックでは、日本チームが登場してきたときに、自分の目を疑いました。

まさか日本の選手が入ってきたとは考えられないほど、外国人(?)の体型をしていました。そこには演技の前に、上位にランクされて採点される雰囲気がありました。そして演技のほうも素晴らしく、これも感動ものでした。調和の美しさが感じとれました。体格・体型に恵まれれば、日本の女子選手も世界チャンピオンに近づけると思いました。

シンクロと新体操の選手を見ていて、日本の女性もこのレベルにこれるのだ、とつくづく感心したとともに、体力づくりの重要性を指導者が十分認識されていることに嬉しくもありました。

他の競技の指導者も、目先の試合や結果にこだわらず、素晴らしい体力の持ち主として世界で戦っていける選手を育てて欲しいものです。能力・技術の差は、ほとんどありません。器用性・巧緻性は日本人の最も優位な特性なのです。後は体格、体力の差だけなのですが、なぜ未だに気づいて、認識しないのでしょうか。解っているとしても中途半端な取り組みにしかなっていないと思います。

体格は生まれつきのものでもあり、急に変えられるものではありませんので、大いに変える事のできる体力トレーニングにもっと取り組んで欲しいものです。それも、長い目で見ながら、相撲の世界はまさにそれではないでしょうか。

 

自転車競技について

最後に、新しい発見がありました。それは、自転車競技です。自転車の世界では、特に競輪学校なんかでは、大腿四頭筋を太くすることが、自転車を速く走らせることになると考えており、太ももの太さを自慢することが多いようです。

しかし、今回自転車競技をじっくり見ていると、そのことに疑問が湧いてきました。外国選手のペダリングを見ていると大腿四頭筋を使っているようには見えません。それは、膝が完全に伸びないことと、ペダルが膝よりも前に行かない、そしてペダリングが下方への踏み込み動作だからです。つまり、ペダリングは股関節の伸展によって行われることになります。

レース中の、前方からの映像で見ると、ペダルを押しこむ時に、大腿四頭筋の緊張があまり見られないのです。そして、横からの映像を見ると一目瞭然で、股関節の伸展動作が目立ちます。選手の体型も、大腿四頭筋より、殿筋の飛び出しのほうが目立ちます。まさにスプリンターと同じです。日本選手がついていけないのも、そのあたりにあるのかもしれません。意識ポイントの違いです。

一度股関節の伸展を意識したペダリングを試してみてはどうでしょうか。きっと面白い成果がみられると思います。自転車の選手のトレーニングに大いに参考になるものでした。

今回は、うまく時間が取れたので、いろんな競技を見ながら、メモをとりました。この他にもいろんな競技で新しい発見やこんなトレーニングをしたら良いなあ・・など、学ぶことの多いオリンピックでした。皆さんも感じとったことや疑問が残ったことがあればいろいろ聞かせてください。

追伸:以前グリーンとジョンソンの対決で、なぜ両者に肉離れが起こったのかという話を紹介しましたが、今回陸上の4x100mリレーに出場した末續選手が準決勝で起こした肉離れは、正にそれと同じ状況だったと思いました。あれもやはり緊張によるマグネシウムなどのミネラル不足でしょう。